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ファウスト交響曲

サー・ゲオルグ・ショルティ指揮/シカゴ交響楽団/ジークフリート・イェルサレム(T)[DECCA]
サー・サイモン・ラトル指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団[EMI]
ジュゼッペ・シノーポリ指揮/ドレスデン・シュターツカペレ[DG]
ダニエル・バレンボイム指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/プラシド・ドミンゴ (T)[Teldec]
レナード・バーンスタイン指揮/ボストン交響楽団/ケネス・リーゲル(T)[DG]
アンタル・ドラティ指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団/ラヨシュ・コズマ[Philips]
リッカルド・ムーティ指揮/フィラデルフィア管弦楽団[EMI]

 最近、シノーポリの演奏を聴いてから、リストの《ファウスト交響曲》にはまってます。今まではそれほど興味のあった作品ではなかったのに... (^^;。まるで初めてクラシックに目覚めた中学生みたいに、毎日毎日こればっかり聴いています。

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 今まで聴いていたのはショルティ/CSO の演奏で、これはそれこそ完成度が高く、まるでチャイコフスキーの管弦楽曲を聴いているみたいでした。チャイコフスキーと違うのはその演奏時間で、70 分弱かかります。長さだけ言えばマーラーやブルックナーに匹敵するほどですが、マーラーのように緻密に激しく変化していく音楽ではなく、ある一定の主題をいつまでも何回も展開している曲という意味で、シューベルトの《グレート》のような曲という印象がありました。シューベルトよりはオーケストラ的な技巧が面白いので (チャイコフスキーっぽいと思うほどですから)、《グレート》ほど「取り留めのないほどの長大さ」は感じませんが、それでも幾分かの単調さは感じていました。ショルティのストレートで強靱な演奏が、良くも悪くも作用しているようです。この曲の音楽はワーグナー的な要素がたっぷりなのですが、ワーグナーを得意としたショルティの演奏からはその印象を受けないのは興味深いことです。

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 次に聴いたのはラトル/BPO 盤でしたが、ショルティ盤よりかっちょええ度は増しましたが、曲の印象を覆すほどでは無し。今聴いてもダイナミックで良い演奏ですが、ラトルにしてはやや切れ味が鈍いかと思います。終幕のテノールもビブラートかけすぎの歌い方がいまいち嫌いです (^^;。

sinopoli_faust.jpg  次に (といっても数年のブランクの後) 聴いたのが、問題のシノーポリ/ドレスデン盤。オケこそ CSO や BPO ほどパワフルではありませんが、逆にそれが幸いしてか、音楽の説話的な部分とか、凝りに凝ったオーケストレーションなど、新しい発見がぼろぼろ見つかり、この曲に対しての興味を俄然かき立ててくれました。特に 2 楽章の室内楽的な叙情性など実に瑞々しく、シノーポリのたくい稀なバランス感覚に久しぶりに酔わせていただきました。3 楽章の主部に入る部分での 6/8 拍子を強調したりと、この曲の異形な部分を的確に描き出す目配せの良さも光ります。終末の合唱の部分は、シノーポリらしくマーラーとの関連性のなかで聴こえてきます (マーラーの 8 番も『ファウスト』の同じ詩ですので)。私にとってこの演奏は、この曲に立体感と奥行きをもたらせてくれました。

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 次に聴きましたのがバレンボイム盤です。バレンボイムのやり方は、まるでワーグナーの楽劇を相手にしているかのような演奏でした。これまでに聴いたどの《ファウスト交響曲》とも違う語り口で驚きました。オケの、重量級でしかもエッヂのある音がまずワーグナーしています。テンポの作り方もまるでオペラチックで、緩急の付け方が深く細かく、主題が良く唄うこと。どのパッセージにも演劇的な意味が深く刻み込まれているように思われます。重くズシンとくるアクセントや金管の咆吼があるかとおもえば、《ジークフリート》の「森のささやき」も現われるなど、ダイナミックさやヒロイックさではピカイチ。シノーポリの室内楽的に凝縮された音楽とは正反対の造りです。

 2 楽章など、まかり間違えば《トリスタンとイゾルデ》とも思える盛り上がり方をしますが、すっかりワーグナー化してしまわずに、リスト的な見通しの良さも保持しています。終末の合唱もワーグナー的ですが (ドミンゴが歌い出すとさらに ^^;)、ワーグナー演奏よりは端正にまとめており、わりとタイトな表現になっています。全般的に、ワーグナー的な世界観でスケール感を出しつつも、完全にワーグナーにはしない。似ているようで違っているというあたりを突いた演奏です。

 ワーグナー的な曲解釈とともに特徴的なのは、ブラームス的とでも言えるほどのカッチリした曲作りです。終楽章、特に終末の合唱へ向かうクライマックスなどでは、ブラームスほどでは無いものの、つい力が入ってしまうようなリズム感などブラームスの激しい部分に一脈通じるものを感じます。楔を打ち込むようなアクセントや、執拗なオスティナート、計算されたリズムの変化など、ブラームスで萌える部分が流れ込んで来ているようです。音響的にも、弦楽器群がガッシリと明瞭に聴こえるのも一躍買っているでしょう。ヴァイオリンが対向配置されている御陰で、ユニゾンやオクターブで動くことが多い 1,2 ヴァイオリンにも、広がり感が出たように思えます。また、アウフタクトはちょっと前に出して次の音とセパレートするとか、長い音符の後に短い音符が来るとき句点を付けるとかの、オーケストラ演奏独特のイディオムもはっきりと意識できる演奏で、メリハリのあるアンサンブルが楽しめます。

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 最後に、巷での評価の高いバーンスタイン/BSO 盤を聴きました。これもロマンチシズムの極地と言うべき激しい演奏でしたが、バレンボイムを聴いた後は、かなりエグく感じました。それこそまるで彼の《悲愴》を聴いているよう。逆にバーンスタインを聴き慣れた人ならバレンボイムはぬくく感じるかもしれません。一般的な《ファウスト交響曲》のツボから外れたことをやっている演奏だと思うのですが、それでこれほどにも強烈な印象を与えるのですから、成功する表現とそうでないものの差は一体何なのか考えさせられる演奏でもあります。特に第 2 部『グレートヒェン』の密度の高い表現には舌を巻きます。部分的にはマーラー 6 番の柔らかい部分に接近しているように聴こえます。この楽章だけでも聴く価値は十分にあるでしょう。また終楽章の開始部から暫くの間展開されるメフィストフェレスの主題(ファウストの主題を変奏したもの)を、弦楽器のアム・シュテーク(駒の近くを弾くことで、鼻に掛かったような堅い音にする)で演奏させていたりするのもバーンスタイン的でしょう。ブラームス的焦躁感はこの演奏が一番のようです。楽譜を無視したダイナミクスやピッコロのオクターブ上げなどもありますが、これもまた効果を上げています。どうせなら、ほぼユニゾンで歌われる終末の合唱にも、さりげなく和声を付けたりしてくれれば面白かったのですが...。使用している版もこの演奏は興味深いです。詳細は割愛しますが、第 1 部でのティンパニーのリズムが違っていたり、第 2 部の最後にある木管アンサンブルが 12 小節長かったりしています。基本的には Breitkopf 版を使っているようですが、この辺だけ Eulenburg 版です。第 2 部の長いバージョンはこの演奏でしか聴けないと思うので、そういう意味でも貴重です。

 いろんな音源を紹介したかったので日記風な書き方になりましたが (^^;、いかがだったでしょうか。この中でどれが一番かと言われればバレンボイム盤を推しますが、この曲は演奏者毎にかなり違った様相を呈しますので、ひとつの演奏に拘泥せず、色々な演奏の違いを楽しむのがオツではないかと思います。

2004.4.1

2008.3.27 付記
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 買い逃していた盤を最近買いました。ドラティ指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管です。1982年の録音。これまたかなり毛色の違う演奏です。最初はチャイコフスキーっぽく聞こえたので、ハンガリー系の指揮者はこうなのかと思いましたが、がっちりとしてキビキビとした演奏が展開されて行くや、その印象は吹っ飛びました。メリハリがはっきりしており、そのためならば楽譜の指示も豪快に無視する怪演(?)。p なのに f くらいの音を出したり、ディミヌエンドなのに粘ったクレッシェンドに変えたり。最初聞いたときは、スコアが気になって、なかなか先に進めませんでした。リストが思っていたのと違う結果になるわけですが、あまり目くじらを立てるような変更ではなく、こういうのもありかなと思わせる、演奏の流れからして頷ける変更でした。また、私的にはこちらがこの演奏の目玉ではないかと思うのですが、Eulenburg 版準拠の古い版を用いて演奏しています。冒頭の Lento assai の後の、Allegro impetuoso でヴィオラの対旋律が無いとか、トロンボーンが吹いてないところがあるとか、ティンパニのリズムパターンが違うとか、目立つ違いがいくつかあり、バーンスタイン版でその一部は聴けましたが、完全なのは初めて聴きました。第 2 部終わり近くの 12 小節も演奏されています。それ以外にも Eulenburg 版にもない弦楽器の刻みとか、あり得ないティンパニのロールとか、一番最後の部分で旋律線をなぞるトランペットとか、さらに違う版を使っているのか、それともドラティがやったことなのか (多分前者なのではと思いますが)。本筋とは違う楽しみですが、間違い探しみたいで面白かったです。あと、特筆すべきは最後の声楽入りの部分でしょう。ちょっと早めの演奏ですが、実に格好いい。これほど充実している「終幕の合唱」は始めて聴きました。マーラーの 2 番を思い出します。録音も 1 月のライヴのためか咳をしている人が多いですが、エッヂの効いた三次元的な音で悪くありません。ただし低域に量感がもうちょっと欲しいところ。

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 ムーティ/フィラデルフィア管の演奏 (1983年)。バレンボイム盤が一番だと思っていましたが、こちらが決定打ですね。異様なほどテンションが高く煌びやかで、魅力的な演奏です。ワーグナー的、チャイコフスキー的などという場合でなく、ムーティ的としか言いようが無く、歌うべきところ、鳴らすべきところ、突っ込むところ、押さえるところを完全にコントロールしながらも、常にアジテーションしている。あのスコアの全ての音が "美味しい旋律" として鳴り響き、丁寧すぎる展開のため飽きてしまうという曲の弱点を、まったく感じさせません。75 分超の曲なのに、体感的には 45 分くらいに思えます。ミキシングが優秀なのかもしれませが、動機が積み重なっている部分でも細かい音が強調されており、その分音楽の密度が高くなり、他では味わえない聴き応えとなっております。ゴージャスなサウンドに耳を取られ、説話的な内容ではどうだったかちっとも覚えていませんが (なんせ常にテンションが高いもので)、そんなこどどうでも良いという内容なのがまた凄いところかもしれません。ただし、「終幕の合唱」は非凡な出来。テノールのエスタ・ヴィンベルイも、あまり発音の仕方が好きになりません。録音は EMI サウンドで、こもり気味、分離や定位悪く、残響は入っているものの広がり感も足りません。まあでも、そのような欠点を補って余りある演奏には違いありません。


補足:版の問題
 この曲のスコアで一般的に入手しやすいのはオイレンブルグ版ですが、これはちょっと古いと思われる (スコアに年が書いてないので断定できません。こういうところがあるので、私はオイレンブルグを信用できません) 版で、お持ちの方は、恐らく演奏と違う箇所がいくつかあることにお気づきになったことでしょう。一般的な演奏に一致するのは 1861 年に出版されたブライトコプフ版ですが、今では出版されていません。しかしそのリプリントがドーヴァーより 2003 年に出ました。Dover phoenix editions というハード・カヴァーのシリーズで、かなりお高いですが (日本だと多分 1 万円程度)、半信半疑で取り寄せてみたらこれがドンピシャリでした。

 この曲の初演は 1852 年で、その後改訂されたものを 1861 年にハンス・フォン・ビューローが再演しています。出版もこの年で、つまりドーヴァー版は初版のリプリントのはずです。ではオイレンブルグ版はなんなのか? 版自体はこれより後のものとなりますが、内容もさらに新しい改訂版かというとそうは思えない。1857 年に付け加えられた「終末の合唱」はあるので、その当時の資料によるものなのか、でなければ 1852 年初演時のスコアに「終末の合唱」を加えたもののような気がします。当時著作権や版面権の考えがどの程度のものだったか判りませんが、オイレンブルグ版にはそういう "著作権逃れ" 的な妙な版が存在するので、これもそのようなもののひとつなのかと、想像するところです。


Dover なら Amazon が安いです。$65 のスコアがなぜこの値段?!

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2005年6月16日 11:29

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