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マーラー:交響曲第 10 番(バルシャイ版), 5 番/バルシャイ [BRILLIANT]
交響曲第 10 番(バルシャイ補筆完成版)
交響曲第 5 番
ルドルフ・バルシャイ指揮
ユンゲ・ドイチェ・フィル
BRILLIANT BRL-92205
第 10 番は 2001 年 9 月 12 日、ベルリン、コンツェルトハウスにてライヴ収録。第 5 番は 1999 年、ベルリン、フィルハーモニーにて録音。
マーラーの交響曲第 10 番というと一般的にはクック版ということになるでしょうが、それ以外にもマゼッティ版、カーペンター版、フィーラー版などがあり (1 楽章だけなら、全集版というもっともストイックなものもありますね)、クック版でも稿の違いや指揮者による変更などもあるという状況で、つまるところ決定打というものが無いというところが現状です。私もいくつか持っていますが、「これがマーラーなのか?」という疑問符が常に付きまとい、フラストレーションが溜まる一方でした。次々と違う版が出てくるということは、作り手側も同じ思いなのでしょうね。聴き手側も、さらなる満足感を得るために新しい版を求めるという、マッチポンプ的枯渇感を形成する訳です。全曲を一度でも聴いたことのある人なら、たとえ他人により補筆されているとしても、根底には十分魅力的なマーラーの音楽が脈打っているということを感じ取れるでしょうから、それを出来るだけ理想的な形で聴きたいという誘惑は強くなるのです。そんな中で、自身も作曲家であり指揮者でもあるバルシャイによる補筆版が出ました。バルシャイというとショスタコーヴィチとの関係が目立ちますが、マーラーの演奏経験も豊富だそうですし、ショスタコーヴィチも 1942 年に 10 番の補筆完成を依頼されていることもあり、なにやら因縁めいたものを感じなくもありません。
第 1 楽章は、オーケストレーションもマーラーの手によってかなり完成していたこともあり、バルシャイ版でもクック版などと同様、マーラーならきっと埋めたであろう総譜上の空白を何らかの音で埋めている程度です。それでも耳新しい対旋律などが聴かれますが、クック版よりさらに控え目で馴染んでいるように思えます。基本的にはマーラーの書いたものを出来る限り尊重しようという姿勢に思えます。
第 2 楽章以降耳に付くのはそこかしこに登場する打楽器群です。グロッケン、シロフォン、ルーテ(ムチ)、シンバル、トライアングル、マリンバ、ベル、ゴング、カスタネット、ウッドブロック、タムタム、小太鼓、大太鼓、チェレスタ。それにギターも出てきます。確かにマーラーが自作で使用した楽器ですが、ちょっと過剰ではないか。使い方があまりにもマーラーライクを逸脱しているように思えます。クック版を聴くと 2 楽章は「角笛」を強く印象づけるオーケストレーションが施されていて、私は「ちょっと先祖帰りしすぎではないか」と強く違和感を感じていましたが、バルシャイ版はそこまで色濃く「角笛」カラーを出していないので、なかなか気持ちよく聴けました。「角笛」カラーが出てくると、どうしても 9 番の後の作品とは思えなくなるのです。クック版ではかなりヒンデミットしている 1 小節もあるのですが、それも解消されていてさらに関心。全体的に混沌としていて緩急のメリハリが弱い感じもしますが、それは演奏の問題かもしれません。ただしコーダに出てくるトムトムは頂けません。伴奏に R. シュトラウス的なヘミオラが出てくるなど面白い処理がされているコーダですが、この辺はクック版の方がマーラー的に思えます。
第 3 楽章は A-B-A'-coda という構造で、A' の部分以外はマーラーによってかなりオーケストレーションされているということなので、1 楽章並みにマーラーの書いた音楽が聴ける楽章です。問題は A' の部分で、クック版のように単純に A の素材を流用しただけではマーラーらしくありません。バルシャイ版はある程度 A の部分を流用しつつ、部分的に楽器を変えて変化を付けていますが、大手術というほどではありません。軽微な補筆で、あくまでもマーラーの書いたものを尊重しているということでしょう。
第 4 楽章以降はマーラーによるスコア化はされてなく、パーティセルという4〜5 段の楽譜に曲の大まかなスケッチがあるだけになります。つまりピアノ曲をオーケストラに編曲するようなもので、それだけ編曲者のセンスが問われて来るわけです。それでも音楽が途中までしか完成していないとか、抜けている小節があるとかいうことは無いようで (かなり音の薄い部分はあるようですが)、とりあえず最後まで曲が続いているのは救いです。
第 4 楽章はクック版で聴くと《大地の歌》のデ・ジャ・ヴュ感が強く、「角笛の後は大地かよ!」とやっぱりどことなくちぐはぐ感を感じていたのですが、バルシャイ版では《大地の歌》感はほぼ消え、テーマの引用という程度のマーラーらしい状態に落ち着かせることに成功しています。曲の雰囲気的には 9 番のスケルツォに近く、10 番としてあり得そうな音響を出しています (天上的な雰囲気も聴かせるし、それと地獄的なものとの対比もマーラーっぽい)。2 楽章の R. シュトラウス的ヘミオラも顔を出し、加筆部分に対するこだわりも感じます。後半は結構ごちゃごちゃしたオーケストレーションになっており、音楽的な焦点 (感情面でのドラマ性) が散漫になっているように思えます。それとやはり打楽器が活躍しすぎる部分があって、マーラーライクを逸脱しているように思えます。コーダ部分は思いっ切りショスタコーヴィチしていますが、ま、これはもともとこういう音楽なのでしょう。
第 5 楽章冒頭の特徴的な大太鼓ですが、マーラーがインスピレーションを得たときの状況を再現するためか舞台裏で叩かれているように聞こえます (メインの大太鼓は下手側にありますが、この部分の大太鼓は上手側奥から聞こえます)。舞台裏で叩くということは、もちろんマーラーでは大いにあり得ますね。終楽章では対位法的書法が希薄になっており、きっとマーラーならもっと書き込んだであろうと私は想像する訳ですが、この枯れた雰囲気も味わい深いものになっています。第 1 楽章の再現が来るクライマックスの部分まではクック版に近いオーケストレーションですが、スケルツォ的な部分に入る前の部分をかなり盛り上げるなど、より劇的な音楽になるように加筆されており、さながら 9 番の終楽章のように分厚く鳴らしまくるよう。1 楽章の再現が終わった後、クック版では木管アンサンブルで清楚な雰囲気になりますが、バルシャイはここからひたすら弦楽アンサンブルで分厚く盛り上げます。9 番や 3 番の終楽章を聴いているような充実感はありますが、クック版のような「白鳥の歌」的惜別感は薄れています。もっともこれは演奏解釈の範疇かもしれませんが。この辺はもう好みの問題になるでしょう。
ユンゲ・ドイチェ・フィルはドイツの音楽学校の学生からなるオーケストラで、私はこの CD で初めて演奏を聴きましたが、実に上手いですね。とても学生さんとは思えません。ライヴ録音ですがほとんどキズも無く、演奏も安定しています。音楽性も高く、その辺のプロオケより確実にいい音をだしています。
バルシャイの演奏は、特に感情に溺れることなく必要なことを必要なだけやるといった感じの演奏ですが、オーケストラを見事にリードして積極的に音を出させることで、実に雄弁なマーラー像をうち立てています。ハイティンクのような職人的指揮者に感じますが、かっちりとした音楽の中にも、マーラーの音楽に重要である音の勢いも十分兼ね備えており、巧い人なんだなぁと感心させられました。不覚にもショスタコーヴィチ指揮者としか認識がありませんでしたが、マーラー指揮者としての彼にも注目したいと思いました。
録音は、やや不安定な部分もありますが、直接音、間接音ともに不足無く、耳コピーするにも困らないほど情報量の多いものでした。ただし、2 楽章で金管( Trp. Trb. )の音に不自然で耳障りなディレイがかかっています。また 5 楽章の後半部分に、アナログ・レコードのスクラッチノイズのようなパチパチ音 (電気的ノイズ?) が暫く聞かれます。
私見ですが、バルシャイの補筆完成版はクック版に匹敵するかそれ以上の完成度を持っていると思いました。評判の高かったマゼッティ版ですら、今聴き返すと、補筆部分は取って付けたような印象がどうしても拭えません。それから比べるとバルシャイ版はクック版の良い部分を生かしながら、尚かつマーラーが 9 番の後に作ったであろう作品という部分で、さらに一歩踏み込んだ補筆と思えます。ただしバルシャイ版には、過剰な打楽器という問題点もあります。この打楽器を何とか出来たら、この版がスタンダードになっても良いと思います。またはブーレーズ版を待つかですね。
もしマーラーがもう 1 年くらい長生きしていたらきっと全曲完成していたことでしょうが、その 1 年の過程は我々にとっては 100 年経っても到達できないものであるということを、10 番の全曲を聴く度に、ことらさ実感します。
2004.1.30
この CD はバルシャイ補完の 10 番がメインなのだろうと、そちらばかり聴いていましたが、5 番もかなり良いです。ユンゲ・ドイチェ・フィル上手すぎます。アンサンブル・レベルが高く、年に 3 回集まるだけの学生オケとはとても思えません。在日のプロオケより確実にいい音出しています。音色もドイツ風なガッチリして風格漂う渋めな音を基本としながらも、良い意味で若々しく張りと透明感のある音で、手垢で汚れていないクセのない音が魅力的です。トランペットがときたまヘコッてましたが (^^;。
5 番でのバルシャイの役割はかなり控え目なように思えました。ラトルのような、オケをドライブして荒波だった音楽をするマーラーばりの曲作りとは正反対で、テンポを守りバランスをまとめ自然に流れ出す音楽を目指しているご様子。それでも退屈な音楽になっていないのは、バルシャイのバランス感覚の良さがオケの高い実力を十分に引き出しているからでしょう。ま、もうちょっとドラマを作ってくれても良いとは思いますが。
1,2 楽章はかなり重量級な曲作りですが、ねちっこくなく、どちらかと言うとあっさりしています。「重くあっさり」という相反するものが同居している感覚、判りますかねぇ。発音は重く激しいですが、粘らず抜けが良いです。テンポもかなりインテンポな感じで、引きずるような感じはありません。バロック風ゴシック様式とでもいいましょうか。タッカのリズムの八分音符をバロック風に後ろに引っ張ように演奏しており、マーラーが望んだアーティキュレーションをその通り実践しているようなところにも、そういったこだわりが観れます。
3 楽章は若干テンポが遅いように感じますが、このテンポは一瞬、第 1 交響曲のスケルツォを思い起こさせます。テンポの緩急の幅が狭く、基本的に中間部に活躍する "ブラ2" 風旋律のテンポが全曲に浸透しているようです。ドラマ性は抑えられていますが、音楽は活き活きとしており、やはりこの楽章でもロマン派というよりバロック風な演奏に思えました。
4 楽章は、小節線を跨ぐ部分で音楽を引き伸ばし、ためらいがちに曲を進めるというロマンティックな解釈はありがちですが、バルシャイの演奏はかえって突っ込みがちに次のフレーズに入って行くといった解釈を聴かせます。これはスコアを見て貰うと判るのですが、マーラーはフレーズの区切りを’のマークではっきりと指示しており、それに従うと小節線の位置ではブレスを入れる訳にいかなくなるのを明確に音にしているためでしょう。このため古典的でスッキリした味わいのアダージェットになっています。
終楽章も若干遅めのテンポでかっちりした音作りをしており、やはりゴシック・バロック風の構築美を重視した演奏に思えます。豪華堅牢で見事な大伽藍ではありますが、私の耳には幾分退屈な解釈に思えました。しかしコーダは素晴らしかったです。遅めのテンポでスタートしてじわじわじわじわとアッチェレしつつエネルギーを解放していく様は、第 3 交響曲終楽章のコーダのような神々しい充実感を味わえました。
録音は 10 番とかなり毛色の違う音響で (そもそも違う会社から発売されていた音源ですので)、音像はややぼやけ残響過多な音になっています。それでも透明感のある音ですし芯も感じられるので、CD-R 盤のようなとんでもないような音ではありません。マスターリング・エンジニアが 10 番と同じ人なので、音の傾向は近づけてあるのでしょう。ただし時たま DSP のスイッチをプツッと切ったように残響音がなくなり生音だけになることがあるのは何故でしょう。アンプが壊れたのかと思いました。
バルシャイのバロック風な曲作りには好き嫌いがあるかもしれませんが(5 番の特徴を煎じ詰めた結果バロックに行き着くのは十分ありなので私は気に入っていますが)、ユンゲ・ドイチェ・フィルの熱演も嬉しいほど聴こえてきますので、とても聴き応えのある 5 番だと思います。はっきし言って 10 番より聴く機会が多いかも。
2004.2.12
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2004年2月12日 11:29
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