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ショスタコーヴィチ:《アイネ・クライネ・シンフォニー》
「アイネ・クライネ・シンフォニー」ハ長調 op. 49a
室内交響曲 ハ短調 op. 110a
弦と木管のための交響曲 ヘ長調 op. 73a
ルドルフ・バルシャイ指揮
水戸室内管弦楽団
SONY SRCR 1675
バルシャイは、以前にコラムでも書きましたように、超廉価なショスタコーヴィチ交響曲全集を出したことで有名になりましたが、それ以前は《室内交響曲》の編曲者として知られていました。《室内交響曲》とは、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を弦楽アンサンブル用に編曲したものです。
バルシャイはモスクワ音楽院でショスタコーヴィチに作曲を学びましたが、バルシャイがモスクワ室内管弦楽団を組織したとき、ショスタコーヴィチの第 8 弦楽四重奏曲を弦楽合奏に編曲し演奏、それがショスタコーヴィチからも高く評価されました。このことに気を良くしてか、またショスタコーヴィチの「3,4,8,10 番は室内オーケストラ向き」という発言も受けて、3,4,10 番も室内オーケストラ用に編曲し、今では自演盤も含み数種類の音盤があります(DG より出ていた自演盤がお薦めですが残念ながら廃盤の模様)。
ちなみに、この CD に収録されている op. 110a は 8 番、op. 73a は 3 番の編曲です。で、なによりもこの CD の目玉は 1 番を編曲した op. 49a《アイネ・クライネ・シンフォニー》です。水戸室内管弦楽団のショスタコーヴィチ没後二十周年記念演奏会に客演したバルシャイは、その出会いに感銘し、水戸芸術館館長の吉田秀和氏と水戸室内管に、この《アイネ・クライネ・シンフォニー》を捧げました。世界初演&世界初録音ということになります。で、たぶん現在この曲が聴けるのはこの CD しかないと思います。
第 1 弦楽四重奏曲はちょうど第 5 交響曲の後に作曲されましたが、堂々としてゴリ押し的迫力が炸裂する第 5 交響曲と違い、その反動なのか、第 1 弦楽四重奏曲は繊細で瑞々しく若さに溢れた作品です。この作品から第 1 楽章を無くすと第 6 交響曲のフォルムが浮かび上がってくるのも、何かしらの関連性を想像させます。バルシャイの編曲は、弦楽四重奏の雰囲気を上手く保っており、さらにコントラバスによる低域方向の伸びによりスケール感もアップしています。四重奏に比べるとナイーブさは減ってしまいますが、牧歌的な長閑(のどか)さがいっそう印象的になり、終楽章の狂喜乱舞も第 6 交響曲へ繋がる勢いでパワーアップしています。水戸室内管の演奏も、この CD に収録された 3 曲のうち最も見事で、デリカシーと情熱が高次元でバランスした気持ちのいい演奏です。
次の《室内交響曲》は、バルシャイの編曲もののうちで最もポピュラーな作品で、演奏会や CD で数多く取り上げられています。ショスタコーヴィチのアナグラム [D S (Es) C H] の 4 つの音を使った主要主題と、自作を含む数多くの引用、全編を覆い尽くす死のイメージ( 4 楽章の 四分音符 3 つからなるリズムは、KGB が来たから気を付けろという意味で机を 3 回ノックする暗黙の信号という)、第 10 交響曲に匹敵する凶暴なスケルツォと、後期交響曲にお馴染みの作風で、もともと大編成に相応しい内容なだけに弦楽アンサンブルによる演奏効果も目覚ましいものがあります。水戸室内管の演奏は、同じくバルシャイ自演盤である DG のモスクワ室内管より小編成のようで、スケール感こそ劣る部分があるもののアンサンブルの明瞭度が高く、奏者の表情が生々しく伝わってくる、四重奏と弦楽合奏の良いとこ取りのような演奏です。にしてはあまり積極性が感じられる演奏ではなく、これはバルシャイのキャラクターなのかもしれませんが、安全運転すぎてこの曲の面白みが半減しているように感じます。特に 2 楽章の凶暴なスケルツォは、エマーソン四重奏団の方が、4 人だけで演奏しているというのに破壊力や迫力を遥に感じてしまいます。
第 3 弦楽四重奏曲は、第 9 交響曲の後に作られた作品で、全 5 楽章の構成は第 8, 9 交響曲と類似しています。第 1 楽章が脳天気に始まるあたりや曲のスタイルなど第 9 交響曲を連想させる部分は多いですが、交響曲に聴かれるようなシニカルさは無く、真剣にまじめに、ストレートにぶつけてきている作品だと思います。バルシャイはこの曲を《弦と木管のための交響曲》のタイトルの通り、弦楽合奏に木管(とハープとチェレスタも)を加えた編成にしました。木管が演奏する部分は実に見事に編曲されており、初めから木管の曲として作られたんじゃないかと思えるほど馴染んではいるのですが、もともと弦楽器だけで完結している曲にわざわざ木管を足すという行為が私には蛇足に思えて仕方ありません。まあ第 4 弦楽四重奏曲を編曲した op. 83a は金管と打楽器まで入っているので、それに比べればまだましですが。演奏は、アンサンブルとしては見事なのですが、全体にまったりとしており、1 楽章の溌刺としたところや 2, 3 楽章の推進力などがいまいち積極性に欠け、完成度が高い割に物足りない演奏です。勢いとしては、ヨーロッパ室内管の方がありました。もうちょっとテンポを上げて欲しかったな。
今回は曲目解説が主体になってしまいましたが、ショスタコーヴィチ好きでもなければなかなかここまで手が伸びないかなと思い、交響曲との関連性を中心に書かせていただきました。演奏としては、もっともっと優等生的な演奏を想像していたのですが、かなり健闘しており、あと一歩冒険してくれればそれこそ凄い演奏になったのではと思いますが、これは四重奏の名演と比較して聴くからこんなネガティブな印象を受けたのかもしれません。ともかくここに収録されている曲は、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全 15 曲の中でも最も親しみ易く人気が高い曲ですので、良く知らないという方は、この辺から入門されるのも良いかと思います。いきなりエマーソンの全集を買っても良いですけどね。
2002.8.23 初掲
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ショスタコーヴィチ: アイネ・クライネ・シンフォニー, 室内交響曲
2005年2月28日 16:43
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