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バルトーク:中国の不思議な役人 (2000年完全版) [HM]

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バルトーク:
舞踊組曲 Sz.77
4 つの管弦楽曲 op.12, Sz.51
中国の不思議な役人 op.19, Sz.73

デイヴィッド・ロバートソン指揮
リヨン国立管弦楽団
harmonia mundi HMC 901777

 ラトル/ベルリン po. のマーラー 5 番を書くつもりでしたが、音源が間に合わなかったので、私の中ではいまが旬 (^^; のネタである《中国の不思議な役人》の新版の話題です。バルトークが続いてしまうことをお許し下さい。興味の無い方はさようなら。

 上記 CD の《中国の不思議な役人》は 2000 年に復元されたオリジナル・バージョンによって演奏されています。《中国の不思議な役人》はそのエロ・グロ的内容から、1926 年のケルンでの初演、27 年のプラハでの上演がされたのみで、本国ブダペストでの初演は何度も当局に妨害されてきたという作品です。バルトークは仕方なく、オーケストラ単独の演奏会で演奏出来るよう、物語の前半部分から作られた《演奏会版》を編纂、まずそちらを出版します。

 何回か計画されたブダペスト初演のなかで、1931 年に計画されたブダペスト歌劇場での上演では、アパートメントの室内という設定が野外に変更され、役人殺害にマクラもなし、シャンデリアに吊されることも、それが落ちることも無しと、シナリオの問題箇所に徹底的に朱が入れられ、音楽もそれに合わせ細かくカットがなされました。結局その上演も流れてしまい、舞台版のブダペスト上演はバルトークの死後となります。1955 年に全曲版スコアが出版される際に、出版社はどうやら 1931 年のブダペスト歌劇場での臨時カットをそのまま採用してしまったようで、現在まで一般的に演奏されていたものは、その "カット版" ということです。作曲者の次男ペーテル・バルトーク氏は、そのカット部分を復元し、また従来の出版譜にあったミスの修正も施した新版を 2000 年に発表いたしました。それに基づいた演奏がこのロバートソンの CD に収められているのです。ちなみに新版のスコアには、オリジナルのシナリオも復刻されています。

 さて肝心のカット部分ですが、ちょうど役人をマクラで窒息死させようとする場面からになります。1〜2 小節くらいの細かい単位でのカットがあちこちされており、合わせると全部で 30 小節あまり。即席のカットらしく剃刀で切り取ったように鋭利に削ぎ取り、前後を繋げていたことが判ります。オーケストレーションが手直しされている部分もあり、復元版を聴いていると「あれトロンボーンのグリサンドがない」なんて部分もあります。音楽的には、カットされた部分は繰り返し楽句や経過句などで、そんなに印象の変わる部分はありません。かえって従来版を聞き慣れた耳には、構成に締まりが無くなったと聴こえなくもないでしょう。《かかしの王子》にも同様のカット版がありますが、《かかしの王子》ではカットのあるなしで印象が随分変わりますので、それよりは控えめなカットだったといえます。《かかしの王子》の場合、スコアにはカットの位置と結合の方法が示されているので、カットの有る無しどちらでの演奏も可能ですが、新版の《中国の不思議な役人》のスコアではそういう配慮はなく、いわゆる従来の版での演奏は不可能にされています。これは従来の版を否定する強烈なメッセージであり、版選択の自由は有るとは思いますが、新しい版による演奏がこれからは一般的になるのだろうと思います。(その後判った話によると、現在演奏譜はこの新版しか無いようです。この作品は PD (著作権切れ) なので旧版を自前で用意すれば演奏は可能ですが、オフィシャルには旧版は完全に葬り去られたと言えるでしょう。)

 新版のスコアには付録として終幕部分の初期バージョンというのも収録されています。バルトークは終幕部分を全面的に書き直しており、ブダペスト歌劇場での不本意なカットと違い、この終幕部に関しては新しい方の楽譜を使うよう出版社に求めています(一般的に聴ける終幕部の音楽がそれです)。もちろんロバートソンもその初期バージョンの終幕は使っていません。何でもかんでも初期バージョンを採用する物珍しいだけのスノッブ趣味ではなく、バルトークの望んだ作品の姿に忠実に従っているといえるでしょう。しかしながらこのオリジナル・エンディング、100 小節ほどあって興味がありましたので、MIDI にしてみました。MIDIの嗜好で公開してますので、興味があったら聴いてみて下さい。動機などは最終的なバージョンとほぼ同じですが、中間のソステヌートの部分が随分違っており、音調的は《かかしの王子》を彷彿とさせます。

 ロバートソン/リヨン国立管の演奏は、ショルティやドラティのような土俗的な土臭さ人間臭さは少なく、フランス風といいますか、音の立上りが柔らかな、極端に言うと幾分ネットリして気だるくまとわりつくような音調です。オケも個々奏者の名人芸ぶりはそれほど目を引かず、《役人》でのクラリネット・ソロなども楽譜通り以上のものは聴かれません。しかし、ソロでは大した魅力を発揮していないのにアンサンブルでは実に際立った演奏を繰り広げており、聴こえるべき音が効果的なバランスで聴こえ、まとまりが良いです。そのようなオケでありながらも、音色が明るくハキハキ聴こえるのは、ロバートソンの特質なのでしょう。暗い音のバルトークは多いですが、私の好みとしては、こういう明るいバルトークの方が好きです。

 《舞踊組曲》では綺麗すぎる気もしますが、リズム感など悪くはない演奏です。全体を途切れなくアタッカで繋げている点も好感がもてました。《4 つの管弦楽曲》はドビュッシー・ラヴェル風な音調が特徴的な作品ですが、流石に良い雰囲気の演奏をします。音楽があまり立ってない感じもありますが、それでもこの CD の中では出色な演奏と思います。《中国の不思議な役人》は、前半は表現や演奏の精度にムラがありますが、中盤の追いかけっこ以降は集中度も増し、良くなります。全体的な演奏レベルは高く、そつの無い洗練された演奏なのですが、抜きん出た特徴も無いのも確かです。演奏内容が充実している割には情動に大して訴えかけない感じなのです。たまたま今の私に合ってないだけかもしれませんが。あと、曲全体で 1 トラックなのも不便です。それでも《中国の不思議な役人》の決定的にお薦めできる CD というのも無いので、この CD のアドバンテージは決して低くないと思います。名演というよりは秀演。版の興味を抜きにしても充分価値有る一枚だと思います。mundi の録音も素晴らしく、優秀録音な《役人》としてオーディオ的にも価値があります。

2002.10.12

《中国の不思議な役人》新版と旧版の比較はこちらのページをご覧下さい。

《中国の不思議な役人》新版と旧版の比較
《中国の不思議な役人》旧版スコアのさらなる問題点

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2002年10月12日 11:29

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