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バルトーク:弦楽四重奏曲全集/エマーソン Q. [DG]
弦楽四重奏曲全集
エマーソン弦楽四重奏団
DG 423 657-2/p>
私の大愛聴盤を紹介しますが、果たしてこの作品の認知度がどの程度なのか計りかねます。バルトーク好きと自称するなら、この作品を知らぬは恥じですが、一般的なクラシック・ファンにとってはどうなのか。今回は「知らない」人向けに〈作品への誘い編〉として書かせてもらいます。
20 世紀の作曲家で弦楽四重奏曲を重要なレパートリーとしていた人は多くありません。シェーンベルクなどの新ウィーン学派とまとめて称される方々は、重要な作品を残しはしましたが、ライフワークの如く生涯に渡って書き続けた訳ではないし、ラヴェルやドヴュッシーなどは、実験的に書いてはみたもののやはり自分の筆に合わないと判断してか、それぞれ 1 曲ずつ、孤独に存在するのみです。そんな中でバルトークは、彼の音楽史上のターニングポイントと評価される局面局面で弦楽四重奏曲を作曲、芸術性の結晶化と新たなる実験を弦楽四重奏というフォーマットに盛り込み、6 曲という数ではありますが、ベートーヴェンの 16 曲に匹敵する豊かな作品世界を作り出しました。あとこれに匹敵するのはショスタコーヴィチの 15 曲くらいでしょう。
ベートーヴェンは敷居が高い、ショスタコーヴィチは取っつきにくいと、この辺の美味しい作品になかなか手が出せないでいるあなた。手始めにバルトークを聴いてみるということは悪くない選択です。実は私自身そうして聴いてきました。弦楽器の機能性を 120% 活かしきった音響世界は、弦楽四重奏の豊かな可能性に驚くでしょうし、不協和音を使ったバーバリズムに燃え、民俗的な舞曲に熱くなれること必至です。民俗音楽的といっても、コダーイのように無邪気なものではなく、変調によって十二音的にしたり多調的に扱ったりと、西洋音楽のテクニックが根深く入り込んでおり、東洋音楽のプリミティブな力強さや表現力をさらに西洋音楽の形式感や統一法で緊密に統合するというやり方で、部分的に民俗音楽を引用したような作品とは一線を隔しています。
といって、いきなり 1 番の冒頭から聴き始めるとやはり面食らってしまうかもしれません。ここはひとつ、取っつきやすい部分から集中的に聴いてみるといいでしょう。1 番なら 3 楽章、2 番の 2 楽章、3 番の第 2 部、4 番の 4,5 楽章、5 番の 3 楽章、6 番の 2,3 楽章。この辺は民俗色が強かったりリズミックだったりと、外面的効果だけでも面白い部分です。その辺の面白さを発見できたなら、徐々に全曲聴いてまいりましょう。
1 番の 1 楽章は二重フーガで始まります。フーガ、フガート、カノンはバルトークの作品で特徴的で(特にカノンはバルトーク音楽の根本原理)、その線的な流れを追うだけでも充実した音楽的体験が出来ます。和声的にはワーグナーの影響が色濃く、バルトーク流のロマン性を感じます。中間部トリオの導入にあるチェロによる力強い 5 度の重音は特に印象的です(エマーソンの演奏では、若干濁ってますが)。3 楽章は 2 楽章の枠組み主題を発展させた暴力的な舞曲で、その推進力を一度体験したら、バルトークから抜けられないこと必至です。同様な野蛮なオスティナートは 2 番の 2 楽章にもあります。2 番の両端楽章も実に興味深い音楽ですが、通り一遍の解説じゃ伝えきれないので、あとに挙げる参考文献で自分で勉強して下さい。
バルトークの 6 曲の弦楽四重奏曲の中で、もっとも前衛的(実験的)なのが 3 番です。不協和音の集中砲火にあうのですが、その中にもハンガリー的 5 音音階があったりで、旋法のぶつかり合いによる不協和は心地よいものと思えるでしょう。第 2 部は野蛮な舞曲ですが、民謡的性格が強くなり、明るく力強いものになっています。特殊奏法も多く出てきて、後半では、音形が徐々に溶解し最終的にはグリサンドになってしまうのなど面白いと思います。コーダではビオラとチェロの下行グリサンドでカノンをしてしまうなど、アイディアといい、音響効果といい、斬新です。
3 番と核分裂のようにして生まれてきたのが 4 番です。バルトークは良くコインの裏表のような作品を同時期に産み落としますが、3 番と 4 番も同じ関係で、ほぼ 10 年スパンで弦楽四重奏曲を作ってきたバルトークとしては、約 1 年の間で 2 曲の弦楽四重奏曲とは異例な事でしょう。4 番は 3 番ほどラジカルな作品ではなく、半音階的な密集度は高いですが、形式的安定感は強く、音楽的にも安定した印象を受けます。ベルクの《抒情組曲》の影響が濃い動的な 2 楽章では、チェロの重音ピチカートのグリサンドなども聴かれます。バレル・オルガン調の長いハーモニーのなか、綿々と唄われる嘆歌が印象的な静的な 3 楽章。2 楽章の弱音器を付けた半音階主題を、ピチカートによる全音階に広げた、リズミカルな 4 楽章。ここでのピチカートは楽章全編に渡り、バルトークピチカートも登場します。パワフルなシンコペーションで突き進む 5 楽章は、その力量感では全曲随一と思います。
5 番は 4 番をさらに円熟させたような作品で、2, 4 楽章でバルトーク特有の "夜の音楽" が現れます。3 楽章はブルガリア風の複合拍子を持つ舞曲。アンサンブル難易度はかなり高いでしょう。あと面白い部分は、5 楽章の再現部で半音階の音楽がばく進している最中、突如音楽を中断して出てくるイ長調の単純な旋律。これは同楽章の主要主題の "変調" していない形で、いわば自作の種明かしをしているのです。が、この旋律も後半で半音高く変調されてしまい、つい笑ってしまいます。
6 番は、"メスト" という悲しみの音楽が全楽章の冒頭に付いており、終楽章は全てメストに覆い尽くされるという構造です。アメリカ亡命を決心した、祖国への別れの音楽でもあるわけですが、1 楽章の第 2 主題が変形される過程で、ドヴォルザークの《新世界より》が一瞬響くようにも聴こえます。3 楽章のブルレッタはグロテスクでユーモラスな曲で、馬鹿笑いのあとの主題に第 2 Vn. が微分音で音をぶつけるなど辛辣な表現が多いです。その主題が後半で再現されるところでは、そっくりそのままピチカートで再現されており、ピチカートのグリサンドなどその徹底した表現に凄みすら感じます。
さてもうここまで読んでいる人は居ないんじゃないかというほど長くなりましたが (^^;、肝心なエマーソンの演奏に触れてません。名だたる有名な団体が残した歴史的名盤も多いですが、現代的感覚に溢れたエマーソンの演奏は、バルトークの切れ味やリズム感の良さを最もストレートに表現できていると思います。6 番のメストなど、もうちょっと含蓄のある表現があると良いですが、彼らの若々しいパワーも魅力的で、古典として埃に埋もれてない、いつまでも斬新さを忘れない演奏です。彼らはバルトーク全曲演奏会なども行っており、バルトークの音楽が肉体に染みついているような、体から沸き立つような演奏をします。曲中のユーモアがしゃれているのも、それだけの余裕があるためでしょう。
まだまだ書き足りないのではありますが、参考文献を挙げて終わりにします。この本は私の雑文のように気軽には読めないものですが、実際の音楽に根ざした分析と独りよがりにならない解釈、ベートーヴェンや同時代の作曲家からの影響や民俗音楽研究による成果など、バルトークの室内楽を深く理解するのに大いに役立ちます。音楽用語に暗くなければ、読むのにはそれほど苦労しないでしょう。しかしバルトーク、ベートーヴェン、シェーンベルク、ベルクなどの作品が頭で鳴らせる程度の音楽体験はあった方が良いかもしれません。
参考文献
バルトークの室内楽曲 ヤーノシュ・カールパーティ著、江原 望/伊東信宏 訳 法政大学出版局
2002.10.4
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Bartok: Six String Quartets [FROM US]
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2002年10月 4日 11:29
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トラックバック時刻: 2005年10月20日 18:21

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