« オルフ:カルミナ・ブラーナ/ラトル [EMI] | カバーページ | シノーポリ私的ディスコグラフィ Part 2 »
バルトーク:ピアノ協奏曲全集/ブーレーズ [DG]
ピアノ協奏曲全集 (No. 1〜3)
ピエール・ブーレーズ指揮
第 1 番:クリスティアン・ツィマーマン(p)、シカゴ交響楽団
第 2 番:レイフ=オヴェ・アンスネス(p)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
第 3 番:エレーヌ・グリモー(p)、ロンドン交響楽団
DG 00289 477 5330
ブーレーズの DG へのバルトーク録音も、おそらくこれで完結でしょう。これまではシカゴ交響楽団と組んで録音していましたが、このピアノ協奏曲全集ではそれぞれの曲でオーケストラとソリストを変えて録音するという贅沢な企画となっています。それともアーティストのスケジュールも過密ですから、3 曲とも同じオケとソリストで録音する方が贅沢なのかもしれませんね。どちらにせよ 3 曲ともライヴ録音ではなく、ちゃんと録音用のセッションを行っているので (ブーレーズはライヴ録音嫌い?)、やっぱり贅沢は贅沢でしょう。「バルトークのピアノ協奏曲は彼の作品の頂点を成すものだ。これらの作品への言及無しには 20 世紀音楽を語ることは出来ない」というブーレーズの言葉が載っており、ブーレーズのこの作品に対する思い入れの深さを感じます。では、実際の演奏はどうでしょうか。
そもそもピアニストでありピアノの事を知り尽くしていたバルトークは、ピアノ協奏曲を書くにあたってオーケストラとピアノのソノリティの質的な違い (オーケストラは持続的に旋律を奏でられるが、ピアノは音を出した途端に減衰するしかない) を解決する必要があると考えました。そこでバルトークが出した解決策は、ピアノを打楽器として使う書法。この作品でのピアノは、徹底的に高度な打楽器として扱われています。オケも打楽器的で、旋律も旋律線というよりは短い動機の展開ばかり。それだけに、よりシンフォニックな技法が要求される難易度の高い作品になりましたが、それを助けてくれるのが民俗音楽。民俗音楽の複雑でありながら原始的なリズムを作品に持ち込むことで、音楽に力強さと親しみやすさが兼ね備わったのです。
それだけに演奏もリズムが重要で、民俗的な力強さを表現できれば大成功。しかしながら、高度な技巧もふんだんに盛り込んであるので、リズムだけに固執して演奏できるものでもありません。またブーレーズは正確なリズムを刻むのですが、それが活き活きとしているかというとそうでも無いように思います。で、今回の録音でいうと、狙いなのかどうかはさておき、リズムによる原始的な興奮の要素を剥ぎ取った形の演奏になっています。そうすると露わになるのは、シンフォニックな構造。勢いで突き進んでいく雰囲気重視型の演奏と違い、ちょっと距離を置いた冷静な演奏のなかから、密度の高い音楽が聴こえてきます。勢いにまかせた演奏だと、ダイナミクスの指示を無視してガンガン吹いてしまったりするのですが、ブーレーズはきっちりとダイナミクスを守らせ、スタンドプレー的な見せ場を作ることを許しません。一見した派手さは抑えられますが、バルトークのダイナミクスの指示を守ることで他の稜線も聴こえ、緻密なカノンなどが浮き彫りにされるという訳です。大暴れしない演奏なので面白みに欠けることは確かで、聴き手を選ぶ演奏かもしれません。
軽く個々の演奏の特徴にも触れたいと思います。まずはツィマーマン/シカゴ響の第 1 番。2001年12月 シカゴ、オーケストラ・ホールでの録音。この曲は数年前、ポリーニ(p)/ロンドン交響楽団との演奏が NHK で放送されたので、この組み合わせで録音されるのかと思っていましたが、この時の放送では演奏精度が悪くキズも多かったのであまり期待できないように思っていました。ところが録音は全然違う組み合わせ。ポリーニのソロで聴きたかった気もしますので、まぁ良かったのか悪かったのか。
ツィマーマン/シカゴ響との演奏は、ロンドン響で散見された危なっかしい部分は皆無、実に安定した完成度の高い演奏を展開しています。録音も、明瞭さを意識したためだと思うのですがかなりオンマイクにしており、楽音の細かい動きもかなりしっかり聞こえます。しかしそのためホールトーンによる全体的な雰囲気は損なわれている感じ。ま、オーケストラホールでのライヴ録音ならこの程度の音響になるので、聴けないというほどではないですし、よくよく聴けば長めのホールトーンも感じられます。
この演奏で一番特徴的だと思ったのは、金管楽器の配置です。全ての金管楽器が舞台上手側に集まっています。何か音楽的な効果を狙ってかと、色々考えながらスコアを見ていましたが、それらしい部分は見あたりませんでした。この曲は打楽器が結構場所をとるので、そのためホルンが右に追いやられてしまったのかもしれません。ロンドン響のときは特に片方に寄せた配置にはしていませんでした。録音上はピアノがやや左、打楽器がティンパニを中央にしてそこから左翼に展開するので、金管が全て右側にあってもバランス的に違和感は感じませんでした。
2 番のアンスネス/ベルリン po. は 2003年2月 ベルリン、フィルハーモニーでの録音。この演奏も 1 番の演奏と特徴は似ています。1 番以上にオンマイクでとらえられており、スタジオ録音かと思うほど。打楽器の音でなんとか奥行きを感じられる程度。1 楽章で 1,2 フルートが交互にトリルを吹く部分がありますが(1'54")、左右での掛け合いとして録られており、効果としては面白いですが、ちょっとあり得ない音響だと思いました。
1 楽章で度々出てくる金管のカノンによるファンファーレ (《火の鳥》の終曲の主題の早廻し) は、音に煌びやかさが無く、かなりナロウな感じ。ダイナミクスとしては f の指示なので、余裕のある音がしなくてはならずその点では正しいですが、それでももうちょっと派手さが欲しい。音量的にはちゃんと出ているのですが、全般的に淡々とした感じの演奏で、ベルリンならもっとはみ出した演奏も可能でしょうが、ブーレーズはこういうメカニカルな演奏を望んだのでしょう。二兎を追うものは一兎をも獲ずと、納得すべきか。
このブーレーズのスタイルが功を奏するのが 2 楽章の中間部 Prest パートで、妥協のないテンポのなか複雑に絡むカノンや刻々と変わる曲想が、時計の歯車のように黙々と協調しながらアクロバティックに進んでいくところです。これだけ完璧な演奏は滅多に聴けるものではないでしょう。2 楽章では、その前後の Adagio パートに聴かれる弦楽器のノン・ヴィブラートのコラールも美しいです。3 楽章も凄い演奏には違いないのですが、やはりどことなく行儀の良い演奏で、血が燃えたぎるような内側から沸き立つエネルギーがもうちょっと欲しいところ。金管のファンファーレもやはり行儀が良い。バルトークのスコアも爆音を要求はしていませんが、幅広い輝きが見えて欲しい部分でしょう。録音でもうちょっと変わりそうな気もしますが。
3 番のグリモー/ロンドン響は 2004年10月 ロンドン、ジャーウッド・ホールでの録音。曲調の関係か、適当な距離感をもった奥行きのある録音で安心して聴いていられます。演奏も伸び伸びとしており、ピアノのタッチなども楽しめます。ま、これは演奏云々というより曲の違いが大きいでしょう。前 2 曲に比べオーケストレーションが薄く透明感の高い曲ですが、ブーレーズの演奏は、それでも密度が高く感じます。これは細かい部分もきっちり聴かせているからなのですが、ややもすると未完成なのかと思わせる薄さは感じられず、充実して説得力ある演奏を聴かせてくれます。終楽章に Tibor Serly による加筆がしてある 94 年版を使用。他の曲も、おそらく新版による演奏です。
演奏内容より録音の方に残念感を感じるディスクでした。特にベルリン・フィルとの 2 番が、ベルリンらしい音がしていないと感じます。折角 3 つのオケを使い分けているのですから、それぞれの特色を活かした音造りをして頂きたかった。私は自分用に音をいじった CD を作って、楽しんでいます (^^;。また演奏的には、扇情的な演奏が好みの方はこのディスクは合わないでしょう。ま、ブーレーズにそういう演奏を求める人はいないと思いますが。
2005年2月 4日 12:15
この記事はどうでしたか? Bad ← 1 2 3 4 5 → Good
評定平均:(2.8) 投票人数:(471)
« オルフ:カルミナ・ブラーナ/ラトル [EMI] | カバーページ | シノーポリ私的ディスコグラフィ Part 2 »
トラックバック
トラックバックスパム防止のため、末尾の XXXXXXXXX 部分を上記画像の数字に置き換えてからご利用ください。お手数ですがご協力よろしくお願いいたします。
トラックバックが反映するまで時間がかかるかもしれませんし、エラーが出ても受け取れているかもしれません。重複トラックバックはこちらで削除しますので、特にコメントは不要です。
このリストは、次のエントリーを参照しています: バルトーク:ピアノ協奏曲全集/ブーレーズ [DG]:
» BARTOK/The Piano Concertos from おやぢの部屋
BARTÓK
The Piano Concertos
Zimerman, Andsnes, Grimaud(Pf)
... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年2月12日 23:01
コメント(11)
投稿者 jurassic : 2005年2月12日 23:08
正直どう捉えたら良い演奏かかなり迷いましたねぇ。最初はもっと辛口に書いていたのですが、「ひょっとしてシンフォニーかも」と考えたら結構耳に入るようになりましたので、このような書き方になりました。そもそもブーレーズのバルトーク(新録)は《かかし王子》《4 つの管弦楽曲》《ヴァイオリン協奏曲》以外は評価出来ないと思っております。jurassic さんの blog で旧録の評価を聞けて参考になります。
投稿者 渡辺純一 : 2005年2月14日 00:20
細かい指摘ですみません。第3番ですが
> 終楽章に Tibor Serly による加筆がしてある 94 年版を使用。
ではなくて、もともとの45年版(?)自体が終結部17小節分のオーケストレーションがTibor Serlyによって補われていたのを、次男のピーター・バルトークが94年に改訂したのではなかったかと思います。老婆心ながら。
投稿者 重箱ですが : 2006年2月 5日 22:17
楽しいコメントをいつも楽しく拝見しています。
さて、ブーレーズのバルトークのDGへの録音はこれが最後では、とおっしゃっていますが、おととしのいつだったかのレコード芸術誌で、ヴィオラ協奏曲とヴァイオリン協奏曲の第1番の録音を終えたとのニュースを読んだ記憶があります。楽しみにしているのですが。
投稿者 春の鳥 : 2006年2月 6日 16:25
>重箱ですがさん
そうですね、Selry が 94年版に関わっている訳無いですよね。何か勘違いしていたようです。大友直人氏の同曲の CD に、94年改訂版初録音で、これは最後 17 小節のオーケストレーションに加筆してあり音が豊かになっているなどという解説があったもので、ごっちゃになったかもしれません。ご指摘ありがとうございます。私はこの曲、94年版しかスコアを持ってないので、新版でどう加筆されたのか詳しく知りたいところですが、Publisher's Note には音の変更については言及されてません。
>春の鳥さん
ヴィオラ協奏曲とヴァイオリン協奏曲の第1番も録音済みですか。それは朗報です。ヴィオラ協奏曲はレコーディングが少ないし、やはりどうしても音楽的な弱さを感じます。ブーレーズがどう料理しているか楽しみです。しかし Grammophon のサイトへ行ってもまだ発売予定は無いようですね。ブーレーズはマーラーの 2 番が 5 月という情報しかありません。おっと関係ないですが、バーンスタインのショスタコーヴィチ 6&9 番が DVD で出る〜。これは楽しみ。
投稿者 渡辺純一 : 2006年2月 6日 18:27
以前別の記事にコメントさせていただいた者です。
単なる感想ですが、ブーレーズも以前の切れ味が落ちた感じですね。第1番第3楽章冒頭など弦の刻みに微かな斑がありますが、最近の別の映像を見ると彼の振り方のむらに起因しているような気がします。全体的な響きの透明さも'60〜'70年代と比べるとどこかいまいちです。ただツィメルマンの細部まで考え抜いて細かい対照をつけた演奏は(好みかどうかは別にして)ちょっと驚きですが。
第2番は録音前後に同じ組み合わせで実演がありましたが、それの放送録音を聞くと(解釈の骨子は同じでも)バランスも表情付けも全然違い、遥かに生き生きとしていました。でも、こういうソリッドで細かく音を組み直した録音を望んだのはブーレーズ自身なのでしょう。CBS時代のNYPとの《火の鳥》にも、3台のハープの音を左右と中央に割り振ったりという細工があります。(《ダフニス》にも。)バルトークの《管弦楽のための協奏曲》に至ってはオーケストラを環状に配置して4チャンネル録音するということすらやっていました。
因みに私が好みのバルトークの協奏曲録音は、オランダの作曲家・ピアニストのTheo Bruinsの放送録音集(AC Classics)です。1番から順にエルネスト・ブール、ブーレーズ、アサートンが振っていてオーケストラも収録年もばらばらですが、ピアニストの頭の良さと俊敏さゆえに3番など全く安易に叙情に流れず、(1,2番と違う曲想の曲として演奏している)他のあらゆる演奏が"間違って"聞こえるようになりました。
蛇足続きですが、バルトークのヴァイオリン協奏曲他のソリストは(以前のDGGの情報では)クレーメルとバシュメットです。
投稿者 M. F. : 2006年4月11日 11:21
>M. F. さん
私はあまり昔のブーレーズを知らないので、今度ちゃんと聴いてみないといけないですね。DGG 時代のバルトークは音が綺麗なだけで必要なエッヂが立ってないように思います。本番で変わる指揮者ではなさそうに思っていましたが、演奏は水物ですのでコンディションなどの影響もあるのでしょうね。
最近新譜が出ていませんでしたが、今週中にマーラーの 2 番が発売されるようなので楽しみです。
Theo Bruins 氏演奏のコンチェルトは知りませんでした。今度探してみたいと思います。
投稿者 渡辺純一 : 2006年4月18日 16:42
ヴィオラ協奏曲とヴァイオリン協奏曲の第1番
に加えて、「2台のピアノと打楽器の為のソナタ」
の「協奏曲版」を加えたCDが、今年の8月20日
に発売されると、ユニバーサルミュージックのホームページに、記載されていました。
これで、バルトーク録音はブーレーズ氏にとって
は「完結」だそうです。
しかも、「協奏曲版」は先月の録音なので、
かなりの「スピード発売」です。
ヴァイオリン協奏曲はバルトークの生前に
すら、発表されなかった「遺作」なので、結構
珍しいです。しかも、クレーメル氏を独奏者に迎えるとは・・・。
「協奏曲版」は、バーンスタインが指揮した
CDを所持していますが、さて出来栄えは・・・。
ヴァイオリン協奏曲第1番第1楽章からの「転用」が在る「2つの肖像」と、初期の作品の
組曲第1番・第2番、交響詩「コッシュート」は
結局指揮しませんでしたね。
好みと関心からして、当然か・・・。
投稿者 本当に発売されるとは・・・ : 2008年6月30日 10:56
ようやく出るようですね。それも《2台のピアノと打楽器のための協奏曲》は意外で、そもそも録音が少ないだけにかなり期待しています。今まで出ていたものはオケとの絡みが希薄なんですよね。ブーレーズには、ちゃんと《協奏曲》として聴こえる演奏をして貰いましょう。ヴィオラ協奏曲はシェルイ編のようですね。私としてはペーテル編が聴きたかった。"第一" ヴァイオリン協奏曲はクレーメルというところが微妙 (^^;。
これでバルトークは "完結" なのですか。《2つの肖像》は仰るとおりですが、《2つの映像》も《青ひげ公の城》的な音色をもった良い曲だと思いますので、出して欲しかったですね。《ヴァイオリンと管弦楽のためのラプソディ》なんかも録音しているので、《ルーマニア民俗舞曲》や《5つのハンガリーのスケッチ》も有りだと思うのですが…。
《コシュート》は誰が演奏しても良い曲になりませんよね (^^;。スコアを見るとオーケストレーションがえらい緻密で凄いんですが、構成が足早で性急な感じを受けます。ブーレーズが演奏したとしても、怪演にはならないでしょうね。
国内盤、高すぎ…。
投稿者 渡辺純一 : 2008年6月30日 11:39
「2つの映像」と「5つのハンガリースケッチ」は、「舞踊組曲」と「弦楽の為のディヴェルティメント」との組み合わせで、ブーレーズ氏はシカゴ交響楽団と演奏し、ユニバーサルミュージック
からCDを出しています。
「ルーマニア民俗舞曲」・・・忘れてました。
「5つのハンガリースケッチ」と共に、作曲者本人がピアノ曲から、管弦楽曲に編曲した作品
ですね。結局「幻」に終わりそうです。
他にも、「ピアノと管弦楽の為の狂詩曲」や、
「ピアノと管弦楽の為のスケルツォ」と言う
初期作品も在ったなあ・・・。
国内盤は高いですが、海外盤の曲解説が
外国語なので読むのが辛く、時期が経って
値段が下がるのを待って買うしか方法が有りません。
投稿者 : 2008年6月30日 13:19
あら既出でしたか。なら私も持っているはずですねぇ(苦笑)。聴いた記憶が全くないのはなぜだろう??
ブーレーズに録音して貰いたい作品は、ほぼ出揃ったというのが私の感想です。強いて言えば《中国の不思議な役人》の新版を入れて欲しかった。CSO のレクチャーシリーズ Beyond the Score では演奏しましたが、合唱なしだったのと、DG 録音ほどの精度はなかったので、これがリリースされることはないと思っています。
最近はそれほどでもなくなりましたが、一昔前の国内盤は音が悪かったので避けていました。国内先行発売などというときは、結局両方買ったこともあります。
投稿者 渡辺(管理人) : 2008年6月30日 16:34
コメントがありましたらどうぞ
メールアドレス・URL は必須ではありません。コメントは管理者が承認してからページに反映されます。 もしページへの表示を望まない場合は、その旨一筆添えて下さい。削除は管理者へ依頼して下さい。

早速のTBありがとうございました。
文字化けの件も、ご配慮ありがとうございます。
最初に聴いた時から何か、「これは違うぞ」という気がしてならず、
やはり辛口にならざるを得ませんでした。