« マーラー:交響曲第 5 番/ティルソン・トーマス [SFS Media] | カバーページ | ストラヴィンスキー:《三楽章の交響曲》《ハ調の交響曲》他 ギーレン [hänssler] »

ストラヴィンスキー:《春の祭典》 ブーレーズ/マーラー・ユーゲント管 [Salzburger F.]

boulez_printemps.jpg

バルトーク:4 つの管弦楽曲 op. 12
ブーレーズ:ノタシオン I-IV
ストラヴィンスキー:《春の祭典》

ピエール・ブーレーズ指揮
グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団
SALZBURGER FESTSPIELEN SF 007

 1997 年 8 月 14 日、ザルツブルグ音楽祭での、ピエール・ブーレーズ指揮グスタフ・マーラー・ユーゲント管による演奏会の模様を収録した CD です。

 まずはバルトークの《4 つの管弦楽曲》。この作品は、バルトークの管弦楽作品としては演奏機会が少ないものですが、ドビュッシーなどの印象派的な作品の影響とともに《アレグロ・バルバロ》のような強烈な不協和音とバーバーリズムというバルトークの両極端の作風を同時に併せ持った作品です。この成果は次の作品《かかし王子》に結実していくのですが、この時期の特徴的な色彩的なオーケストレーションとロマンチックな作風が顕著な、隠れた名作です。

 ブーレーズはこのザルツブルグ音楽祭の 5 年前にシカゴ響と同曲を DG で録音していますが、解釈としてはそれとほとんど変わりません。しかし録音とオケの違いで雰囲気はかなり違っています。DG 盤は最強オケのシカゴ響のがっしりした演奏と、低域の詰まったピラミッドバランスの録音で、安定感と余裕を感じさせる名演でした。こちらの CD もそれに準ずる素晴らしい演奏ですが、シカゴ響と比べると音が柔和ですし、録音も DG では埋もれてしまった細かい音まで捉えられている繊細な録音です。それだけにこの作品のドビュッシー的な印象がさらに際だっています。金管の破壊力もシカゴ響ほどではないですが、バランスは良く不足は感じません。語り口の流麗さではシカゴ響盤に軍配が上がると思いますが、この曲本来の雰囲気や繊細なオーケストレーションはマーラー・ユーゲント管盤の方が味わえると思います。

 次はブーレーズの《ノタシオン》I-IV。I-IV-III-II の順での演奏です。最近はここに VII が加わるようですが、このときはまだ VII は出来てなかったと思います。この作品は、ブーレーズ 20 歳の頃、12 音技法の習作として《ピアノのための 12 のノタシオン》として作曲されたそれぞれ 12 小節からなる小品集がもとになっており、その I-IV 番を巨大オーケストラ用に編曲したものです。最近では V-VII の編曲も委嘱され、VII がまず完成しているようです。

 管弦楽のための《ノタシオン》はアバド/ウィーン po. のやけくそとも思える爆演が印象に強くありますが、それと比べると実に整理されており聴きやすい演奏です。アバドの演奏では、カップリングされているリームやリゲティと同様トーン・クラスタな作品と大差ないように聴こえましたが、ブーレーズの演奏ではちゃんと 12 音音楽として聴こえてきますし、それよりこの作品がベルクの作品をさらに濃密にしたような音調さえ備えているのが判ります。ウィーン po. が彼らの芸風とは思えない作品で、火事場の馬鹿力を出している演奏も魅力的ですが、しっかり揃えた演奏でこの作品の構成面を堪能できる自演盤の方が、作品本来の姿を現していると思います。マーラー・ユーゲント管の端正でかつ気合いの入った演奏を聴いていると、ウィーン po. は合っているんだか合ってないんだか判らない演奏に思えてきます。

 最後は《春の祭典》。これも 91 年のクリーヴランド O. との録音 (DG) がありますが、その気の抜けたサイダーみたいな演奏とは雲泥の差という演奏がここでは聴けます。第一部の序奏から、見通しが良いくせになかなか色っぽい木管のアンサンブルが聴け、マーラー・ユーゲント管の上手さを見せつけます。そして「乙女たちの踊り」の重くスピード感のあるバーバリズムが始まると、その迫力に圧倒されます。それも眉間にしわを寄せて戦々恐々と演奏している感じではなく、若々しさにはち切れんばかりの瞬発力がこの曲の精気を芽吹かせ、決して "青く" ならない表現でそれを確固たるものとするのです。ブーレーズ自身も 10 や 20 は若返ったんじゃないかと思えるほど。

 第二部の「選ばれた乙女への賛美」もこれほど切り込みの鋭い演奏はなかなかないでしょう。演奏は後半に向け白熱するのですが、反対に内容的には、それまで煮えたぎっていた溶岩が、急激に冷やされ、如何なる加工も受け付けない巨大な質量へと変化していくような、一点に凝縮していくブラックホール的なマイナスのパワーを怖いほど感じます。最後の「いけにえの踊り」の後半で、ストラヴィンスキーがやったように弦楽器を (楽譜にない) ピッチカートで演奏させているのは相変わらずで、これだけは違和感を感じます。

 個人技によるムラや、録音が原因かもしれませんがピッコロがあまり聞こえず、楔としての役割を果たせてないなどの問題はありますが、ザルツブルグ音楽祭でのマーラー・ユーゲント管とのドキュメンタリーとして、またブーレーズの《春の祭典》としても、重要な録音であると思います。

 録音は、ほんのちょっぴり埃っぽい感じはあるものの、粒立ちや分解能に優れた優秀録音です。バスドラの一撃などにコンプレッサが掛かっているような歪み感がありますが、量感は十分あります。メジャーレーヴェルの録音のような小綺麗さはありませんが、かえってそれが臨場感になっています。最近の EMI や PHILIPS と比べればそれこそ超優秀録音と言っても良いでしょう。

 この CD は 2001 年に発売されたものの品切れ状態になっており、最近久しぶりに入荷したもののようです。ネットショップではそれもすぐに完売になり、現在は廃盤扱いです。但し私の確認したところ一部店頭ではまだ平積み状態で売っていました。2,500 円程度ど少々お高いですが、演奏・録音ともに申し分ないので、気になる方は即ゲットでよろしいかと思います。

関連記事を検索: ストラヴィンスキー バルトーク ブーレーズ マーラー・ユーゲント管 春の祭典

2006年10月11日 11:16

この記事はどうでしたか? Bad ← 1 2 3 4 5 → Good
評定平均:(3.0) 投票人数:(333)

ソーシャルブックマーク:

« マーラー:交響曲第 5 番/ティルソン・トーマス [SFS Media] | カバーページ | ストラヴィンスキー:《三楽章の交響曲》《ハ調の交響曲》他 ギーレン [hänssler] »

トラックバック

CAPTCHA
トラックバックスパム防止のため、末尾の XXXXXXXXX 部分を上記画像の数字に置き換えてからご利用ください。お手数ですがご協力よろしくお願いいたします。

トラックバックが反映するまで時間がかかるかもしれませんし、エラーが出ても受け取れているかもしれません。重複トラックバックはこちらで削除しますので、特にコメントは不要です。

コメント(4)

またまたお目にかかります。

おっしゃるとおりブーレーズの演奏の中では3種類の正規盤、いくつかのFMでのライブ、東京での来日公演を含めても、一番ホットで楽しめるものかと思います。

第一部での小シンバルが思いっきりミスってますが、よくブーレーズがCD化をOKしたものだと思いますね。それほどいい演奏だったということかしら?

投稿者 zakkyo : 2006年12月 7日 17:40

私は、ブーレーズの《春祭》はCBS盤も持ってないふつつか者ですが、いろんな演奏を聴かれた方からも同意して頂けると、心強い限りです。

小シンバルのミスは、ライヴですし、その手のアクシデントは目をつむったのでしょうね。ブーレーズの責任でもないですし。ていうか、そこまでブーレーズが厳格なら、《詩編交響曲》なんか編集ミスで音が多くなっているので、発売禁止自主回収せねばならないでしょうねぇ。

投稿者 渡辺純一 : 2006年12月 8日 00:14

またまた、久しぶりにコメントいたします。

バルトークの《4つの小品》、確かにCSOとの録音よりずっと繊細に響きますね。最近のブーレーズの演奏に往年のような透明感が聴かれることは稀になってしまいましたが、ユース・オケで案外よい結果が出るのは、練習時間の問題もあるのかもしれないと思いました。

ブーレーズの《ノタシオン》は拡大5管編成に近いオケ作品であるばかりか弦も細かく分割されているので、楽譜どおりな演奏はおそらくおそろしく難しいはずですが、(委嘱者のバレンボイム以外によっても)よく演奏されるようですね。数年前にラトル・BPOがザルツブルグでも取り上げていましたし、VIIは早々と日本初演されました。V,VIとVIIIは、何度も初演が予告されながら、その度に既完成分に差し替えられるという状況が、ずっと続いています。

この演奏では、一番難しいらしいIIでやはりオケが崩れかかっており、弦が落ちかかっていますね。そのあたりの傷を気にしないことにすると、テクスチュアのクラリティやアーティキュレーションには彼特有のものがあり、素晴らしいと思います。

最近ギーレンがマーラー第9交響曲のカップリングに選びましたが、テンポが遅い分わりと忠実に楽譜を実現しているように思います。一方で、ロバートソン指揮リヨン国立管のnaive盤はかなり上手く音を選んでクローズアップしている印象で、全部の音が聞こえるという感じではないのだけれど、精緻に面白く聴かせます。

投稿者 M. F. : 2006年12月10日 15:17

是非とも聞いてみたい、というか購入したいのですが、大阪では残念ながら見あたりません。どなたかこのCDを定価で譲っていただけないでせうか。ご返事をお待ちしています。

投稿者 高石宗典 : 2007年1月 8日 20:13

コメントがありましたらどうぞ

メールアドレス・URL は必須ではありません。
コメントは管理者が承認してからページに反映されます。 もしページへの表示を望まない場合は、その旨一筆添えて下さい。削除は管理者へ依頼して下さい。