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ベルク:歌劇《ルル》/ブーレーズ [DG]
アルバン・ベルク:
歌劇《ルル》全曲
パリ・オペラ座管弦楽団
ルル:テレサ・ストラータス
ゲシュビッツ:イヴォンヌ・ミントン、他
DG 463 617-2 (3 枚組)
1979 年、パリ・オペラ座での3幕完全版上演時に録音。日時等の詳細は不明。
取りあえず簡単に説明しておくと、ベルクは「ルル」を2幕までしか完成させてない。3幕はパルティチェル(小スコア)とオーケストレーションの断片、それに「ルル組曲」として先に完成された組曲に入った第3幕からの2曲、などが残った。このブーレーズによる上演までは、完成している2幕に続いて「ルル組曲」からの2曲を演奏するというのが通例となってたようだ。ベルク未亡人はシェーンベルクやウェーベルン、ツェムリンスキーなどに第3幕を完成させて欲しいと望んだが、実現はされなかった。それ以降ベルク夫人は第3幕に関する資料全てを封印する。まさに「ルル」第3幕はパンドラの箱となってしまった。しかし出版社(ウニフェルザール)は第3幕の出版を望み、オーストリアの作曲者兼指揮者であり、それまでの「ルル」の上演に関わりをもつフリードリヒ・チェルハに(ベルク夫人に内緒で)3幕の完成を依頼する。第3幕は 1974 年に完成し、ベルク夫人の没後、ブーレーズの指揮により 1979 年に初めて「ルル」は全幕上演される。このレコードはそのときに製作された。
今回聴いたのは THE ORIGINALS としての再版になった物。ORIGINAL-IMAGE-BIT-PROSESSING 処理がされている、いわゆる「リマスターもの」なので、初版の CD も持っていたが買ってしまった。この OIBP はどういった処理なのか技術的に理解してない私だが、初版の CD の音質に満足できなかったので、ある程度の期待をもってしまう。
音はかけた瞬間に違いが判った。音がクリアになり芯も通っている。目鼻立ちがハッキリしてきて、初版 CD では音の滲(にじ)みの中に埋没していた楽音も聞き取りやすくなっている。それに反比例してか、間接音はおとなしくなっている。私自身はこの間接音は変な癖のある音だと思っていたので好ましい変化であるが、独特の雰囲気も薄れる結果となるので、この辺は好みの問題であろう。音がクリアになったといっても限界はある。もう一段肌理(きめ)が細かくなって欲しいところだし、声の固さ歪みっぽさは相変わらずである。そもそものマスターがこういった音なのだろう。仕方ない。初版 CD は編集の繋ぎ目が露骨に判ったが、リマスター版は目立たなくなっている。こういったことも出来るのかと感心する。
ベルクのオペラの場合、オーケストラの音が全て確実に聞こえなければならないというのが最大のポイントと考える。当然歌唱も重要なポイントである。巨大な編成ではあるが、室内楽を思わせる緻密な書法を録音で再現するのは、マーラーの8番を録音する以上に困難な作業なのではと思う。合唱が無いだけましかもしれないが。
「ルル」の CD は決定盤といえるものが無いと思うのだが、数少ない「ルル」の中で1つを選ぶとするならこのブーレーズ盤を1番に選ぶ。他に私が持っている「ルル」はカール・ベーム盤(DG)、ジェフリー・テイト盤(EMI)、ロリン・マゼール盤(RCA)。
この中で最も古いベーム盤(オケはベルリン・ドイツ O.)は「2幕版+ルル組曲からの2曲」という構成での録音である。演奏は非常に几帳面で端正、定規で引いたような正確さがあるが、以外とこれが面白い。大学オケにウィーン・フィルの元コンサートマスターであったボディシュカ先生が何度か来て下さったことがあり、先生から指揮者の逸話を聞いたことがある。そのときベームについて尋ねたら「彼はピアノならピアノ!! フォルテならフォルテ!!、それしかない、それだけだ」と話していた。以外とそんなもんかもしれないが、これがぴたりとハマルから凄いのだろう。「ルル」もそんな判りやすいダイナミックな演奏である。室内楽的な書法がクルト・ワイル的な明瞭さで演奏されている。
テイト盤は3幕版での演奏。ベームのような室内楽的な明瞭さの上にリリシズムや歌謡性を備えた演奏を期待したのだが、案外プアな演奏でがっかり。オーケストラ(フランス・ナショナル O.)の細かい楽音が全体の雰囲気に埋没している。これは録音に問題があるようだ。舞台上の音(ライヴ収録なので演技に伴う雑音がすごい)と歌とでオーケストラが隠される部分が多々ある。バランスが悪いのだ。オーケストラ自体も弱い。「組曲」に相当する部分だけ取り出して聴いてみても、面白みを感じない。
マゼール盤はウィーン国立歌劇場でのライヴということで、アバドの「ヴォツェック」のような劇性を期待したが、これは録音がひどすぎる。例えラジオ放送用の録音とは言え 1983 年の録音とは思えない。HISTORICAL と断るだけのものはある。バランスが目茶苦茶で、オーケストラの音は死んでる。おかげで全部聴いてない。録音が良ければ結構良い演奏かもしれないが。
やはり選ぶとすると、ブーレーズ盤になる。今回のリマスターリングでの音質向上は大きい。弦楽器のすべすべした音色はあまり私の好みでなく、もうちょっとゾリゾリしていて欲しいし、表現ももう一歩踏み込んで欲しい部分はある。ルルのストラータスも、多分容姿的にははまり役のようにも思うが、歌唱は力不足の感がある。しかし、歌劇「ルル」を詳細に知るには最良の教材であろう。
参考文献 : 名作オペラ ブックス 22 ベルク ルル (音楽之友社)
2000年3月25日 23:05
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