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シェーンベルク:グレの歌/ラトル [EMI]
グレの歌
サー・サイモン・ラトル指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
カリタ・マッティラ(S)、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(Ms)、トマス・モーザー(T)、フィリップ・ラングリッジ(T)、トマス・クヴァストホフ(Br)
ベルリン放送合唱団、ライプツィヒ MDR 合唱団、ベルリン・エルンスト・ゼンフ合唱団
EMI 7243 5 57303 2 9
今年の秋からベルリン・フィルの芸術監督に就任するラトル。ベルリン・フィルもラトルも私は好きなので非常に期待していた《グレの歌》なのですが、聴く前から心配だったのは EMI の録音。極まれに超優秀録音をかっ飛ばしてくれる EMI ではありますが、基本的には音楽的に楽しむことすら困難なほどのプアな録音が多いです。この《グレの歌》は 2001 年 9 月のベルリン・フェスティバル期間中のライヴ録音 (だがフェスティバルでは歌ってないマッティラのトーヴェなどは、後日取り直している模様)。ただでさえ録音の難しい《グレの歌》でしかもライヴでしかも EMI かよと、かなり不安を抱きつつ針を落とした (レーザーを当てた?) のでしたが、しかし意外と EMI は頑張ってくれました。今までのラトル/EMI の録音の中でも良い方の部類に入ります。でも相手は《グレの歌》です。玉砕にはならなかったものの、厳しい部分がままありました。
《グレの歌》は作品の規模としては、マーラーの第 8 交響曲の直系の子孫とも言える。その規模は巨大で、マーラーを同時に 2 曲演奏できるほど。マーラーのように出ずっぱりではないが重要な合唱パートもあり、ワーグナーの作品を彷彿とさせる力強い男声合唱が聴き所です(混声 8 部の編成ながら、女声が出てくるのは最後の 5 分程度!! しかもかなりキツイ)。独唱は 5 人いますが重唱などの絡みは無く、超巨大オーケストラ伴奏付きの歌曲のような作品です。音楽的には 12 音などは出てこず、《浄夜》や《ペリアスとメリザンド》のような崩壊寸前の後期ロマン派の色香を漂わせていますが、第 3 部で 13 年ほど作曲の中断があり (喰うための仕事をせねばならんかったらしい)、再開後書かれた後半にはシュプレヒゲザング (語るような歌唱法) なども出てくるなどの様式の変化があり、シニカルで幾分醒めた音楽になります。作曲が中断しなかったならどのような作品に仕上がっていたか大変興味があるところですが、作品の構成的には様式の変化を受け入れられる内容ですし、異化作用で作品に奥行きが出たとも思えます。
ラトルの演奏はというと、実にワーグナー的な《グレの歌》になっていると思いました (って、ラトルのワーグナーは聴いたことないですが)。音に厚みとエッジがあり、そこにラトルらしいリズム感の良さと切れが加わります。冒頭のフルートのシンコペーションからしてノリの良さを感じさせます。躍動的でメリハリが効いていてそしてドラマチックな展開は、まさにオペラ。第 1 部のトーヴェの死を暗示する間奏曲などかなり早めのテンポで起伏に富んでおり、複雑な様々なドラマがそこに濃縮されている感を強くし、結果その後の森鳩の歌にも説得力を与えています。
ノリの良さでは、第 3 部の道化クラウスの歌の導入が特に際だっており、ラトル曰く『トムとジェリー』の音楽ということですが、確かにそんな感じの演奏になっております。毎度この部分にくるとその唐突な曲想の変化に違和感を感じてしまっていたのですが、ラトルほど突き抜けてくれるとかえって興味が湧く展開に聴こえます。道化クラウスの歌も、どこかで聴いたような…と音の記憶を辿ってみると、《マイスタージンガー》ではないですか。音楽的な要素や雰囲気が実にそっくり。どことは特定できませんが、第 1 幕でダーヴィドがマイスターの芸術を説くあたりなどを思い出しました。不覚にも初めて気が付きました。他の演奏ではそこまで印象付けられなかったので、やはりワーグナー的な演奏だと思えるのです。言うまでもなく第 1 部は官能の《トリスタンとイゾルデ》の世界です。オペラ的といっても、歌に関しては歌曲並みの扱いで、拍節を崩すことなくキッチリと歌わせた中での表現をしています。
オーケストラも録音のせいでベルリン・フィルらしいと思える音には聞こえませんでしたが、的確な合奏力と隙のない集中力を印象づける怪演です。合唱も力強く、最大の聴き所であるヴァルデマル王の家来の合唱など息を呑むほどの迫力で一気呵成に盛り上がります。多分実演では合唱なんてほとんど聞こえないんじゃないかと思いますが、逆に録音では合唱と金管と打楽器しか聞こえません。小音量で再生したら合唱のグワーという音とティンパニのドスドスという音とシンバルのジャリっという音しか聞こえないんじゃないでしょうか。オーディオ的に聴くとトランジェントの悪い録音だと思います。スペアナでみると D レンジは広いので情報量は多いものの、音の分離が悪く抜けも悪いので、音がお団子状に聴こえるのです。大音量で再生すると、合唱のド迫力の背後にオーケストラの熱演が聴き取れるのではありますが。分離の悪さは全体に言えて、補助マイクでうまく補っているものの、金管(特に直管) に補助マイクが無かったのか音像が非常に遠く、トロンボーンがファゴットより聞こえないなんていうところもあります。録音としての素性は悪くないと思うのですが、金管吹きの私としては物足りなさを感じなくもありません。しかしまあ、全ての音が聴き取れる《グレの歌》なんてありませんし、音楽的には充分なほど録れてると思うので、一般的には十分楽しめると思います。
なにげに録音の多い《グレの歌》ですが、集中力と完成度の高さ、それに凄まじい劇性があいまったこの演奏は、繊細で室内楽的なシノーポリ盤と並んで、私の一押し盤となりました。
2002.4.26
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2002年4月26日 11:29
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