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バルトーク:弦楽四重奏曲全曲 ハーゲン Q.
バルトーク:
弦楽四重奏曲第1番 op.7, Sz 40 (29'42")
弦楽四重奏曲第2番 op.17, Sz 67 (26'08")
弦楽四重奏曲第4番 Sz 91 (23'11")
弦楽四重奏曲第3番 Sz 85 (15'14")
弦楽四重奏曲第5番 Sz 102 (29'42")
弦楽四重奏曲第6番 Sz 114 (29'42")
DG 463 576-2
1番〜3番は 1995 年 12 月、ポリング(Polling) のビブリオテークザール(Bibliothekssaal) で、4番〜6番は 1998 年 9 月、ザルツブルグ、モーツァルティウム大ホールにて収録。
バルトークの弦楽四重奏曲。私は切れ味鋭くリズム感が瑞々しいエマーソンの演奏を愛聴しているので、どうしてもエマーソン盤と比較をしながら聴いてしまう。このハーゲンの演奏はエマーソンとは正反対のスタイルと思えた。
エマーソンのバルトークは、非常にリズミックだ。バルトークの決して単調にならない舞曲風なリズムの魅力を完全に引き出す。こんな表現が適切か判らないが、全体的にスポーティーである。スピード感のある攻防が、聴き手にも非常に良い緊張感をもたらす。そして弦楽器らしい泣きの要素への落差の大きさ。感情面の振幅が大きく判りやすい。激しい部分は激しく、夜の音楽は薄ら寒く荒涼として、ユーモアもとりまぜて、曲が明確に伝わってくる。一夜で全曲演奏してしまうほどの彼らの、曲への深い共感を感じる。
一方ハーゲンの演奏はアンサンブルの精度は比類無きほどに高い。バランスや個々人の表現にもムラをほとんど感じられない。バルトークの弦楽四重奏曲には、細かいカノンが重層的に現れるのだが、それらが手に取るようによく判る演奏だ。楽譜を見ながら聴くと非常に勉強になる。反面、リズムによる爽快感はあまり感じられない。大きな原因は乗りきってないテンポ。割りと落ち着いた演奏である。しかし試しにテンポを測ってみると、これが全てほぼバルトークが指示したとおりのテンポなのである。メトロノーム大先生を目の前で動かしつつ録音したのではないかと思えるほど、ピタリとシンクロしている。こういう意味でも楽譜通りの演奏だ。しかし生き生きとしたリズム感は犠牲になってしまった。楽譜は出発点であり到達点でもあるわけだが、それに縛られ過ぎてはいけないだろう。
テンポのことだけでなく、全体的な表現としても、一歩引いている演奏に思える。ヤナーチェクやショスタコーヴィチで見せた、フォルムを崩してまでも表現の領域に踏み込んでいくという彼ららしい凄みを感じられなかった。ジプシー・ヴァイオリン風の部分でも、何かやってくれるんではないかという期待を裏切り、案外まともな演奏で終わってる。旋律に、音に、あまり共感してないのではないかと思ってしまう。これを聴いていて感じたのは、ブーレーズのバルトークに似ているということ。ブーレーズの《オケ・コン》や《弦チェレ》は、巧いんだけど味がないと感じたのだが、それと同じテイストをハーゲンの演奏にも感じた。ただしブーレーズの《かかし王子》は最高。
エマーソンとの違い、というよりハーゲンの特徴といえるだろうことは、一般的に短く弾かれている音が、長めに伸ばした弾き方をするという点だ。例えば第1番3楽章冒頭からのヴァイオリンの八分音符の連打。一般的にはチチチチチチチチと弾ませるが、ハーゲンはタタタタタタタタと弾ませない。短く激しいアクセントもあるが、この長めの音もよく使う。これはこれで表現に差が出来て面白い。きつすぎず、こけ威しでないところで勝負をしようといったところか。
録音は、会場による違いが如実に現れている。1〜3番を録音したポリングの方が、ホールトーンも豊かでバランス的にも良い。ザルツブルグの録音は、癖のない残響で楽音が良く聞き取れるのではあるが、無味乾燥に響きすぎる。無響室での録音にリバーブを軽くかけただけのような、居心地の悪さがある。低域がほとんど響かないので、こせこせとしてしまってスケール感が出ない。実際のモーツァルティウムがどのような響きなのか知らないが、ハーゲンにとって酷な録音だ。暖色系の豊かに鳴るオーディオ装置でないと楽しめないのではないか。うちのスワンできくと、部屋のスピーカーの位置(つまり目の前!)に四人がならんでバリバリ弾いているようなので、DSP で残響を付加するようにしないと面白みが出ない。1〜3番を聴いていた分には、エマーソンと対極のバルトークとしての価値はあるなと思っていたのだが、4番以降は、そういった楽しみも出来なくなっていた。
私は褒めないときは酷評するような、極端な書き方をしてしまうのだが、ハーゲンのバルトークも無茶苦茶酷い演奏な訳ではない。バルトークの音楽を愛している者にとっては必聴であるし、特に録音との関係で1〜3番くらいの音響を4〜6番でも楽しめるのであったなら、充分に推薦に値する演奏ではある。現状でも、少なくともクロノスの演奏を聴くよりは遥に良い。バルトークの指示していたテンポとはどの程度なのかを耳で確認できるという意味だけでも意義はあるだろう。と書いていて、結局墓穴を掘っているような気がしてきた。悪いが、私には期待はずれだったのだ。期待が大きかったせいもある。推薦するなら、やっぱりエマーソンだ。
どうでも良いことだが、1,5,6 番の 3 曲が全てトータルタイム 29'42" と一緒なのは、私の写し間違いではない。
演奏 : ★★★★☆
録音 : ★★★★☆(1〜3番) / ★★★☆☆(4〜6番)
2000年4月24日 00:02
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