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バーナード・ハーマン:ヒッチコック映画音楽特集

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ハーマン:
ヒッチコック映画音楽特集

サロネン、ロス・フィル他

 今回は毛色を変えて、バーバーの稿で前振りをしておいた(?) バーナード・ハーマンの映画音楽をヒッチコック映画を中心に特集する。クラシック作品ではないが、クラシックの要素がふんだんな作品なので、お許し願おう。かなりの数が出ているので、良い物をよりセレクトして紹介したい。

 まず最初に紹介するのは、エサ=ベッカ・サロネンがロス・フィルと録音したもの THE FILM SCORE (SONY SK62700)。これが最も入手しやすく、演奏・録音のクオリティも高い。ヒッチコック映画での主な作品がほぼ収録されている(ただし最後2曲はヒッチではない。「華氏 451」はトリュフォー、「タクシードライバー」はスコセッシ)。

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1. 知りすぎていた男:前奏曲
 2. サイコ:弦楽のための組曲
 3. マーニー:組曲
 4. 北北西に進路を取れ:序曲
 5. めまい:組曲
 6. 引き裂かれたカーテン
 7. 華氏 451:弦楽、ハープと打楽器のための組曲
 8. タクシードライバー:オーケストラによる夜曲

 このレコード最大の目玉は、「知りすぎていた男」前奏曲だ。私が知る限り、この手のヒッチコック関連のレコードでこの曲が収録されるのは初めてだ。この映画のクライマックスはオーケストラの演奏会に設定されているのだが、映画のオープニングに伏線としてオーケストラの演奏風景が映し出される。つまり映画のタイトルバックの曲を演奏するオーケストラの映像が、映画のファーストカットなのだ。管楽器を中心に納めたアングルから始まり、最後列中央にいるシンバルまで 1 カットでゆっくりとズームイン。曲の最後にのみ出番があるシンバルの一撃が、この映画のキーポイントということなのだ。テーマ曲とともにそれを演奏するオーケストラが映るオープニングはオーケストラ・ファンでなくとも度肝を抜く演出だ。それだけ印象深いこの曲がようやく聴ける喜びは、ヒッチ+ハーマン・ファンにとって計り知れない。

 次にこのレコードの特徴的な選曲はハーマン版の『引き裂かれたカーテン』だ。完成された映画はジョン・アディソンという人の音楽が使われており、ハーマンの音楽は付いてない。ここに収録されている音楽は、使われなかったスコアなのだ。昔ほどのヒット作が作れずにいたヒッチコックに対し映画会社は、音楽はポップなものを付けるよう要求していた。またヒッチとハーマンの芸術上の意見の相違もあった。ハーマンのスコアはほぼ完成していたのだが、ヒッチは映画会社の方針を飲み、ハーマンのスコアをボツにしたのだ。それ以来ヒッチとハーマンは仲違いしており、ついに和解することはなかった。ここに収録された幻のスコアを聴く限り、映画会社およびヒッチの判断は間違っていた。実際に映画についた音楽よりこちらの方が遙かに上だ。仲違いの原因となったと言われる殺人シーンの音楽も入っており興味深い (ヒッチはこのシーンには音楽は要らないといい、ハーマンは音楽は必要だと主張していた。当然ながら完成されたフィルムには音楽はない。私見では、音楽が無い方が緊張感があって良いと思う)。ハーマンのオリジナル・スコアを精力的に録音しているジョエル・マクニーリが、このハーマン版「引き裂かれたカーテン」の全曲録音も出しているようだが、持っていないので詳しいことは判らない。

'00.4.17 付記
 マクニーリ指揮の『引き裂かれたカーテン』(VARESE SARABANDE VSD-5817) 『ハリーの災難』(VARESE SARABANDE VSD-5971) を購入した。どちらも演奏・録音とも満足できる出来だが『引き裂かれたカーテン』は音楽的な興味を満たすだけならサロネン盤で十分かもしれない。中には "WALSE LENTE" といった幾分倒錯的なワルツなど魅力的な作品もあるが、地味な曲が多い。ハーマンが完成させていたのは、バスで逃亡を図るシーンまでのようだ。ご存じ「ハリーの災難」の方は楽しめるレコードである。こうなってくると『北北西に進路を取れ』も聴きたい。

'04.8.27 付記
 完全に余談だが、いま発売されている「引き裂かれたカーテン』の DVD には、ハーマンの音楽を試しに付けてみたらという趣向の映像特典がある。

 次に紹介するのは、エルマー・バーンスタイン指揮のロイヤル・フィルのもの BERNARD HERRMANN FILM SOCRES (Milan 73138 35643-2)。

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  1. 市民ケーン:組曲
  2. 悪魔とダニエル・ウェブスター:悪魔の協奏曲
  3. 知りすぎていた男:ストーム・クラウド・カンタータ
  4. サイコ:組曲
  5. 間違えた男:前奏曲
  6. めまい:愛のシーン
  7. 北北西に進路を取れ:前奏曲
  8. 黒衣の花嫁:音楽的シナリオ
  9. 華氏 451 度:フィナーレ
  10.タクシードライバー:オーケストラによる夜曲
  11.バーナード・ハーマン、映画音楽について(インタビュー)

 サロネンのレコードとだぶる部分はあるが、このレコードの目玉は何といっても『知りすぎていた男』のカンタータ "ストーム・クラウド" だ。アルバート・ホールでのバーナード・ハーマン/ロイアル・フィルの演奏会が、(サロネンの項で書いたが) この映画のクライマックスの舞台となる (どうやらこの曲一曲だけの演奏会のようだ ^^;)。ハーマン自身の指揮姿も映る!! 合唱の数が半端じゃない。マーラーの 8 番級。このカンタータはハーマンの曲ではなくアーサー・ベンジャミンというイギリスの作曲者の作品。映画『知りすぎていた男』はヒッチコックがイギリス時代に一度撮っており、そのときに音楽を担当したのがベンジャミンだった。そのリメイクになるこのハリウッド版で、オリジナル版のカンタータを、ハーマンが演奏するという仕掛けになっている。曲は独唱者と合唱を伴った巨大な編成で、展開が幾分急性かなとも思うが、映画を知る人はこの曲を聴くだけで十分サスペンスフルだ。この曲も他に録音が無いと思う(同じレーヴェルから最近出たヒッチコックのアンソロジーにも入っているが、同じ録音のようだ)。『知りすぎていた男』は、ドリス・デイの歌う「ケ・セラ・セラ」といい、音楽を巧くサスペンスの小道具に使っている。このレコードの他の収録曲も、ノリの良い演奏だ。

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 次はオリジナル・スコア盤『めまい』。この映画はヒッチコック+ハーマンの最高傑作であろう。眩暈には dizziness と vertigo があって、特に回転性のめまいのことを vertigo という。この映画の「めまい」はもちろん "vertigo"。ソール・バスによるオープニング・タイトルから始まって、この映画には「回転」の要素がいろんな形で現れる。主人公の高所恐怖症は言うに及ばず、それは、サンフランシスコを廻る追跡劇、抱擁シーンの回転ショット、ヒロインの髪型にまで及ぶ。音楽も同じ。絶え間なく続く下行上行するアルペジオにはめまいを憶える。ワーグナーばりの無限旋律は『トリスタンとイゾルデ』の魔薬。「めまい」にはオリジナル・サントラ盤もあるが、ジョエル・マクニーリ指揮のロイアル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団盤(VARESE SARABANDE VSD-5600)を推したい。全スコアを聴くと案外飽きるもんだが、この曲は全曲聴きにも耐えられる完成度がある。

 そして忘れてはならない、『サイコ』のオリジナル・スコア盤。カラーの時代にあえて白黒で撮ることにこだわったヒッチコック。音楽もこれに合わせてモノクロ的な弦楽合奏が使われ、その狙いはピタリと当たった。これにはハーマン自演盤 (UNICORN-KANCHANA UKCD 2021) と、上記『めまい』も録音しているマクニーリ盤 (VARESE SARABANDE VSD-5765)、そして昨年公開されたリメイク版『サイコ』のサントラ (Virgin Records 7243 8 47657 2 9) がある (国内盤で出ているものはサントラでは無いので、間違って買わないように)。リメイク版『サイコ』はダニー・エルフマンがオリジナルの映画に使えるほどの忠実さで演奏しているが一部アレンジされている。録音機材も当時の物を使用しているというこだわりようで、音質もオリジナル的な雰囲気になってはいるが、わざわざ S/N が悪くレンジも狭いものにすることに、リメイクとしてどういう価値があるのか疑問に思う。ハーマン自演盤はこれよりはましだが、やはり録音は良くない。推薦はやはりマクニーリ盤だ。オリジナルのフィルムでのテンポに忠実に、全てのスコアを完全に演奏している。録音・演奏ともに満足できる仕上がりだ。ただしマニアでなければ全スコア聴く必要は無いかもしれない。サロネンなどが入れている組曲版で主な曲は聴けるので、それでも十分だろう。

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ハーマン盤 マクニーリ盤 エルフマン盤

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 『北北西に進路を取れ』のスコア盤もあるが、これは聴けるだけまし、というもの。ラウリー・ジョンソン、ロンドン・スタジオ交響楽団 (UNICORN-KANCHANA UKCD 2040)。もう一枚、たぶんオリジナル・サウンドトラック盤と思われるものがあるがこれは持ってない。

'04.8.27 付記
 オリジナル・サウンドトラック盤も買いました。全スコアが収録されている模様で、UNICORN 盤には収録されていなかった音楽が聴けのるが嬉しいです。

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 最後に、これは外せないという一枚。英デッカより出ているハーマン/ロンドン・フィルの自演盤。『サイコ』『マーニー』『北北西に進路を取れ』『めまい』『ポートレイト・オブ・"ヒッチ" (ハリーの災難)』。私のハーマン・サントラ・コレクションの原点。デッカ・サウンドで聴けるハーマンは、やはり金字塔であろう。私が持っているのは廃盤だろうが、何度か再発されているので違う形で入手は可能と思う。デッカからは、ヒッチ以外のハーマンの映画音楽もいくつかリリースされている。

 ハーマンは映画音楽でない純クラシックなレコードも幾つかあるので、機会があれば紹介したいと思う。

2000年4月 5日 15:47

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