2001 年 6 月 23-26 日 (Sz. 106)、2000 年 6 月 23-25 日 (Sz. 113)、オーストリア、グラーツ・コンベンション・センター、シュテファニー・ホールにて収録。記載は無いようですが、会場ノイズが聴かれるのでライヴ収録でしょう。
レコード店のポップに、アーノンクール初のバルトークで何やら凄そうな演奏だというようなことが書いてあったので、買ってみました。実はアーノンクールの CD を買ったのは初めてです。今まで私とは縁のない指揮者だったので、どのような演奏をするのか皆目見当が付きません。かなり楽しみです。
まず《弦楽器、打楽器とチェレスタの為の音楽》ですが (長いので以降《弦チェレ》) 、2 群に分かれた弦楽五部とチェレスタ、ハープ、ピアノと打楽器の編成の曲です。バルトークの場合ピアノやハープは基本的に打楽器として扱っています。この曲だけに限らず、ピアノ協奏曲でさえピアノは打楽器的な書法が支配的なのです。チェレスタも打楽器に入れてしまって良いと思うのですが、なぜかタイトルに誇らしく掲げられていますね。全体的に出番は少なく、2 楽章はお休み、さらに 4 楽章ではチェレスタ奏者はピアノも弾かされるというのに。
編成が特殊なら楽器配置も特殊で、ピアノや打楽器群を中央に配置し、それを取り囲むように 2 群の弦五部を左右対象に配置するという、ステマネ泣かせな指示になっています。実際の演奏ではなかなかこの指示通りの配置は困難のようで、ショルティ盤でも音で聴いた限りでは、ハープは舞台上手側に、ティンパニ他打楽器は最後列に並んでいるように聞こえます。
スコアにある配置図
ところがアーノンクールはこの楽器配置にこだわったようで、ライナーノートにはバルトーク自身が書き記した配置図が掲載されており、この通りの楽器配置を実践しています。この配置図は驚くことにスコアに記載されている指示と若干違っており、スコアでは弦楽器は半円形に打楽器群を取り囲んでいたものが、バルトークの図では弦楽器の半円形の "頂点" にティンパニが配置されており、このことでピアノとティンパニを軸とする打楽器群が左右弦楽器群の境界線になっているというのが最大の特徴です。
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大太鼓
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シンバル
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小太鼓
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シロフォン
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チェレスタ
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ハープ
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ライナーノートにあるバルトーク自筆のプラン図
実際の録音を聴いてみても、ティンパニが中心に来ることによる座りの良さというものがまずありますが、左右の弦楽器群と中央の打楽器群という 3 群構成というコンセプトが明確となり、左右の弦楽器の掛け合いがより明瞭となる以上に、中央の打楽器群が時には境界線として、時には頂点として機能する様が見事に表現されています。例えば 3 楽章の 5'13" からの下降する 5 音動機のカノンなど、中央の打楽器から発せられた音が左右の弦楽器へこだましていくところなど、ステレオ感を意識した曲作りというものをはっきり認識させてくれます。
演奏も弦楽器のフレージングが明確で掛け合いの効果が高いです。全ての楽章がバルトークの指示よりかなり遅めで、1 楽章など 2 分半以上遅い演奏ですが、線的書法が全然犠牲になっておらず、高い緊張感を保ったまま明確に盛り上がっていきます。2, 4 楽章はスピード感がもうちょっと欲しいところですが、決してもたれるような演奏ではなくガッチリした激しい演奏です。特に木琴の鋭さは筆舌に尽くしがたい勢いがあります。
しかし肝心な部分の音程感がいまいちで、1 楽章の最後、上下から半音ずつ A に近づいていく部分は、A へ解決しようとする横の力と、だんだん音程が狭まっていく縦の力という 2 次元的な関係が見えにくくなっています。また 3 楽章の 5'28" からの下降音形のカノンでは、同じ音から次々と下降していき最後には Cis 以外の全ての音を埋め尽くすトリルへと瓦解していくのですが、そのあたりも音程の絨毯が綺麗に (不気味に?) 沸き上がってくるという感じには聴こえませんでした。
3 楽章の第 1 主題は、細かい動きと長い音の組み合わせという、民俗音楽から発想を得たバルトーク特有の旋律線ですが、長い音を楽譜よりかなり早く切ってしまっていて、1 本の線が細切れにされた印象になっているのが気になります。ここだけに限らず、全体的に民俗音楽的なイディオムを大切にし曲に色彩感と生気を与えるというより、純粋に西洋音楽的なアプローチで登坂を試みたように思えます。
《ディヴェルティメント》は、まず冒頭から度肝を抜く演奏です。まるで打楽器のようにバシバシと叩き付ける弦楽器のリズムが、粗野と優美さを揺れ動くこの曲の "粗野" の部分を一瞬にして描出してしまいます。この曲の中でも印象的なこの冒頭部分をこういう風にセンセーショナルに始められると、もう黙って聴くしかありません (^^;。このテンションはこの先も一向に衰えずに、ソロだけによる繊細な部分や柔和な表現とのコントラストも見事で、弦楽器の表現力の多彩さに改めて圧倒される演奏です。《弦チェレ》とはうって変わって、民俗音楽的な、非西洋音楽的な表現も見られます。フレージングも明瞭で、テンポの緩急の付け方も説得力があり (3 楽章はもうちょっと早くても良いと思いますが)、数ある《ディヴェルティメント》の中でも屈指の名演と言えるでしょう。バルトークを聴いてきて本当に良かったと思えるそんな演奏です。楽器配置もヴァイオリンを左右に分ける対向配置なのが珍しいです。
一カ所だけ、3 楽章の 2'12 " のところ、単純な 2 拍子の素朴な主題に突如 1 拍だけ字余りなパウゼを入れ、変拍子の緊張感を作り出し、その後主題が反行形になるという、単純ながらカッコ良いところですが、アーノンクールの取ったパウゼが伸びてしまい 2 拍分の休みが出来てしまいました。これでは変拍子にならないので緊張感は半減。残念です。
基本的に私は今回の表題曲についてはショルティ/シカゴ響の民俗的でゴリゴリして、はっきりした音程感のある色彩的な演奏の方が好きでして、それと比べるとアーノンクールの演奏は音程感はいまいちで色彩感に乏しく、尚かつクールに聴こえるのですが、アンサンブルがしっかりと統率が取れており、明確なフレージングのなかに若々しい激しさや豊かな情感を感じることが出来る演奏なのは間違いありません。優劣の問題では無いのでしょう。アプローチは違えども、この曲の同じ頂点に到達した演奏として、記憶に留められるべき一枚でしょう。
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