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ストラヴィンスキー:《春の祭典》 ティルソン・トーマス/サンフランシスコ響 (DVD)[AVIE]
KEEPING SCORE - revolutions in music
ストラヴィンスキー:
《春の祭典》/《火の鳥》より
メイキング・オブ・ア・パフォーマンス
ライヴ・パフォーマンス
サンフランシスコ交響楽団
AVIE 821936-0014-9 [DVD]
最近《春の祭典》ネタが続いていますが、またまた見逃せない《春の祭典》がリリースされてしまいました。
マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団が行っているレクチャー・シリーズ、「キーピング・スコア」です。DVD の前半は、約 55 分ほどの作品の解説番組、そして、後半は演奏会の模様が収められています。
作品の解説は、《春の祭典》ばかりでなく、ストラヴィンスキーとバレエ音楽の関わりから始まります。ロケも、サンクト・ペテルブルクやパリのシャンゼリゼ劇場など、作品ゆかりの地までティルソン・トーマスがおもむいており、なかなか贅沢です。他にデーヴィス・シンフォニー・ホールでの子供達向けのレクチャーの模様と、本編で使用されているコンサートの映像、それに SFS の団員がリハ室(?)で個々の旋律を演奏している映像、実際のバレエの映像など織り交ぜながら、ティルソン・トーマスがピアノに向かい、作品のほぼ最初から最後までを案内していきます。
特に、極短い部分ですが、MTT/SFS によるリムスキー・コルサコフの《ムラダ》の格好いい演奏が収められており、その作品が《火の鳥》に引用されている部分も聴かせてくれます。《ムラダ》は聴いたことがなかったので、なかなか衝撃的でした。《春の祭典》の解説としては、割と一般的な内容だと思いますが、ティルソン・トーマスがピアノと歌(!)で冒頭のファゴットの旋律の元となったロシア農村音楽を聴かせてくれたり、シャンゼリゼ劇場での混乱を、まるで自分がその場にいたかのごとく現場でひとりで再現して見せたりと、様々な手法で伝えてきます。SFS の奏者も登場し、それぞれの旋律に込められたものを語っており、多角的な視点から作品を解説してあります。
それと、最後のコントラバスの和音について、ティルソン・トーマスが斬新な解釈を聴かせてくれました。「運命的な不思議な出来事」としたうえで、コントラバスの最後の和音がニ-ホ-イ-ニ (D-E-A-D) ="Dead" になっているというのです。えっと思いスコアを見直してしまいましたよ。わぁ本当だ、確かにそうです。ストラヴィンスキーが英語でアナグラムを作ったはずがないと思うので、偶然なんでしょうが、こういうのまで発見してしまう指揮者の目というものに驚いてしまいました。
ところで、最後の裏拍、ピッコロと高弦の素早い上行音型の部分 (ティルソン・トーマスは「首をはねる」と言った) にギロが入っているのですが、これは何版なんでしょう。私が持っている 1947(1967)年版(B&H)と1965年版(Dover)のスコアにはギロはありません。一応、近くにあった CD をいくつか確認しましたが、ギロが入っているのはありませんでした (MTT/SFS の CD はギロあり) 。解説ではティルソン・トーマスは特にギロに言及しているほどなのですが。
コンサートの部では、まず《火の鳥》から「魔王カスチェイの凶悪な踊り」「子守歌」「終曲」が演奏されます。組曲版ではなく 1910年版(全曲版)使用ですが、「子守歌」と「終曲」のあいだのファンファーレをカットしています。シャープで格好いい演奏ですが、この 3 曲だけでは物足りない感じがしました。ティルソン・トーマスもあまり汗をかかない、要所要所でキューを出していく指揮ですが、それでもしっかりとオーケストラをリードして行きます。見事な演奏で、輝かしくゴージャスな音響がたまりません。
メインの《春の祭典》も、同コンビによる CD に準じる出来の演奏です。つまりパーフェクト。「序奏」の鬱蒼とした密林の風景は様々な鳥の会話が聞こえるメシアン的とも思える表情を獲得してますし、バーバリズムが始まってからのパワフルで切れの良いサウンド、第 1 部最後の「大地の踊り」における 16 分音符の猛烈なアパッショネートなど鳥肌ものです。特にこの 16 分音符の高速オスティナートを映像で観ていると、SFS の技術力の凄さがひしひしと伝わってきます。
第 2 部も猛烈な演奏ですが、危うげな部分などまったくない、高い集中力に支えられた演奏です。映像があるとさらに、そもそも演奏力のある人たちが、さらに針の穴を通そうという真剣さがひしひしと伝わってきます。演奏後、各奏者が盛大なブラボーを貰っていますが、確かに心の底からブラボーを言いたくなるような演奏でした。
ティルソン・トーマスの指揮は力の抜けたスタイリッシュなものですが (結局《春の祭典》の後でも大して汗をかいているようには見えなかった)、オーバーアクションによる判りやすい指示で、見ていて楽しいですし、完全に振ってしまわない、奏者を信頼している様も見て取れ、SFS との関係も垣間見させてくれるものでした。
映像表現もかなり凝ったカメラワークで、正直言って会場のお客さんはうざったかったのではないかと思えるほどです。しかし意味のないパンとかはなく、スコアを研究しつくした映像に仕上がっています。斬新だったのは、曲がダーティーな部分ではカメラを 30 度ほど傾けた斜めの構図でモンタージュしていたことです。おわっ、ヒッチコックみたいだと思いました。さらに斜めの構図を戻すとき、ズームアウトしながらカメラを戻すので、それこそまるで『サイコ』のようでした。が、ちょっと多用しすぎているようにも。オケの全景と奏者のアップをオーバーラップする手法も使われており、それは N 響アワーかと思いました (^^;。しかし概ね一般的なコンサート映像を逸脱するものではなく、クラシックを知らない人が作ったような映像センスのものではありません。
映像で見る SFS はまた発見があります。一番目を引いたのは、ホルン一人一人の後ろに透明な譜面台のような反響板が立てられていること。ご存じのように、ホルンのベルは後ろを向いていますので、それをいくらか前に反射させようということなのでしょう。また、ホルンの後ろにいる奏者はホルンの直接音を聞くので、かなりうるさいのです。それがトランペットやトロンボーン奏者だった場合、音が唇にまで影響します。それの対策にもなっているのかもしれません。しかし金管直管族の奏者はベルの前に障害物があるのを嫌いますので、どのオケでも同じようにできるとは限りません。あと、ヴィオラで面白い楽器を持っている奏者がいました。胴体の左上と右下の膨らみが異様に大きくて f 字孔も左右非対称、指板も斜めに切れている、奇妙な形のヴィオラです。

音声は DD 2ch と 5.1ch を収録。2ch で聴きましたが、オンマイクで綺麗にとれているものの Dolby Digital なので無理矢理詰め込んだような音になっています。録音としては CD を聴いた方が良いです。容量的には少々余裕があるので、PCM 音声付けられなかったかなぁと、ちょっと残念です。環境があれば、5.1ch で聴いた方が臨場感があります。映像は片面 2 層で 16:9 60i 収録。最近のソースらしく解像度は高く、落ち着いた雰囲気の映像です。字幕は英・独・仏・スペイン・中国語で日本語はありません。しかしティルソン・トーマスの語りは平易で、英語字幕をつけて見ていれば大体は判ると思います。リージョン 1 との表記もありますが、実際はリージョン ALL なので、問題なく観れます。
KEEPING SCORE のホームページでは、さらにスコアを見ながら曲を聴けたり、ティルソン・トーマスの指導で指揮法を習い、指揮ゲームも出来たりします。
2006年12月27日 12:56
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コメント(7)
投稿者 Granny Smith : 2006年12月27日 21:51
コメントありがとうございます。
KEEPING SCORE の他のタイトルは持ってないのですが、この DVD に入っていたトレーラーを観たところ激しく欲しくなりましたね。特にコープランドは《庶民のためのファンファーレ》(交響曲第3番?) が入っており、金管の濁りのないハーモニーに、これは買うしかないと思いました。《アパラチアの春》がオリジナル室内楽編成で収録されているのも注目です。後はチャイコフスキーも買わなければと思っています。
Amazon.com に注文するのは賢いかもしれませんね。国内販売店は品切れ、入荷困難らしいです。
投稿者 渡辺純一 : 2006年12月28日 00:12
現地在住の際に、最初に出たチャイコフスキーを買って、あまりの面白さに感動しました。日本に帰ってから最近現地に出張したときに「エロイカ」を購入し(Bordersにはそれしか在庫がありませんでした)、その後、「春の祭典」とコープランドをSFSのサイトで注文しました。注文後2週間以内で届きました。年末に見るのが楽しみです。
それにしてもタワーレコードが閉まったのは痛い出来事でした。サンフランシスコにはクラシック専門別館があって、かなり品揃えがよく、特にSFSものならば確実に入手できたのですが。
投稿者 Tapir : 2006年12月28日 16:00
私もこのコメントを読み、即効で渋タワに買いに走りました。
正直、MTTの過去二回のCDの演奏はあまり好きではなかったのですが、映像がはいると違って聴こえるのが不思議ですね。
細かな楽器の受け渡しなどきちんと押さえられているので、まるで自分が指揮をしているような気分になります。
それにしてもMTTも随分と肩の力が抜け、丸くなりましたね。これを円熟と呼ぶのでしょうね。
投稿者 zakkyo : 2007年1月19日 19:32
そうですね、CD での演奏は確かに人を選ぶかもしれません。DVD は丁寧な映像があり、さらに録音の雰囲気も明るいので、良いのかも知れませんね。
MTT の円熟ぶりはマーラーを聴いていてもありありと伝わってきましたが、これやコープランドを観ていると、"老い" は全く感じさせない、以前と同じく元気な演奏をしているのが印象的でした。それでいて、良い具合に力の抜いた指揮で、この様子だとまだまだ楽しませて貰えそうだと思いました。
昔みたいに、録音機会が増えると良いのですがね。
投稿者 渡辺純一 : 2007年1月23日 16:27
「春の祭典」のラスト、ギロの使用ですが、バーンスタインがニューヨークと録音した一番古いレコーディングを聞いてみてください。ギロと確定はできませんが。因みにこの録音は1913年の初演の際のスコアを使用したようです。ストラビンスキーは確か1922年に改訂してあり、デュトワの演奏がそのスコアを使用しています。だからギロはその時に削除されたのかもしれません。つまり最初のオリジナルスコアにギロがあったということなのでせうか?
投稿者 高石宗典 : 2007年1月24日 20:05
どれどれバーンスタインですか。…
あ、なるほど、ギロが入っていますね。そして "1913 version" と書いてある。では初演時はギロ入りだったという説に 1 票です。
MTT のギロは血しぶきが瞬間的にシャッと飛ぶようなスピード感のあるものでしたが、バーンスタインのはもうちょっと長めのシャワーのような血しぶきでしたね。知らなければ、ホワイトノイズが混入したのかと思いそうです。
1913 年版は普通のとどう違うのか改めて聴いてみましたが、65 年版のスコアとこれといった違いは聴き取れませんでした。一部リズムがおかしいですが、ティンパニが常に遅れ気味なので、演奏上の問題なんでしょう。ストラヴィンスキーの自演盤のような、*まるで違う* のとは話が違いますね。「いけにえの踊り」の再現の部分 [167] で、休符にフェルマータが入っているようですが、これはバーンスタインの解釈かもしれませんね。
しかしバーンスタインのハルサイは野蛮だなぁ (^^;。精気が迸っているというか、プリミティブさからエロスが立ち昇っています。
情報感謝します。
投稿者 渡辺純一 : 2007年1月25日 00:34
コメントがありましたらどうぞ
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記事を読んで、欲しくなり、米国アマゾンに注文しちゃいました。
このシリーズ、他にもあるようですけど、どうなんだろ〜か?