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バーンスタイン・ガラ/ティルソン・トーマス [SFS Media] (DVD)

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A Celebration of Leonard Bernstein
Opening Night at Carnegie Hall 2008

バーンスタイン:《ウエスト・サイド・ストーリー》シンフォニック・ダンス、《クワイエット・プレイス》セレクション他

マイケル・ティルソン・トーマス指揮
サンフランシスコ交響楽団
トマス・ハンプソン(Br)、ドーン・アップショウ(S)、クリスティーン・エバーソール(Vo)、ヨーヨー・マ(Vc)
SFS Media (DVD)

 昨年 9 月ニューヨークでは、バーンスタインの生誕 90 周年およびニューヨーク・フィルハーモニック就任 50 周年を記念したフェスティバル Bernstein: The best of all possible worlds が行われました。カーネギー・ホールやエイブリー・フィッシャー・ホールなどで、バーンスタインの作品演奏を含む様々な催しが行われました。ちなみにこの「世界のなかで考え得る最善のもの」というタイトルは《キャンディード》の中に出てくるものです。ティルソン・トーマスとサンフランシスコ響はそのトップバッターとして、カーネギー・ホールでオープニング・ガラを務めました。バーンスタインの弟子と言われる人物は多いですが、やっぱり一番弟子というとこの人なんでしょう。この DVD にはその時の模様が収められております。収録日は 9/24 で、SFS から DVD が送られてきたのが 11/18。どんたけ早いんだ!!

 まずは《ウェスト・サイド・ストーリー》からシンフォニック・ダンス。冒頭のスナップ・フィンガー(指パッチン)でなぜか会場から笑いが。MTT が特に何かをしたわけでもないのに。数日前にサンフランシスコでも同じ演目をしているのですが、その時も笑いが出ていました。演奏は素晴らしいの一言。サンフランシスコ響のブリリアントな音色のためか、自作自演ほどのファンキーさというか濃さ・ドギツさはないですが、シャープでスマートでエレガントで、普通のシンフォニック・ダンスからはなかなか聴けない要素、つまりシンフォニックであるという事が十二分に堪能できる演奏です。ノリは良いんだけど弾(ハジ)けすぎていて良く聴くとバラバラな演奏というのは多いですが、パワフルでノリも良くしかも各要素を見事に組み合わせ調性感すら損なわない演奏は滅多に聴けない。MTT の旧録にあたるロンドン響との演奏でさえ、センスのないドラムのせいもあり、雑な印象を受けたものです。それと比べると雲泥の差。それに何と言っても "Somewhere" が美しい。MTT の自在な呼吸感が巧いです。"Finale" に入る前のフルートによるカデンツァも必聴。尺八吹きでやたらと格好いい。「マンボ!」をお客さんにも言わせて、その後客席に向かって「ぐ〜」をするのも、普通の指揮者ではあり得ません。

 次の《クワイエット・プレイス》に入る前に、MTT はしゃべり始めます。「みなさん今晩は。バーンスタインの90歳の誕生パーティーにようこそ!!」(大歓声)。その後、バーンスタインの作品に内在する特徴を演奏を交えて指摘します。ウエスト・サイド・ストーリーの最後のコードは、将来の幸福が約束されたように聞こえますが (変ハ長調のコード)、一方「そうじゃないかもしれないぞ」ということも思い起こさせます (変ハの三全音にあたるベースのヘ音)。またウエスト・サイド・ストーリーの旋律が 30 年後に書かれた最後のオペラ《クワイエット・プレイス》にも、全く同じ音で登場していることを聴かせてくれ、話は《クワイエット・プレイス》に移ります。MTT はこの作品がお気に入りなのか、《組曲版》を編纂しロンドン響と録音もしています。

 《クワイエット・プレイス》は、1952 年に書かれたオペラ《タヒチ島の騒動》がほぼまるまる挿入された作品です。《クワイエット・プレイス》の話は、《タヒチ島の騒動》のヒロインであるダイナが交通事故で死んだ所から始まります。ダイナの葬儀の最中、今までちりぢりだった家族が集まり、おのおのを罵り合います。家族の崩壊を扱ったかなり凄惨な話です。今回のコンサートでは、まず交通事故を描いたプロローグ、そして父親サムのやり場のない怒りが爆発する "You're late"。MTT お気に入りのトーマス・ハンプソンが歌っていますが、優しく誠実そうなキャラクタに見えるだけに、怒りの根深さを感じさせます。次はダイナの娘デデが、母のお気に入りだった庭を手入れしながら、家族の絆というものを考える "Morning!, Good morning"。バーンスタインお得意のリリカルな曲を、ドーン・アップショウが美しく歌い上げます。そして切なくも美しい第一幕の後奏曲で締めくくります。《タヒチ島の騒動》からはもう一曲、今度は底抜けに明るく楽しい "What a Movie" が演奏され、このあまり知られていない歌劇の多彩な面を紹介しています。ドーン・アップショウによる "What a Movie" は素晴らしく、その歌による演技力にぐいぐい引き込まれていきます。そしてその演技に MTT も乗っかって、身振りで合いの手を入れてくるところも可笑しい。満足度の高いパフォーマンスでした。

 他も盛りだくさんで、クリスティーン・エバーソールが歌う《オン・ザ・タウン》から "I can cook too" や、ヨーヨー・マの《ミサ》より第 1 の瞑想曲、《ソングフェスト》の "To what you said..." (歌はハンプソン)、ジュリアードの学生による "Gee, Officer Krapke" (《ウエスト・サイド・ストーリー》)、《ファンシーフリー》の Danzón など、バラエティーに富んだ選曲で、どれも楽しませてくれるのですが、よっぽどバーンスタインが好きでなければ手を出さないような作品が多く選ばれているところが MTT の狙いのように思えます。普通なら《オン・ザ・タウン》の組曲とか、《キャンディード序曲》とか配置しそうなものです。そういうメジャー曲はあえて避け、バーンスタインが追求していた生と死の問題や社会的問題を扱った作品をあえて提示する。この DVD では、MTT がおのおののアーティスト、それとバーンスタインの長女ジェミーにインタビューをしているのですが、MTT 自体はバーンスタインの事をあまり語らない。彼がどうバーンスタインを語るのか聞きたかったというところもありますが、MTT は選曲を通して自分の意見を表明しているようであります。

 アンコールは《オン・ザ・タウン》の "Ya Got Me" で大盛り上がり。もともとこの曲は出演者が代わる代わる歌って、主人公をなぐさめ盛り上げるという歌なので、ここでも出演者が代わる代わる歌えて、アンコールピースにもってこい。昔出ていた《オン・ザ・タウン》の LD では、MTT はこの曲で指揮をしながら踊っていましたが、ここでは何と歌に挑戦。上手いとは言えませんが、見事にマイク無しで歌いきっていました。「パパンッパ、パッパッパン」という手拍子はお客さんにやらせ (私もこれ会場で一緒に叩きたかった)、そして金管が盛大に盛り上がる部分はチェロのソロに差し替え、ヨーヨー・マの渾身の演奏でまた大盛り上がり。ビッグバンドの指揮者のようなカウントを入れる MTT も様になっています。最後はバーンスタインのハッピーバースデーに引っかけた替え歌にして、会場全体で "Ya Got Me!" の大合唱で終了。カーネギーホールのハイソなお客さん達が盛り上がるのですから、DVD を見ている我々が盛り上がらないはずはありません。一発公演の記録なので差し替え無しの正真正銘の記録映像で、これだけの充実度と満足感を与えてくれるのですから、彼らの底力というものを見せつけられました。

 片面一層で、特典を入れて 84 分の収録。映像は 16:9 収録。音声は DD 2ch と DD 5.1ch (ジャケットには PCM Stereo との表記がありますが、DD 2ch でした)。映像は、動きのあるシーンは破綻が目立ちますが、まずまず綺麗です。音声は、DD 2ch だと音場の痩せを感じますので、5.1ch の方が良い感じ。

 この公演は NHK が放送権を買っていったそうで、そのうち BS なんかで放送されると予想されます。しかし NHK のことなので、このままのかたちで放送されるかどうか。ひょっとするとバーンスタインの記念番組の中で、演奏だけ取り上げられるという可能性もなきにしもあらず。DVD に入っているインタビューは英語字幕すら入ってないので、もしその辺が NHK でフォローされるなら有り難いですが、どうなるでしょうか。現在、この DVD を扱っているところが少なそうですが、Avie の新譜案内に入っていたので、もうすぐお店でも買えるようになると思います。一番確実なのは、SFS に直接頼むことです。

関連記事を検索: AVIE サンフランシスコ響 ティルソン・トーマス バーンスタイン

2009年2月 7日 14:54

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