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マーラー:交響曲第 7 番/ティルソン・トーマス [SFS Media]

MTT_mahler7.jpg

マーラー:
交響曲第 7 番

マイケル・ティルソン・トーマス指揮
サン・フランシスコ交響楽団
SFS Media 821936-0009-2

 ティルソン・トーマス/サン・フランシスコ響による自主制作マーラーチクルス、今回はロンドン響との怪演も記憶に新しい 7 番の登場です。この曲がチクルス終盤に持ってこられたのは、やはりロンドン響との録音 (1997) より期間を空けようと考えたからなのでしょう。その結果、基本的な解釈の方向は変わらないものの、細部に於いては随分練り直された演奏が展開されています。

 まずロンドン響盤と演奏時間を比較してみます。

12345
SFS

20'41"

15'32"

10'03"

13'30"

18'06"

LSO

21'41"

16'25"

10'29"

14'07"

18'11"

 トータルタイムでは各楽章 1 分以上は違わないのですが、全て早くなっており、聴感上では明らかに早い演奏に聴こえます。第 1 楽章の最初のテヌートされた付点八分音符からして短く歯切れ良くなっており、序奏部というより既に主部のような安定感があります。安定感と明瞭感はこの演奏のキーワードであり、幽玄さや神秘性は薄まっていますが、流れの見通しが良くなることで曲の構成に寄り道が無くなり、複雑なパッチワークとなっているこの作品の全体像が把握しやすくなっています。これは演奏が単純化しているという事ではなく、流れの良さを保つことにより複雑な形状のものを巧く一つの立体として形作っているということで、それぞれの部分のバランスが絶妙なのです。その為第 1 楽章はひとつの大きな山が形成されます。それは展開部の最後、『原光』に続くロ長調の部分を頂点としており、我々はそこで人知を超越したものに出会うのです (ここでは第 8 交響曲で「栄光の聖母」を彩ることになるハープも聴かれます)。構成が散文的だとこの部分の意味が薄まり、この曲の《アルプス交響曲》的主題 (自然を通して自然の創造主に出会う) がぼやけてしまうので、ティルソン・トーマスの的を射た解釈は感動を覚えます。

 第 2, 第 4 楽章の《夜の音楽》も早めのテンポでなかなか良い雰囲気を出しています。2 楽章の構造は中間部のハ長調/ハ短調並置による大爆発 (練習番号 91) を中心として対称形を描くのですが、いわゆる "登り" の行進曲は足取りも軽やかに、"下り" は暗い影を落としながらと、同じ行程でもかなり雰囲気を変えているのが印象的です。

 第 3 楽章、マーラー版《魔王》。ティルソン・トーマスの演奏を聴いていると、子供、お父さん、魔王の声(歌)が聞こえてくるみたい。それほどストーリーテラーがしっかりしています。サンフランシスコ響の演奏も見事ですが、低弦のバルトーク・ピッチカート (もちろんマーラーの時代にはこの名称はありませんが) の迫力がいまいちでした (録音の問題かも)。

第 4 楽章も早めの演奏で、セレナーデ調の雰囲気が色濃く出ています。冒頭のリトルネロなど繰り返しの楽節が多い曲で、下手するとかなり単調になってしまう危険性がありますが、この演奏は単純な繰り返しはなくドラマが常に変化している様を巧く描いており、第 4 交響曲の第 3 楽章を彷彿とさせる深い味わいも漂わせている秀演です。ギターが割と金属的な音で、マンドリンと存在感が似てしまっているのが残念です。

 第 5 楽章ですが、この曲は前の楽章、特に第 4 楽章と主題的に密接に関わっており、ちょうど第 5 交響曲の第 4,5 楽章のような関係にあります。いわば全前楽章のコラージュとなっており、標題性より技術的な関心が強く出ているように思えます。目映いハ長調で幕を開けたとたん、この交響曲が扱っている問題はすっかり解決し、あとは全てを光の中に連れ出す長大なエピローグとなる、と、トーマスの演奏も主張しているよう思えます。サン・フランシスコ響もこの曲のアクロバティックな曲想に良く付いてきており、とてもライヴとは思えないほどの集中力と仕上がりを見せており、完璧です。

 録音は 2005 年 3 月 9-12 日。サン・フランシスコのデーヴィス・シンフォニー・ホールでのライヴ収録。ロンドン響との CD は 2 枚組でしたが、今回は 1 枚に収まっています。このシリーズ特有の抜けの良い美しい音響で、低域のエネルギー感がもう少し欲しいという部分もありますが、再生装置によっては申し分ないバランスで聴こえるかもしれません。今まではあまりミキシングを意識させない仕上がりでしたが、今回は曲が複雑なためかミキシングでいじってある部分が良く判ります。

 最初聴いたときは、あまり特色の無い演奏と思え、旧録の方が良いかなぁなどと考えもしましたが、聴き込むうちに新録の凄さが判ってきました。ロンドン響との録音では演奏技術にばかり目がいきましたが、今回は演奏技術に関してはもうこだわる必要すら感じません。マーラーの音楽にじっと耳を傾けるのみです。

 このプロジェクトも残すところ 2006 年春発売予定の 5 番/10 番《アダージョ》と 8 番 (録音時期未定) になりました。《大地の歌》や 10 番の全曲、《角笛》などの歌曲集も録音して欲しいところです。またマーラー・プロジェクトの後、R. シュトラウス・プロジェクトなりショスタコーヴィチ・プロジェクト (MTT/SFS の 11 番はなかなか凄い演奏でした) なり、また違ったプロジェクトを企画して欲しいものです。この 7 番の店頭発売は 10 月 11 日からとのことですが、日本でもその日に発売されるのかは判りません。前回の 9 番は、1 ヶ月遅れ位で入荷していたようです。


第 4 楽章と第 5 楽章の主題の関連を思いつくまま譜例にしました(フローロス本にも書いてありませんでしたので)。勿論これだけではありませんし、マーラーの主題作法は複雑で高度なので、こんな単純な譜例だけではとてもそのエッセンスは伝え切れませんが (4,5 楽章だけで完結してる訳でもないので)、その一端でも垣間見れればと思います。

mahler7_1.jpg
主音-主音のオクターブ跳躍と順次下降(とりあえず色分けしてみました)。第 4 楽章のリトルネロの主題が第 5 楽章のロンド主題に組み込まれている。ちなみにロンド主題の前半は 1 楽章の第 1 主題に由来するもの。(第 5 交響曲の終楽章の主題とも相似である。)

mahler7_2.jpg
譜例にしやすかったのでこの部分を選んだが、第 4 楽章と第 5 楽章にはこの例に留まらず、二分音符の踏みしめるような主題が共に顕著に現れる。また二分音符に続く部分も、他の主題から派生している。

mahler7_3.jpg
アーティキュレーションは変化し音程も狭まっているが、派生したものであるのは間違いない。さらに、その上の譜例に示した主題とも密接に関わっている。この譜例に続く部分も 4 楽章の主題の変形になっている。

関連記事を検索: AVIE サンフランシスコ響 ティルソン・トーマス マーラー 交響曲

2005年10月 5日 10:02

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コメント(2)

昨年までは西海岸在住でしたので、このコンビは良く聴きに行きました。今は簡単にはいけないのが残念です。特に「千人」は見たかったですね。

SFSのサイトによると、このプロジェクトは大地の歌他の声楽作品まで拡張されるようです。

投稿者 伊藤 : 2006年6月14日 15:04

確かに《大地の歌》《リュッケルト》《角笛》《若人》も録音するとなっていますね。これは朗報です。8 番はこの 6 月に録音されたのだと思っていましたが、「2008-09 のシーズン中のレコーディングで完成」となっていますね。残念。ま、今年の10月10日には 5 番がリリースされるようなので、それを楽しみに待ちましょう。

投稿者 渡辺純一 : 2006年6月21日 09:46

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