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バーンスタイン:ミサ/ケント・ナガノ [HM]

Nagano_Mass.jpg

バーンスタイン:
ミサ

ケント・ナガノ指揮
ベルリン・ドイツ交響楽団
ジェリー・ハドリー(司祭)
パシフィック・モーツァルト・アンサンブル
ベルリン放送合唱団 他

harmonia mundi HMC 901840.41 (2 枚組)

 ブルックナーの第 3 交響曲、シェーンベルクの《ヤコブの梯子》など、このところ質の高い CD をリリースしているケント・ナガノですが、またまた凄い盤が出ました。バーンスタインの《ミサ》です。

 ナガノのバーンスタインは DG より《ホワイトハウス・カンタータ》がリリースされていました。これは《ペンシルベニア通り 1600 番地》(この住所はホワイトハウスを指す) というミュージカルを演奏会用に再編成した作品ですが、どちらにせよ限りなくマイナーな作品。しかし演奏は素晴らしく、知られざる名曲を掘り出すのが得意なナガノらしいアルバムでした。今度の《ミサ》もメジャーな曲ではありませんが、バーンスタイン好きならまず聴くであろう作品。しかし録音は自演盤とポリス・プロット指揮による DVD くらいしかなく、曲の知名度の割りにはお寒い状況でした。バーンスタインによる自演盤は、演奏は素晴らしいものの録音が古くさく時代を感じさせる音造り。プロット指揮の DVD は歌手は上手いのですが演奏がいまいち。演出も学芸会風で、作品理解の一助にはなるものの、大して面白いものではありませんでした。そのような状況でのこのナガノの新録。いやがおうにも期待が高まります。

 演奏は文句無く素晴らしい。オケの音に切れ味があり、かといって安っぽくならないのは、元来渋い音を出すベルリン・ドイツ交響楽団ならではの特質でしょう。ドラム・エレキ・キーボードを多用しているこの作品でオケの音も安っぽい音だと、作品自体が軽くなりそうですが、ベルリン・ドイツ響のがっちりした音が、作品の土台を強固にし奥行きを与えています。

 この作品は、古典的なミサの典礼文にバーンスタインらが追加した台本がミックスされるという、ブリテンの《戦争レクイエム》のような構成を持っています。《戦争レクイエム》では、ミサの部分と英国の詩人オーウェンの詩の対比を、フル・オーケストラと室内オーケストラとの対比で明確にしました。バーンスタインの場合も似たように、当時は新しい楽器だったエレキ楽器を使ったバンドとオーケストラとのハイブリッドな編成としていますが、それらのアンサンブルを対比的に使うというよりは、適材適所、ジャズバンド主体の曲から 3 つの《瞑想曲》のようにオーケストラ中心の曲まで様々なバリエーションで聴かせており、古いものと新しいものの融合というコンセプトが見えてきます。音楽的にも 12 音を形成するバリバリの前衛的作曲技法から、ブルースや『シンプル・ソング』に代表される通俗的ソングまでが融合されており、歌詞もラテン語・ヘブライ語・英語など、宗教的にもユダヤ・キリスト・仏教など、様々な要素の融合が試みられています。

 前置きが長くなりましたが、要するに指揮者へ課せられる課題も大量で、それだけの要素をこなせる技量が必要となるのです。ケント・ナガノの指揮は、それこそ見事としか言いようが無く、各々の局面で的確な音楽的適応性を見せるだけでなく、全体を通しても劇的一貫性を強固に保っています。バーンスタンインの舞台作品は後半尻つぼみな印象を受けるものが多く、この《ミサ》も後半に向け内容が暗くなっていき、また音楽も同じ素材の使い廻しが多くなるため新鮮みが薄れるように思うのですが、ナガノは上手い具合に後半の《サンクトゥス》と《アニュス・デイ》に緊迫感を生みだし、クライマックスである《みんな崩れていく》まで曲を引っ張ります。最後の、バーンスタイン的大団円の歌である《シークレット・ソング》も、マーラーの《復活》のような浄化と救済の雰囲気を出しており、素晴らしいです。

 重要な役割である司祭役に、バーンスタイン自演の《キャンディード》でタイトルロールを歌ったジェリー・ハドリーが歌っていることも見逃せないでしょう。《シンプル・ソング》は優しくイノセントな感じが良いですし、強力な演技力が必要とされる《みんな崩れていく》もなかなかの劇性をみせて好演していると思います。その他の歌手はパシフィック・モーツァルト・アンサンブルが担当しており、ミュージカル系の団体では無さそうですが、ミュージカル的な歌唱で良い味を出しています。アラを捜すなら、ボーイソプラノの音程が微妙で、声質も若干暗めなのが気になる位。

 録音は2003年11月18〜22日、ベルリン・フィルハーモニーにて。ムンディらしく透明感と密度感のある音で良好。この作品は会場の四隅に配置された 4 ch テープの音響が重要な役割を果たしますが、 ミキシングで処理しているというより、会場にちゃんとスピーカーを配置して、アコースティックに録音している感じに聞こえます (会場ノイズが別に聞こえるので)。音像がかなりぼやけるので、ひょっとすると好き嫌いの分かれるところかも。SACD も出ているので、それだとリアチャンネルも生かした、より本物の上演に近い音場で収録されているのかもしれません。本来の舞台では、管楽器やエレキ・ギター類は舞台上で演技に加わるようなのですが、この録音ではそこまで再現はしていません。

 今までの《ミサ》に満足出来なかった人も、聴いたことあるけどあまり面白く思わなかった人も、聴いたことが無い人も、バーンスタインが好きなら絶対買いましょう。CD と SACD ハイブリッドの 2 種類発売されています。店頭では CD しか見かけなかったので、今回はハイブリッド盤は無いのかと思い、私は CD 版を買いましたが、ハイブリッド盤があったなら高くても間違いなくハイブリッドを買ったでしょう。ちょっと後悔しています。

関連記事を検索: harmonia mundi ナガノ バーンスタイン ベルリン・ドイツ響

2004年10月27日 09:54

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