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マーラー:交響曲第 8 番《千人の交響曲》/ケント・ナガノ [HM]
交響曲第 8 番《千人の交響曲》
ケント・ナガノ指揮
ベルリン・ドイツ交響楽団、ベルリン放送合唱団、ライプツィヒMDR放送合唱団、ヴィンツバッハ少年合唱団
シルヴィア・グリーンバーグ(S、罪深き女)、リン・ドーソン(S、贖罪の女)、サリー・マシューズ(S、栄光の聖母)、ゾフィー・コッホ(A、サマリアの女)、エレナ・マニスティナ(A、エジプトのマリア)、ロバート・ギャンビル(T、マリア崇拝の博士)、デトレフ・ロート(Br、法悦の教父)、ヤン=ヘンドリク・ローテリング(Bs、瞑想の教父)
ジーグルト・ブラウンス(Org)
HMC 801858.59 (2 SACD) [harmonia mundi]
続けてのマーラーネタで恐縮です。
ケント・ナガノは最近 harmonia mudi からバーンスタインの《ミサ》、シェーンベルクの《ヤコブの梯子》、ブルックナーの 3 番第 1 稿などの質の高い CD を続々とリリースし、私もコラムで度々とりあげておりますが、今度は事もあろうにマーラーの 8 番をリリースしました。ナガノのマーラー録音は他に第 3 番と《嘆きの歌》があります。まずマーラー・チクルスというと、第 8 番の録音は一番最後になるものですが、臆面もなくそんなタブーを覆してしまうあたり、なかなか聴く機会の少ない名曲を精力的にリリースしているナガノらしい選曲と言えるでしょう。
またこの CD は SACD とのハイブリッドであり、SACD マルチチャンネル用にセッション録音された初の《千人の交響曲》であります。巨大なオーケストラに多数の独唱者、二群の合唱団と少年合唱、オルガン、バンダの金管群と、マルチチャンネルでの見せ場の多いコンテンツとしていやが上にも期待が持てます。しかし私はマルチチャンネル環境は持っているものの SACD プレーヤーはないので、この CD (SACD) の最大のポイントを楽しめないのが非常に残念。ということで普通の 2ch の CD レイヤーで、数多いマーラー 8 番の最新盤として、普通に評価するしかないのが寂しいところ。
さて、まず録音が素晴らしいです。ムンディらしい肌理の細かい残響豊かな音ですが、ヌケが良く直接音もしっかり捉えられていて、スケール感のある音響です。同じベルリンのフィルハーモニーでも DG などとはまるで違う音になりますね。Tutti などで高弦が埋没し、合唱と金管と低弦中心の音響になりますが、変にミキシングで強調せずにナチュラルな感じで収録してあり、肌理の細かい音色と相まってリアルに聴こえます。分離や定位はいまいちですが、全体像としてはとてもバランス良く、情報量もかなり多い録音。全部の音を聞き取れる録音ではありませんが、それでも既発の 8 番の中では最高の録音でしょう。先日発売されたラトルの EMI 盤と比べると雲泥の差です。ますます SACD 機が欲しくなりました。
演奏ですが、なかなか聴き応えのあるものでした。しかしながらラトルの時も感じましたが、独唱がやはり弱く、第 1 部はアンサンブルなので良いですが、第 2 部はハラハラドキドキでした。またオケと合唱はあまり派手ではなく渋めの音ですが、金管とオルガンは元気で派手に鳴らしているので、ナロウにならず硬質な印象であります。
第 1 部のナガノの指揮は、変に奇をてらったことはせず自然な流れの中で進んで行くように思えるので、最初聴いたときはあまり特色のない演奏と思えました。しかしじっくり聴くと、テンポの変化がかなりあり、それをあまり意識させることなく行っているので、意識レベルでは派手な演出効果は感じられないものの、決して退屈しない心地よい演奏と思えます。オーケストレーションの細かい部分 (スラーが付いているとか、付いていないとか) もこれ見よがしに強調しませんが、はっきりと演奏し分けていることは確か。テンポの緩急の付け方に好みの分かれるところかもしれませんし、マーラー的と言うよりブルックナー的な落ち着きも感じる演奏ですが、レベルは高いです。コーダでバンダの金管が入る部分の背後で、As dur の上行音型で波状攻撃を仕掛ける合唱など、鳥肌が立ちます。
第 2 部は異常なほどの力演。特に歌が入ってくるまでのオーケストラによる情景部分が怪演です。遅めのテンポの中、ドラマをじっくりと聴かせていきます。ここの密度の濃い曲作りだけで、ただ者でない第 2 部が始まったと思えます。その後合唱が入り、木霊のように歌い出しますが、この部分スコアをよく見ると同じ音形でもスタッカートのあるものと無いものがあります。これは普通 simile (同様に) だと解釈し全てスタッカートを付けて演奏されますが、ナガノの場合、スタッカートのある無しを区別して演奏しています。そういうつもりでスコアを眺めてみると、後半に向けて木霊が長引くように作られていますし、この旋律は次の "法悦の教父" にダイレクトに繋がるものなので、simile だと信じて疑わなかったのですが、意外と楽譜通りに区別するという解釈もありだなと思えました。
"法悦の教父" からいっそう遅い演奏となります。しかしここは "Moderato" の指示であるものの、二分音符の音価は前と変わらないとの但し書きもあるので、そちらを優先したのでしょう。その後のテンポはかなり変動し劇的ですが、一般的なテンポよりは全体的に遅め。そのじっくりと語って聴かせるストーリーテラーは見事で、引き込まれます。
しかし肝心の独唱は、そのほとんどが私にはしっくり来ませんでした。私はドイツ語はダイレクトには判りませんが、その背後にあるエモーションは言葉を越えて伝わってくるはず。そういうものがほとんど感じ取れませんでした。歌が音楽を引っ張っていくほどのパワーが欲しかったです。オケが表現している劇性に完全に負けていますし、歌が音楽を作るべき部分では、劇の緊張が途切れてしまいそうになっています。歌手としてはテンポが遅いので難しいのかもしれませんが。女声陣は安心して聴けるだろうと想像していましたが、さにあらず、こちらもちょっと心許ない。セッションにかなり日数を掛けたので、疲れてしまったのか。
その他、少年合唱に張りのある声の子がいなく、大人しい歌いっぷりで、"マリア崇拝の博士" より表に出なくてはならない部分でも影に隠れてしまっているとか、聴こえるべきところで出てきません。また "栄光の聖母" は舞台奥で歌っているようですが、遠すぎて聴き取りにくいなど、ドラマ性を損なう部分もありました。
"マリア崇拝の博士" ロバート・ギャンビルは、昨今のヘルデン・テノール日照りを考えるとなかなかの名唱ではないかと思いました。こちらもテンポの遅さに泣かされている感じですが。マリア様登場の後の "Blicket auf" 以降、音楽的にかなり充実しており、"神秘の合唱" などかなりのスローテンポですが、音量、緊張感ともに申し分なく、合唱及びオーケストラの力演で圧倒的なフィナーレを作り上げています。
録音は2004 年 4 月 29 日〜5 月 4 日、ベルリン、フィルハーモニー、大ホールにて。ライヴ録音ではありません。CD/SACD (2.0ch+5.1ch) のハイブリッド盤。
やはり《千人の交響曲》のリファレンスはショルティ/シカゴ響なのですが、あれもずうっと聞き続けていると予定調和的というか新鮮味が無くなってきます。で対抗馬としてテンシュテット盤も良く聴きます。そんな中でこのナガノ盤はダークホース的地位を占めそうです。独唱に問題があっても、私は基本的にオケの人間なので、オケが素晴らしい演奏をしていれば満足して聴いていられます。それにオーディオチェック用に使える録音の良さ。この自然な音場感はなかなか聴けません。SACD 機を購入した暁には、真っ先に聴きたい盤であります。でもやはり完璧な《千人の交響曲》は、なかなかありませんね。数年後のティルソン・トーマス盤に期待です。
2005年4月12日 22:12
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» 第57回 レナード=バーンスタイン&ウィーンフィル 「マーラー交響曲第5番」 from ぶらーぼぉ。
※本演奏は別盤を参考にしております。詳細は続きにて。
『ぶらーぼぉ。度』 : ★★★★★
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