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ベルリオーズ:幻想交響曲他/ノリントン [hänssler]
ベルリオーズ:
序曲『宗教裁判官』 op. 3
幻想交響曲 op. 14
シュトゥットガルト放送交響楽団
hänssler CD 93.103
2003 年 7 月 2-4 日、シュトゥットガルト、ベートーヴェンザールにおけるライヴ収録。
ピリオド奏法による《幻想交響曲》を持っていなかったので買ってみました。ノリントンは以前にロンドン・クラシカル・プレーヤーズと、古楽器による《幻想交響曲》を EMI よりリリースしていましたので、これは再録音になります。今回はシュトゥットガルト放送響なので、最近流行の、モダン楽器によるピリオド演奏となります。ノリントンはライナーノートで、「15 年前 (旧録の頃) は、18~19 世紀の作品は当時の楽器で演奏するべきだと考えていた。だが今では、器用なオケならモダン楽器を使っても同じ事が実現出来ると判った」と書いています。私は旧盤を持っていないので比較試聴できませんが、このシュトゥットガルト放送響との演奏を聴いた感じでは、楽器そのものによる違いより奏法による違いの方がより本質的な差なのだろうと思いました。
聴いてまず思ったのは、弦楽器の音質が、普段聞き慣れた弦の音とかなり異質であるということ。倍音成分が豊かなせいなのか、第 2 倍音 (基音のオクターブ上) がかなり目立ちます。柔らかな音なのですが、華やかで鼻につく腰の軽い音です。ノンビブラートで音程をピタリと揃えているので、このクセのある音はフランジングによるものかもしれません。MIDI でフランジングは当たり前ですが、生楽器でのフランジングは珍しい。アンサンブルの優秀さを証明する事柄でしょう。しかしフランジングはかなり耳障りな音です。しょっちゅうオクターブ高い音が聴こえ、全体的なバランスも低域不足に聴こえます。しかし同じコンビによるピリオド奏法のベートーヴェンではこのような音はしませんでしたし、弦楽器以外の音 (ティンパニや金管) もフランジングっぽく聞こえなくもないので、ひょっとしたらマイクのパイプが共鳴している音なのかもしれません。金管などカップミュートをしているっぽく、ミンミンした音です。カップの浅いマウスピースを使って、古楽器っぽい感じの音にわざとしているのかもしれませんが、実演に接したわけでもないので真相は判りません。
楽器の配置も独特です。ライナーノートに演奏時の写真が載っており、編成的にみて《幻想交響曲》演奏時の写真だろうと思いますが、弦楽器の対向配置はもちろんのこと、ハープも左右に 2 台ずつ、ティンパニも雛壇上段に並んだコントラバスの左右に 1 セットずつ対向配置されています。録音でもこの対向配置による効果は目覚ましいもので、2 楽章では左右ハープによる掛け合い、4 楽章では左右ティンパニの掛け合いがかなり刺激的な音響効果として堪能できます (3 楽章を中心としたシンメトリカルな構造もより鮮明となる)。これはノリントンのアイデアということではなく、ベルリオーズの指示がこうなっていたということです。弦楽器の対向配置も効果的で、そういうつもりでスコアを見てみると、かなりステレオ効果を意識したオーケストレーションがされていることが判ります。
演奏は、好き嫌いが分かれるものかもしれません。今風のビブラートかけまくりでコレステロールたっぷりなゴージャスな音が頭から離れない人は、きっここの CD を聴くと、貧粗で情感の乏しい演奏だと思うことでしょう。この曲が作られたのはベートーヴェンの時代とは数年も隔たっていないとか (第九の 6 年後)、少なくともマーラーの頃のオケはビブラートをかけたりはしなかったなどということを知っていたとしても、現代オケのゴージャスな響きでの演奏の方がこの曲に相応しいと感じることでしょう。かく言う私が最初聴いたとき、そういう印象を持ちました。しかしそういう固定概念を振り払い、目の前にある音に無心に向き合えば、今まで見えなかったものが見えてくる演奏です。
フランジング問題を別とすれば、ビブラートのない透明な音が全体的な見通しを良くしており、またフレージングやアゴーギクの作り込みも細かく判ります。マスのパワーによるダイナミックレンジは落ちるものの、巨大な室内楽のように階調豊かな表現が音楽の造作をこと細かく見せてくれます。様々な食材をブレンドし複雑に作り込まれたソースではなく、素材そのものの旨さがものをいう料理のような感じ。スコアを見ていると「どうしてこういう風に書くのだろう」と不思議に思えた部分も、響きが整理されたことで判然としてきます。解釈もピリオドだからといって古典派の交響曲のようになるわけもなく、表現が端正なだけでロマン派はロマン派なんだなと当然のことに感心してしまいますし、ベートーヴェンの数年後にこれだけの作品が書かれたことの革新性を強く感じます。
この曲はグロテスクな面がよく取りざたされますが、ノリントンはそれをことさら強調することはしません。4 楽章以降突然悪魔めいてくる演奏もありますが、ノリントンの解釈は 1 楽章から一貫した均質性が保たれていると思います (阿片を飲んだのが曲の始まる前という解釈か?)。例えば 4 楽章は一般的な演奏と比べると遅い部類に入る演奏ですが、冒頭のテンポが M. M. 二分=66 程度なだけで、金管のマーチ以降は楽譜の指示通りの M. M. 二分=72 になってます。つまり一般的な演奏の方が早いのです。楽譜通りのテンポだと快活なマーチではなく引きずられて行くような行進となり、ストーリーの要求する雰囲気が自然に沸き上がってきます。《幻想交響曲》のグロテスクさは、無理に演出しなくとも、楽譜に忠実でさえあれば自然に滲み出てくるのだと言わんばかりのところが、かえって不気味です。だからといってなにがなんでも楽譜通りという石頭なエセ「原典主義」ではなく、楽譜には無いクレシェンドやテンポ変化も積極的に取り入れ、楽譜はあくまでも出発点であるという姿勢にも感銘を受けます。
カップリングの『宗教裁判官』は初めて聴く曲ですし、宗教裁判官がどうした曲なのかも知りませんが、ウェーバーの序曲のような曲です。そう度々聴く曲では無いでしょうが、ウェーバーよりカッコ良い曲ですし、演奏も覇気があり良かったです。特に後半のリズム感は独特だと思いました。
録音は、前述のフランジング的な音が無ければ、抜けの良い鮮やかな音として評価できます。残響音が少な目でステージ上で聴くようなクリアさがあり、この演奏には合っています。《幻想交響曲》の冒頭など (00'14")、電気的なノイズが入るところもありますが、ヘッドフォンなどで聴かない限りは判らないでしょう。
聴き手を選ぶ演奏かも知れませんが、ハーレークイーンのような ^^;《幻想》に飽きた方や、ピリオドに興味のある方は楽しめる 1 枚ではないかと思います。《幻想》を聴き込んだ人向きとも言えるかも知れません。わたしも遅まきながらだんだんピリオドが判ってきた気がします。ピリオドによるブラームスやワーグナーなども聴いてみたいです。
2004年5月14日 17:57
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