« ストラヴィンスキー:《三楽章の交響曲》《ハ調の交響曲》他 ギーレン [hänssler] | カバーページ | ストラヴィンスキー:《春の祭典》 ティルソン・トーマス/サンフランシスコ響 (DVD)[AVIE] »
マーラー:交響曲第 5 番/ノリントン [hänssler]
マーラー:
交響曲第 5 番
SWR シュトゥットガルト放送交響楽団
hänssler CD 93.165
ノリントン/シュトゥットガルト放送響による、ピリオド風アプローチによるマーラー第 3 段です。
発売前から、「弦楽器のノンヴィブラート奏法による別次元のアダージェット」というのがセールスポイントになっていましたが、アダージェットにはマーラーによるヴィブラートの指示が一箇所あります (86 小節目の第 1 ヴァイオリンの全音符)。ここがどうなっているのかが、私のこの演奏の最大の関心事でした。
結果を先に言うと、ノリントンはこの部分(6'45")だけちゃんとヴィブラートをかけておりました (流れから、その次の小節もかけていますが)。しかもかなり効果的に。これ見よがしに揺らしている訳ではありませんが、それまでノンヴィブラートで貫いてきていた音色に混じると、これがかなり目立つのです。最後の盛り上がりの前の静かなため息のような凝縮された時間に、ここだけに聴かれるヴィブラート。これぞマーラーのロマンチシズムなのかと、ゾクッと鳥肌が立つ思いがしました。
ヴィブラートの指示があると言うことは、マーラーはヴィブラートを特殊奏法のひとつとして扱った訳で、要するに一般的な奏法ではなかったということが、スコアから読み取れる一般教養として知ってはいました。しかしヴィブラートをかけることが普通になった現代では、実際にその効果がどれほどのものなのかを体験することは、あり得なかった訳です。それだけにここで体験できる効果は貴重です。ノンヴィブラート奏法と普通のヴィブラート奏法、どちらが優れているかを一概に論ずることは不可能、というか無意味だろうと考えていますが、現代的な奏法で失われてしまうものは確実にあるわけです。
と、私がこの演奏で語りたいことは以上なのですが、これで終わりにしては折角読んで下さった方のニーズを満たさないでしょうから、一応全体的なレビューも試みたいと思います。
現代的なゴージャスなサウンドのマーラーではないので、その点での物足りなさは感じなくも無いですが、かといって透明感だけでこぢんまりとした演奏になっている訳ではありません。逆に音がうるさいほど立っており、辛口でエネルギッシュなマーラーです。第 1 楽章から早めの展開で、第 2 楽章を待たずしてかなり攻撃的。テンポ変化も細かく大胆、適度なあざとさがあり面白く聴けます。音がクリアなので、フレージングやアゴーギクなどへもっとこだわっても良いかと思いますが、どちらかというと全体的な激しさが優勢で、珍しくノリントンのうなり声などもよく聞こえるなど、緻密さとともにライヴらしいザックリ感も存在する演奏です。
しかしマーラー演奏として必ずしも全面的に肯定できる演奏ではないと思っています。編成的なシステムの問題か、奏法からくる問題か、録音の問題か判然としませんが、管楽器とくに金管が強く弦楽器の存在感が薄いというバランスの悪さ。金管吹きとしては嬉しいですが、なんかウィンド・オーケストラ的な変化の乏しい音色を聴いているみたいで、特に 2 楽章では、それがドラマの幅と奥行きも阻害しているように思います。さらに関連して 2 楽章では、終盤のニ長調のファンファーレに高さがなく、つまり、神々しさでもなんでも良いですが、硬直した音楽を突き破ってくる何かがないために、ただのパワフルなファンファーレにしか聴こえません。ここで先延ばしにされた解決が終楽章の同一ファンファーレでどう結論づけられるのかが、マラ5解釈の最大トピックだと思っている私は、この金管が圧倒するだけに聴こえるファンファーレには満足出来ませんでした。
第 3 楽章は、演奏そのものは良いのですし、オーケストレーション的にも管が弦を消す部分が少なく、バランスの問題はあまり顕在化しませんが、ドライな音質のために行間にあるべき叙情性が失われているように思えます。曲の展開の仕方など、なかなか良いのですが…。スコアの校訂報告で、オブリガート・ホルンは指揮者の横で立って吹くと提言されていましたが、それは実践してないようです。第 5 楽章は緩急の付け方が上手く、勢いのある演奏で聴き応えがあります。
録音は、2006年1月19-20日、シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザールでのライヴ収録。逆相成分がふんだんに入ったワイド感のある録音ですが、ホールトーンや音場感豊というより、オンマイクの各楽器が空間を埋めているという感じです。各楽器の分離が良いのは良いのですが、もう一歩引いたトータルなバランス感が欲しいところです。あと非常に音がこもったり、細く立ったりと、露骨に音質が変わるところがあり、相変わらずのヘンスラー・クオリティという感じですが、これより酷い音のメジャー・レーヴェルもありますので、それよりはぜんぜんまともに聴けます。
このシリーズはノリントン自身による解説も付いており、日本語訳も付けるなど、日本市場向けの配慮も積極的に行っていますが、今回のノリントン自身による解説はヴィブラート・フリーと楽器配置に付いての説明だけで、作品については別のライターが書いておりました。レクチャー好きなノリントンだけに、この作品に対する一家言を披露して欲しかったところです。
この演奏は第 1 楽章が凄く、ついで第 4 楽章の新鮮さが魅力なのですが、それ以外は、演奏内容は良いと思えるものの、何故か右脳に響くものがなく、正直言って良いのか悪いのか判らない演奏でした。しかしこういう判断領域は個人的な好みもありますので、興味のある方は是非ともご自身の耳で判断して頂きたいと思います。
2006年11月25日 11:26
この記事はどうでしたか? Bad ← 1 2 3 4 5 → Good
評定平均:(3.0) 投票人数:(300)
« ストラヴィンスキー:《三楽章の交響曲》《ハ調の交響曲》他 ギーレン [hänssler] | カバーページ | ストラヴィンスキー:《春の祭典》 ティルソン・トーマス/サンフランシスコ響 (DVD)[AVIE] »
トラックバック
トラックバックスパム防止のため、末尾の XXXXXXXXX 部分を上記画像の数字に置き換えてからご利用ください。お手数ですがご協力よろしくお願いいたします。
トラックバックが反映するまで時間がかかるかもしれませんし、エラーが出ても受け取れているかもしれません。重複トラックバックはこちらで削除しますので、特にコメントは不要です。
このリストは、次のエントリーを参照しています: マーラー:交響曲第 5 番/ノリントン [hänssler]:
» MAHLER/Symphony No.5 from おやぢの部屋2
MAHLER
Symphony No.5
Roger Norrington/
Radio-Sinfonieo... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年11月25日 13:59
コメント(3)
投稿者 jurassic_oyaji : 2006年11月27日 10:00
音友版を持っていないので確認してませんが、2002 年の新版で変更された箇所のようですね。
新版では、86 小節目の I.Vl. に zögernd と vibrato の指示があり、II.Vl. の c-d-e と上行するフレーズに mit innigster Empfindung との指示があります。つまり「深い気持ちを伴った」という指示は II.Vl. だけになっています。
校訂報告をみると、この部分は資料による不一致が多い場所らしいです。つまり mit innigster Empfindung がどちらの Vl. に付いているのか明確でないらしく、マーラーが最後に使った資料をもとに、新版での指示を決定したようですが、いずれにせよ "mit innigster Empfindung" は vibrato を修飾している訳ではなさそうです。
http://www.gustav-mahler.org/english/ の [Complete Works]-[Critical Reports]-[Notes] で、詳細が読めます。
確実な事は言えませんが、ノリントンは新版を使っているように聞こえますので、ここも指示にしたがってヴィブラートをかけたのでしょうね。
投稿者 渡辺純一 : 2006年11月27日 11:31
その後、jurassic_oyaji さんとメールでやりとりした内容です。(引用>は jurassic_oyaji さんの発言)
>確かに、このあたりのマーラーの指示が曖昧だというのは、良く分かりました。
>ただ、「mit innigster Empfindung 」がセカンドに対する指示だというのは、
>ちょっと変なような気がします。
>23小節目の「mit Empfindung 」はは明らかにファーストに対する指示なのでしょうから、
>同じような部分である86小節目で単なる伴奏に過ぎないセカンドにその様な指示は
>おかしいと思いますが。
おお、本当だ!凄い。気が付いていませんでした。
そうですね。23 小節目の "mit Empfindung" があるからこそ、86 小節目の "mit innigster Empfindung" が意味を持つ訳ですね。校訂報告には、マーラーの自筆総譜では "zögernd" と"mit innigster Empfindung" が Vl.I の上に書かれているとなっているので、そちらの方が正しい気がしてきました。
つまり
zögernd
mit innigster Empfindung
vibrato
この 3 つが共にこの Vl.I の全音にかかっているということで、"innigster" の具体的な指示が vibrato だと捉えるのが理にかなっていますね。
> いずれにしても、新版での改訂を鵜呑みにしてしまうのもちょっと危険なような気がしますね。
新版は、マーラーが最後に使ったパート譜セットをその根拠としていますが、新たな思い違いが入り込んでいる可能性はあるでしょうね。またやはり編集者による「どちらが正しいか」という取捨選択も入り込む訳です。
しかし新版では、校訂報告に(重要なものは楽譜上に) 別の可能性も書かれています。例えば 4 楽章の 74 小節目には [Korr2(第 2 改訂版)ではここにマーラーの筆跡で a tempo と書いてある] などとありますし、各版の差異をかなり詳細に記録してあるので、編集者が切り落とした素材を吟味する機会は与えられています。今回の件も、校訂報告がしっかりしていたから責任の所在を明らかに出来た訳ですし、そういう意味では信頼性の高い資料であると思います。ま、楽譜だけを信じてはいけないということですね。
投稿者 渡辺純一 : 2006年11月28日 15:51
コメントがありましたらどうぞ
メールアドレス・URL は必須ではありません。コメントは管理者が承認してからページに反映されます。 もしページへの表示を望まない場合は、その旨一筆添えて下さい。削除は管理者へ依頼して下さい。

アダージェット86小節目の「ビブラート」の表示ですが、私のスコア(音友リプリント版)では、それ以下の「mit innigster Empfindung」と続いた表記のように受け取れます。つまり「深い気持ちを伴ったビブラート」ということで、この音符だけにビブラートをかけるというのではなく、この部分だけは特別の気持ちを持ってビブラートをかけて欲しい、そして、他の部分でももちろんビブラートはかける、というマーラーの気持ちのあらわれではないのかと思うのですが、どうでしょうか?