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マーラー:交響曲第 8 番/ラトル [EMI]
交響曲第 8 番 変ホ長調《千人の交響曲》
サー・サイモン・ラトル指揮
バーミンガム市交響楽団、バーミンガム市交響合唱団、ロンドン交響合唱団、バーミンガム市ユース合唱団、トロント児童合唱団
クリスティン・ブリュワー(S)、ゾイレ・イソコスキ(S)、ユリアネ・バンゼ(S)、ビルギット・レンメルト(A)、ジェーン・ヘンシェル(A)、ジョン・ヴィラーズ(T)、デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(Br)、ジョン・レリーア(B)
ラトルのマーラー交響曲チクルスもいよいよ完結。第 1 弾である 2 番 (ボーンマス響との第10番を別として) が 86 年の録音ですから、完結に 18 年費やしたことになりますね。ラトルのマーラーは賛否両論というか、どちらかというと否の意見が多かったように思えますが、私にとっては、録音の問題を抜きにすればなかなか聴き応えのあるエキサイティングなマーラーだったと思います。ほぼバーミンガム市響と録音してきたこのチクルスも、後半はウィーン・フィルやベルリン・フィルを使うようになってきており、ベルリン・フィルの常任となった今、残された 8 番もベルリンと録音するものと思っていましたが、古巣のバーミンガム市響との録音。最後に花を持たせた格好でしょうか。
さて、《千人の交響曲》でさらに EMI ですから、まずは録音が気になります。冒頭のオルガンがズンと響きこれは結構イケそうですが、その後のテュッティが意外と広がり感不足。ま、バランスは悪くないし、かなりワイドレンジな録音なので期待して聴き進みます。しかし独唱が出てくると事態は怪しくなります。独唱のレベルが大きすぎて、オケの音が聞き取りにくい。まるで独唱だけ別録りにしたみたい。合唱との絡みやオケとの絡みもバランスが悪くぶち壊しになっています。第 2 部の独唱はクローズアップされてしかるべきなので気になりませんし、オケの音もかなり聴こえるようになるのですが、第 1 部のこの音響設計はかなり疑問です。オケも各パートが書き割り調で、パート毎に分離して聴こえますが、まあこれは上手くまとめてあるかと思えます。
演奏ですが、私から言わせれば特に第 1 部はショルティの二番煎じ。音楽をどう機能させ発展させるかという設計 (解釈) や、なによりも雰囲気の作り方がショルティの演奏と酷似していると思います。勿論ショルティではなくラトルが振っているわけですし、オケも独唱もショルティのスーパー軍団とは違うので、何から何までそっくりという訳ではありませんが、いくらなんでも同じ音楽を目指しすぎではないかと思えるのです。そうくると、バーミンガム市響も頑張っていますがやはりシカゴ響の底力には敵いませんし、なによりも歌手陣のレベル低下ぶりは危機感を感じてしまいます。
第 2 部もショルティ風の演奏とは思いますが、第 1 部よりは独自性が見られ面白く聴けます。ですが問題点も多い。冒頭の器楽のみの部分は木管が強くアンバランスな録音で、重要な 1st Vn. のトレモロが全然聞こえません。再生装置の S/N 以下のレベルで収録されているので、弾いてないのかと思いました。またこの曲はオペラ風に劇的なドラマ性を持っており、ラトルもそれを描出しようと特にテンポの変化を大きく付けて奮闘しておりますが、オケの反応が良すぎるのか、実に物わかりの良すぎるドラマ展開となっており、含蓄に欠けるきらいがあります。
音楽にも慣性の法則というものがあり、運動の方向を変えようとするにはそれなりのエネルギーや効果的なタイミングなどが必要で、その辺のせめぎ合いが説得力などになっていくと考えますが、ラトル/バーミンガム市響は質量0の世界で演奏しているようで、慣性や摩擦が生じない、ジョイスティック1つで自在に方向転換できるような操作性を獲得しており、かえてその自在性が仇となっているように思えます。1 フレーズだけテンポを重くして強調しようにも、易々とテンポが変わるので、たいして強調にならない。ベルリン・フィルとの 5 番もテンポの変化の激しい演奏でしたが、こちらはベルリン・フィルの慣性が巧く働き、緊張感のある演奏になりました。バーミンガム市響では、やりたいことは良く判るのですが、やるべき事が見えすぎているが為に音楽を見失っていると思えます。とはいえ、ラトルのテンポ設定は的を射ていると思いますので、感動は得られないものの面白くは聴けます。最後の金管のバンダの部分など聴いたことのないハイテンポで、第 1 部の再現を強く印象づけることに成功しています。
独唱陣の出来は現在の声楽レベルからするとまずまずなのでしょうね。にしては綺麗な声を出すのに一生懸命で、正確なテンポで楽譜通り歌うことすら絶望的な状況です。特に男声陣は大変で、テノールのヴィラーズはとにかく走るので、感動的なはずのマリア崇拝の博士もいまいち。追随する器楽ソロが上手くフレージングで辻褄を合わせており、そちらの方に感心します。一番関心して聴いていられたのがユリアネ・バンゼの栄光の聖母ですが、全曲で 25 小節しか出番が無いですからね。この人にはもうちょっと歌って欲しかった。
さて、辛口な意見が多くなってしまいましたが、バーミンガム市響の演奏としては悪くは無く、今までのラトル/バーミンガム市響によるマーラーの中でも屈指の出来ではあると思います。ライヴでこれだけの演奏&録音が出来るのですから、本来はもっと褒めねばならない位でしょう。しかし正直な気持ちベルリン・フィルと録音して欲しかったですね。それならもうちょっと音楽的な味付けが成功したのではないかと思えます。でもラトルのマーラー録音はそのうち二巡目に入るんじゃないでしょうか。初録音から 20 年近く経ちますからね。8 番は声楽界全体の底上げがされないと難しいかもしれませんけど。
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マーラー:交響曲第 8 番/ラトル
2005年2月15日 17:18
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