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ストラヴィンスキー:《春の祭典》/ラトル [BPH]
バレエ音楽《春の祭典》
カリム・セバスティアン・エリアス:
「ベルリン・フィルと子どもたち」映画スコア(小曲6曲)+主題歌 "Versteck Dich Nicht!"
サイモン・ラトル指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (春の祭典)
ゲルノート・シュルツ指揮/アカデミー・オブ・ベルリン・フィルハーモニー他 (映画スコア)
BPH0451 (SACD+CD Hybrid)
ラトル/ベルリン・フィルの《春の祭典》が、ベルリン・フィルハーモニーの自主制作盤としてリリースされました。これは "RHYTHM IS IT" (邦題『ベルリン・フィルと子どもたち』) という映画のサントラ盤の中に収録されているものです。この映画は、250 人の子供達が 8 週間のリハーサルを行い、ベルリン・フィルの演奏をバックに《春の祭典》を踊るという、ベルリン・フィルの「教育プロジェクト」のドキュメント映画ということです。
映画のサントラ盤ではありますが、ラトル/ベルリン・フィルの《春の祭典》をメインに、映画用スコアをボーナストラックとして付けたような体裁になっています。映画スコア部分は、カリム・セバスティアン・エリアス作曲の 20 分ほどのオリジナルスコアで、アカデミー・オブ・ベルリン・フィルハーモニーという次世代を担うメンバーでの演奏。感傷的でもの寂しい感じの、ありふれた映画音楽でした。トラック 8 の冒頭のファゴット・ソロがどことなく《春の祭典》をもじっているのかも。
ラトルの演奏が EMI 以外の録音で聴けるというのは初めてでしたので (DVD みたいなのは別として)、その点でも興味ある CD です。
曲の冒頭にラトルが楽団員を前にして行ったスピーチが入っています。「様々な国の様々な階層から集まった子供だけのダンスカンパニーと舞台を創れるのは、信じられないほど素晴らしい試みだ」のような事を言っています。「性別も様々……、3 種類だが」などと言って、団員がウケていました。
さて演奏ですが、かなり素晴らしい。特に弱音部分の美しさは絶品で、第 1 部と第 2 部の「序奏」など表情豊かで、良く歌っています。冒頭のファゴット・ソロもルバートが深く、尺八的な節回しに近いです。その後のスコアの半分以上の段を占めてみっちり書き込まれた木管群も、そっくりそのまま明瞭に音化されており、聴き応え抜群。2/4 拍子でリズミックに曲が動き出すと、センセーショナルさは少ないのですが、ガッチリして重量級なベルリンの音が炸裂。安定感のある演奏を堪能できます。
この曲は、アクセントの指示だけでも、> だけでなく、山アクセント"∧" や楔アクセント"▼"(マルテラート)、sf が付いたスタッカート、sf が付いたマルテラート等々、こんなもん区別して吹けるか!というほど指示がごちゃごちゃしています。ラトルの演奏はこれらの指示を明確に区別して演奏し……などど書きたいところですが、そういった精度にこだわった演奏ではありません。が、一般的に強いスタッカートであるマルテラートを、長めにして音の切りをコントロールしているところが印象的でした。基本的に飛ばす音より、置く音なのです。それだけ演奏もがっちりして聴こえます。ストラヴィンスキーの目的も、要するに音を際立たせることにあるので、狙い通りの効果は出ているでしょう。
解釈的には、88 年のバーミンガム市響との録音とあまり変わりなと思いますが、バーミンガム市響との演奏は悪く言えばヒステリック。音やリズムのキレはバーミンガム市響の方が冴えがありますが、眉間に皺を寄せたような演奏で辛気くささが漂っている感じ。方やベルリン・フィルは、解放的で、楽しんで音を出しているように聴こえます。口を大きく横に開いたラトルの笑顔が思い浮かびます。その分前衛的な印象は薄れているのですが、ま、《春の祭典》に前衛性を求める時代でも無いでしょう。仕上がりの良さではバーミンガム市響も捨てがたいですが、雰囲気はベルリン・フィルが良いです。
この演奏で実際に子供達が踊ったのかは判りませんが、楽譜に書かれている部分以外にテンポを揺らすことが極力少なく、踊ることを前提とした演奏であると思いました。通勤時に歩きながらチェックしましたが、合わせて歩いても、乱れることなく長い間歩けます。堅牢な印象はこの揺れの少ないテンポ感からも、もたらされているのでしょう。テンポに匙加減がないからといって抑揚の無い演奏というわけではなく、他の部分でつじつまを取っているので、聴いているだけではきっと判らないでしょう。リズミックなダンス部分はストイックに、序章などはその分叙情性を持たせているという構成と思います。
録音は EMI で聴く音より遙かに自然で良いです。幾分音の芯がはっきりせず、僅かに埃っぽい音ですが、抜けは悪くなく、情報量は多く、音場感も立体的。録音の勘所、「若い娘達の踊り」の Hr. のグリサンドとか、「大地の踊り」の 6,8 Hr の 3 連符とか、「聖なる舞踊」のピッコロ Trp. とかは、大音響に埋没しているのが残念。オーディオマニアにも受ける録音かは微妙なところで、グランカッサなどの量感は凄いのですが、サンバルアンティークの鳴りはいまいち。スペアナで見ても 1kHz 以上なだらかに落ちています。もっとも私が買ったのは SACD とのハイブリッド盤なので (CD も出ていますが 100円しか違わなかった)、DSD で処理してある訳です。SACD で聴くとどうなるのかは判りません。この CD はディストリビューターが Naxos なので、録音はきっと違うと思いますが、Naxos っぽい音に聴こえなくもありません。
ラトル/ベルリン・フィルだからとセンセーショナルな演奏を期待している方は「期待はずれ」ということもあるかもしれませんが、在り来たりな《春の祭典》よりは遙かに高水準で面白い演奏だと思います。さらに、この演奏のバックで子供達が踊っていることを想像すると、鳥肌が立ちそうです。映画自体はそんなに見たいとは思いませんが、本番のバレエだけは見てみたいと思いました。
2004年12月 9日 17:36
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