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R. シュトラウス:《ばらの騎士》 (1926 映画音楽版)/ヤノフスキ [Capriccio]
《ばらの騎士》 (1926 映画音楽版)
マレク・ヤノフスキ指揮
ベルリン・ドイツ交響楽団
Capriccio 60097 (2CDs)
R. シュトラウスの《ばらの騎士》に映画版があったことを知らなかった私は、店頭でこの CD を見て非常に怪訝な想いに駆られました。CD 2 枚組みで 4,250- とはかなり躊躇ってしまう額でしたが、 珍しかったので思い切って買ってみました。
映画『ばらの騎士』は、R. シュトラウスの台本作者ホーフマンスタールによって計画されました。第一次世界大戦の影響で 2 人は経済的に被害を被っており、ホーフマンスタールはオペラと映画の相乗効果を狙うため映画化の計画を積極的に進めたのですが、R. シュトラウスはあまり関心を示さなかったようです。ホーフマンスタールはオペラを下敷きに新たな台本を作りましたが、音楽は既存のものを組み合わせればいいからとシュトラウスを説得したということです。
シュトラウスはこの頃多くの仕事を抱えていたため(《泡雪クリーム》《エジプトのヘレナ》《パレルゴン》など 1 ダースもの作品をこの頃に手がけていた)、映画版の作編曲はオットー・シンガーとカール・アルヴィン (ウィーン国立歌劇場の指揮者) に任せ、シュトラウスは曲の構成と仕上がりの監修をしました。映画監督は『カリガリ博士』で知られるローベルト・ヴィーネ。1926 年のドレスデンにおける初上映とそれに続くロンドンでの上映では、シュトラウス自身が指揮をしましたが、映像に音楽を上手く合わせられず (もちろんこの映画は無声映画なので、映像に合わせて生演奏する必要がある)、映像と音楽がずれてしまったとのことです。その後、制作会社が倒産したためこの映画は普及せず、現在残るフィルムも最後の部分が欠落しているとのこと。
ストーリー展開はオペラとは同じではないようで、オペラには登場しない元帥が出てきますし、オクタヴィアンもスボン役 (女性歌手による男役) ではなく男性俳優が演じているようです。スボン役でないとなると、女装したオクタヴィアンにオックス男爵が色目を使うことから始まるこの物語が、まるっきり違ったものになるでしょう。
オペラで 3 時間 20 分を擁する音楽を、2 時間半のフィルムに合うよう再構成されています。それだけでなく映画独自のシーンもあったため幾つかの新しい音楽も作られました。曲順もオペラとは大幅に変更され、オペラの幕順は大体踏襲されているものの (それでも幕を越えて移動している曲もある)、幕内での曲の移動は激しく、スコアを見ながら聴いていたのですが、あっちへ飛んだりこっちへ戻ったり、追うのはかなり骨が折れました。第 1 幕の終幕の音楽のように度々出てくるものもあります。オペラの幕のような区切りは無くなり、2 時間半の全曲が 1 曲のようになっています。ホーフマンスタールと R. シュトラウスは「映画」というものをよく理解していなかったということですが、少なくとも音楽だけを聴く限り、2 時間半ノンストップで演奏される音楽を、ピタリと映像にシンクロさせることは至難の業でしょう。映画的な発想が根本にあった訳ではなく、舞台を映像にすれば経済的♪〜的な発想だったのかも知れません。
新たに作られた音楽はマーチが多く、《ばらの騎士》の音楽とはあまり巧く繋がってないように思えます。独立性が高くそれ単独でも演奏可能な音楽になっており、まるで劇中音楽の様な雰囲気。そんな中でも、第 3 幕の前奏曲の替りに挿入される「戦いの音楽」は秀逸で、《祝典前奏曲》のような華々しさと派手なオーケストレーションがシュトラウスの面目躍如といった作品になっています。それに 3 幕の後半部分では「クープランのクラブサン曲による舞踊組曲」というバロック音楽も挿入されていて、意表を衝きます。
映画用の伴奏音楽なので、歌はありません。歌のパートに関しては、問題無ければただ単にオミット、どうしても必要なものだけ最小限に器楽化されています。歌が無いため随分雰囲気が変わってしまった曲もあります。また歌無しでも自然な流れを確保するために、数小節単位での細かい刈り込みを随所で行っており、オペラからの管弦楽編曲の方法論としても参考になります。それでも使用されている部分の音楽はオペラのスコアをそのまま使っている部分が多く、オーケストレーションががらっと変わってしまっている訳ではありません。オペラのカラオケを聴いているようなものですが、もとからオケ作品だったかの如く違和感を感じないのが凄いところです。
オペラで印象的だった音楽は、この映画版でも聴けます。特に第 1 幕での物売り達のシーンはかなり上手く再現されており、特に有名な、テノール歌手による劇中歌もチェロの曲として盛り込まれていて、聴いていて嬉しくなります。それに随所に現れる数々のワルツも歌に邪魔されずに (^^; 堪能できますし、第 3 幕での舞台裏で演奏される音楽もメインナンバーとして聴けるのも嬉しいところ。
この CD の演奏は、例えば既存の管弦楽組曲で聴ける様々な演奏と比較しても一歩抜きん出ているなどということはありませんが、演奏水準は十分高く、聴いていてなんら不満な点はありません。オペラ録音と比較するなら、圧倒的に細部のテクスチャが良く聴き取れ、歌などに埋もれていた音楽が魅力的に語りだす様を、十二分に描き出していて立派です。それまでは裏方だった伴奏音楽を、それだけで十分鑑賞に堪える演奏にするのですから、オケピットで演奏するのとは訳が違う完成度を要求されるのです。それこそ R. シュトラウスの交響詩を 2 時間半ぶっ続けで演奏するようなものです。といってもこの録音は 1997 年 1 月から 99 年 1 月まで複数回のセッションで録られたようなので、それだけ演奏者の負担は分散されている訳でしょうが。
録音も、今まで Capriccio はあまり良い印象を持ってなかったのですが、この CD では実に良く録れていました。肌理が細かく量感も充分な音で、室内楽的な繊細さも上手く出ています。音場感も優秀で、包み込むような音場の中、各楽器がはっきりした存在感を持って点在する様子が手に取るように判ります。
《ばらの騎士組曲》を割り増しして 2 時間半に引き伸ばしたようなものなので、交響詩のような緻密な構成感などはなく、悪く言うとだらだらと《ばらの騎士》の音楽を聴かされているという感も無きにしもあらずですが、それでも飽きることなく (私が R. シュトラウス好きだからか? ^^;)、充分《ばらの騎士》の音楽に浸れて非常に幸せ感を得られる CD でした。歌のある本物のオペラも良いですが、管弦楽だけで音楽をじっくりと堪能出来るのもまた格別です。オペラのストーリーからはすっかり破綻した構成なので、オペラを知らないから聴けないという事もないですし、交響詩のようなつもりで聴くと面食らうかもしれませんが、組曲版に親しみを持てるのなら十分にお薦めできるディスクです。でもやっぱり 2 時間半は長い (^^;。さらに再構成して CD 1 枚にまとめたマイディスクにするのも良いかも。どうせなら、同じ様な趣向で他のオペラも聴いてみたいと思いました。
2004.3.11
2004年3月11日 11:29
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