« バルトーク:協奏曲集/ブーレーズ、クレーメル、バシュメット [DG] | カバーページ | マーラー:大地の歌/マイケル・ティルソン・トーマス [SFS Media] »
SHM-CD は買いか?
最近 SHM-CD が新聞・雑誌・テレビレベルの記事でも取り上げられ、その高音質ぶりが盛んに持ち上げられているのを目にする機会が増えました。かくいう私は、SHM-CD でリリースされる CD があまりにも定盤すぎて買いたいと思ったこともなかったのですが、「これが SHM-CD だ!」という体験 CD が 1,000 円と安かったので、物は試しに買ってみました。
まず SHM-CD というものを簡単に説明しますと、従来の CD 記録面を覆うポリカーボネート樹脂を、液晶パネル用の素材へ変更することで透明度を増したものだそうです。またこの素材は高流動性・高転写性を有するため、綺麗なピットが作れ、複屈折・ジッターにも優れているとの説明があります。
CD から得られる信号は、デジタル信号として見れば、どんな素材で CD を作ったとしても同じ信号が取り出せる訳ですが、アナログ信号として見ると、完全に綺麗な矩形波として得られるわけではなく、アナログ信号としての精度が低いと、サーボやら何やらが余計に働き、ノイズが増え、結果的に最終的なアナログ音声を汚してしまいます (と、私は理解しています)。読み出し時の信号クオリティを少しでも上げるための工夫は、新素材系として金蒸着 CD やアートン盤、最近ではガラス CD などがありましたし、CD の縁を緑色に塗ったり、超音波洗浄機で CD を洗うといった対策もありました。そしてどの対策も大なり小なり実際に効果がありました。今回はポリカーボネートにメスが入れられた訳ですが、素材の特性が説明通りなら、良くならないはずがありません。
今回購入した体験サンプラーは、計 11 曲収められていますが、ハイライトというよりは楽章まるまるという感じで収められており、観賞用としてもそれなりに使えるものです。そして同じスタンパーから作られた CD 盤と SHM-CD 盤の 2 枚が入っており、比較して聴くことが出来ます。
CD と SHM-CD を比較して聴いてみてビックリ。鳴らした途端に「おお違う!」と判るほどの差がありました。SHM-CD の音は確かにクリアーで、腰も据わっており、定位も恐ろしくクッキリしています。特に従来の CD とは音の伸びと安定感が大きく違うように思い、これはいくつか買い換えを検討した方が良いなぁと思わずにいられませんでした。
まあ普通ならこれで満足して SHM-CD は素晴らしい!という結論で終わりになってしまうでしょうが、意地悪な私は元ネタとなっている音源の輸入盤 CD を引っ張り出してきました。まずはショルティの《ニュー・ワーグナー・デラックス》。なんだこれは!まったく違う音ではないか!! 安定感は確かに SHM-CD の方があるけど、音の粘りや空気感、ふくよかな音場感は輸入盤の方が好ましいじゃん。そしてバーンスタインのマーラー 5 番。もともとハープに変な癖があり不自然な音響だけど、輸入盤の方が各楽器の間に音が詰まっており、雰囲気が良い。クオリティで見れば SHM-CD の方が良いのは確かだけど、従来盤も健闘していて、少なくともサンプラー CD で聴いたほどの圧倒的な差を感じない。というかサンプラーの通常盤 CD の音があまりにも悪い。一枚 3,000 円もの大枚はたいて買い換えようという意気込みが、急速に萎えてしまいました。
その後、ショルティのワーグナーに関して、波形データを調べてみましたが、サンプラーは確かにどちらも同じ波形だったものの、輸入盤とは若干違っているのが判りました。つまりプレスの差ではなく、データ自体が違っていたのです。サンプラー CD はレベルを調整していると書いてありましたが、波形を見たところそれだけの差とは思えません。SHM-CD の効果はサンプラーで明らかなので、それ自体にケチは付けませんが、しかし輸入盤から買い換えても同じ程度の満足感が得られるかは疑問が残ります (これは趣味の問題で、SHM-CD の方が良いじゃんという人が多くても不思議ではありません)。容器が良くなったとしても、マスターが良くなかったとすれば、良くなった部分と悪くなった部分を秤にかけることになり、もうこれは好みの領域です。...しかし、もともとデジタル録音のマスターなのに、なぜに元のデータが違うのだろうか? 国内盤は日本人向けのマスターリングをしていると言うのは本当だったのだろうか?
SHM-CD というか、液晶パネル用ポリカーボネート樹脂を使うという技術自体は、光学式ディスクの革新とも思えます。しかし現在の SHM-CD は初回限定発売というプレミアを付けて、斜陽の CD 業界に買い換え特需を生みだそうという段階のようで、いずれ金蒸着 CD やアートン盤のように廃れる運命を辿る可能性もあります。音源も古くさいのばかりで録音の良いものは少ないし、さらに国内のマスターはいまいちかもと思うとなかなか触手が動きません。新譜も SHM-CD にはしていないし、数ヶ月後に SHM-CD 化!とか言ってまた買い換えさせようと狙っているのかも知れませんけど。
今後増産体制を整え、他社からもリリース出来るような環境にしていくようですが、海外にも出していって、スタンダードなものにしていって貰いたい。そして CD だけに限らず、SACD にも DVD にも Blu-ray にも広げていって貰いたい。映像ソフトは、経験上、ディスクに小細工してもたいして画質の向上に繋がらない気がしますが、きっと SACD には効果があるんじゃないでしょうか。SHM-CD があれば SACD はいらないといった論調もありそうですが、これは "CD" の音を良くするだけの技術ではないでしょう。音は良いですがお値段も高いですでは、結局ニッチな市場にしかなりません。明らかに良い技術であることは間違いないので、今度こそ戦略を間違えず広く普及させていってもらいたいものです。CD は国内盤がほとんどという人は、ガンガン買い換えてお布施していって下さい。そして私は、輸入盤が SHM-CD になったら、買い換えを検討することにしましょう。うーんでも、ニュー・ワーグナー・デラックスだけは買おうかな。
私の意見を鵜呑みにせずに、ご自身の耳でお確かめ下さい。
2008年9月11日 16:26
この記事はどうでしたか? Bad ← 1 2 3 4 5 → Good
評定平均:(3.0) 投票人数:(219)
« バルトーク:協奏曲集/ブーレーズ、クレーメル、バシュメット [DG] | カバーページ | マーラー:大地の歌/マイケル・ティルソン・トーマス [SFS Media] »
トラックバック
トラックバックスパム防止のため、末尾の XXXXXXXXX 部分を上記画像の数字に置き換えてからご利用ください。お手数ですがご協力よろしくお願いいたします。
トラックバックが反映するまで時間がかかるかもしれませんし、エラーが出ても受け取れているかもしれません。重複トラックバックはこちらで削除しますので、特にコメントは不要です。
このリストは、次のエントリーを参照しています: SHM-CD は買いか?:
» SHM-CD Compilation from おやぢの部屋2
Ride of the Superior Sound
SHM-CD Compilation
Various Artis... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2008年9月29日 20:04
コメント(6)
投稿者 KenKen : 2008年9月24日 03:33
KenKen さん、はじめまして。
店頭の試聴機というプアな環境でさえ SACD のポテンシャルの高さは充分に伝わるほどですので、CD ラジカセなんかにも搭載していって、SACD を積極的に推進していって欲しいと思うのですが、SHM-CD が出たことでますます流れが悪くなるんではないかと思えますね。確かに従来の CD よりはかなり良くなるので良い技術であることは間違いないですが、そもそも CD は 48kHz オーバーサンプリングなどで収録したものをダウンコンバートしてたりするわけですから、SACD で聴く方が良いに決まっています。
SHM-CD で音質というものに目覚めたユーザーに対し SACD の方へ誘導していくという流れが生まれればベストなんですがね。そのためにも PS3 の SACD 再生機能が復活して欲しいところです。私自身、当時の PS3 が欲しい。音質もかなりこだわっていたようですね。
投稿者 わたなべ(管理人) : 2008年9月24日 09:36
SACDは再生装置を良くすれば良くする程どんどん音が良くなる「天井知らず」の規格だと思います。CDのように費用対効果の面から頭打ちになる事がほとんど無いんですよね。特にマルチですときっと財布の方が先に参ってしまうんじゃないかと・・・(笑)オーディオファイルには夢のような規格だと思いますが、やはりiPodの時代にはオーバースペックなのでしょうか。
PS3のSACD再生機能、絶対ですよね。PS3でBlu-rayもSACDも牽引して欲しい。ソニーでさえSACDは切り捨ての方向なのでしょうか。Blu-rayとSACDを合体せる魂胆なのでしょうか。私はSACDの音質が楽しめればそれが「SACD」と呼ばれようが「Blu-ray」と呼ばれようが拘りません。とにかくSACDのような高音質規格が消滅さえしなければ満足です。これからどうなるのか、ちょっとハラハラ・ドキドキです。
投稿者 KenKen : 2008年9月27日 00:59
"SHM-CD" でググってみましたら、懐疑的な意見が結構見られますね。多くの人が書いている「金額差に見合うほどの音質差はない」という意見は、まったく同感です。そして SHM-CD が脚光を浴びることで、再び SACD が見直されているような印象を受けました。良い傾向です。でも SACD 自体が風前の灯火のようで、輸入盤でもハイブリッドなのが減っていますよね。
SONY は DSD ディスクというのに手を出しているし、Blu-ray に DSD を載っけてくるかもしれない。しかしいずれにせよまだまだこれからですよね。HD DVD が消えて Blu-ray が盛り上がって来ましたが、DVD-Audio が消えたからといって SACD が盛り上がる訳でもない。メーカーが高音質ディスクの方を向いてないからですね。SHM-CD がこんなに注目されるということは、より良い音を楽しみたいというニーズは少なからずあるということなので、もっとオーディオの方にも向いて欲しいものです。高級機が無くなるのも寂しいですが、ローエンド機やポータブル機など一通りのラインナップが欲しいものです。
投稿者 わたなべ(管理人) : 2008年9月29日 17:20
はじめまして。音質に関しては、結局のところ、盤面の方を改善するよりも、装置を改善するのがいいのではないかと思っています。スピーカー、アンプ、プレイヤーのうち、どれひとつを買い換えても音が変わります。低コストで音質が改善すると歌っている、SHMやSACD、ブルーレイは、結局は、ダウンロードに押されているレコード会社の値上げの口実でしかないと思っています。ipodで聞く場合、SACDはまず意味がない。SHMなども試してはいませんがまったく意味がないんじゃないかと思います。
ソフトのポテンシャルを出し切れていないハードの問題でしょうね。最近ではオークションで高額のハードが案外安く手に入るし、そもそも新品ソフトよりも中古のソフト購入の方が私は増えています。
投稿者 bruckner2006 : 2009年7月20日 12:02
bruckner2006 さん、コメントありがとうございます。
装置を改善した方が効果あり。100%同意します。SHM-CD とか Blu-spec などは、買い替えたその CD のみにしか効果がありませんが (効果があればの話)、装置を変えれば、それまで購入して来たライブラリ全てに効果が出ますからね。SACD については、私は否定しませんよ。DVD から Blu-ray に移行してしまったら、もう DVD の寝ぼけ画質には戻れなくなりましたから、SACD でも同じ事になるハズです (まだ SACD の導入はしていません。ソフトは多く持っていますが)。
プレスで音質が変わる事は周知の事実なので、メーカーサイドで音質の良い入れ物を開発しようという試みは、実にオーディオ的で良い事だと思いますが、良いものを作ろうという開発屋の意地というより、買い替え需要の掘り起こしのための規格という匂いが、製品やマーケティングから漂って来ますからね。自信があるなら海外にも売り込めば良いでしょうが、そんな展開もなさそうだし、もしも万一ワールドワイドな規格にになったらなったで、高い国内盤はまた買われなくなってしまうでしょうし。
SHM-CD は結局この後 1 枚も買っていません。音質も値段もラインナップも全然魅力ないです。世間的にもすでに下火なのでは? プレミア価格を止め、枯れた技術として今後使われて行くのでもなければ、生き残らないでしょうね。その前に魅力ある新譜を出せないところが、小手先に走る原因なんでしょうから、もう悪循環ですね。
投稿者 わたなべ(管理人) : 2009年7月21日 16:44
コメントがありましたらどうぞ
メールアドレス・URL は必須ではありません。コメントは管理者が承認してからページに反映されます。 もしページへの表示を望まない場合は、その旨一筆添えて下さい。削除は管理者へ依頼して下さい。

はじめまして、いつもこのブログの更新を楽しみにしております。
SHM-CD、私も試しましたが話題になっている程音質の改善は認められませんでした。考えてみれば所詮16ビット/44.1khz規格ですから、劇的に変わることを期待することの方が理不尽ですが・・・クラシックはやはりSACDのマルチで聴くのが現時点ではベストだと思います。これに慣れるとCDで音質追求するのが時間の無駄のように思えてしまう程です。