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R. シュトラウス:バレエ《ヨゼフの伝説》/シノーポリ [DG]

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R. シュトラウス:
バレエ《ヨゼフの伝説》

ジュゼッペ・シノーポリ
ドレスデン・シュターツカペレ
DG 463 493-2 (63'54")

 1999 年 9 月、ドレスデンのセンペルオパーにてライヴ収録。

 最初この CD を店頭で見つけたとき「なんだろうこれは?」という疑問が渦巻いた。シュトラウスの "Josephs Legende" なんて作品はお恥ずかしながら知らなかったのだ。あまり有名でないオペラなのだろうと思った。ジャケットの絵も下手くそで、当初は買う気がしなかった。しかし歌手の名前がクレジットされて無かったので「初期の管弦楽作品なんだろうか」と思い、とりあえず買ってみることにした。

 この作品を知っている人はほとんどいないと勝手に決めつけて(他にはウィーン・フィルの LD があるくらいらしいし)、ライナーノートを読んで判った範囲であるが、簡単に曲紹介をしよう。

 《ヨゼフの伝説》はディアギレフのロシア・バレエ団の依頼によって作曲されたバレエ音楽で、《ばらの騎士》《ナクソス島のアリアドネ》と同時期の作品。1912 年にディアギレフのロシア・バレエ団を観たホフマンスタールは友人のハリー・ケスラー卿とともに、牧童ヨゼフとポティファルの妻の話をバレエにしようと考え、ディアギレフに売り込んだ。ヨゼフは当然ニジンスキーが踊り、音楽は R.シュトラウスという計画。シュトラウスもベルリンでロシア・バレエ団を体験していたため、このアイディアが気に入り作曲を開始したのだが、ケスラー卿の書いた冗漫でもったいぶったシナリオは、シュトラウスには受けが良くなっかった。高潔で神の僕たるヨゼフにはシュトラウスは興味が無かったのだ。一時作曲の中断もあったが、ニジンスキーから抑制せずにやってくれという嘆願もあり、1914 年 2 月にオルガン・チェレスタ・ウィンドマシンなどを含む大オーケストラの為の作品として完成した。

 あらすじ。

 ポティファルの宮殿での祭典の場。美の饗宴が行われている。花嫁のベールを外す者を婚礼の踊りで競うのだ。女たちの踊り。ひとりのダンサーが躍り出て "燃えるような欲望" を披露する。彼女はポティファルの妻のベールを取ろうと手を伸ばすが、激しい身振りで拒絶されてしまう。次にトルコ人のボクサーたちが熱狂的な円舞をみせるが、凶暴な争いとなり、ついには鞭を入れられながら宮殿の中に連れていかれてしまう。奴隷が黄金のハンモックを用意すると、牛飼の格好をした美しきヨゼフが現れる。ヨゼフは4つの踊りを披露する。"牧童の純潔と素朴", "跳躍", "主を求めた闘い", "主よりの祝福"。ヨゼフが踊っている間、氷のようだったポティファルの妻の心も次第にヨゼフに同情し共感し、性的な欲望さえ募らせるようになる。ヨゼフが踊り終わったとき、彼女は彼にベールを取らせ、そして彼の首に手を廻しネックレスをかけてやる。そのとき何気ない仕草で彼のうなじに触れ、彼の性的欲求がいかほどか測ろうとするのだった。

 祭典の終わった夜、ヨゼフが眠る質素な地下室。彼は守護天使の夢を見ている。そこにポティファルの妻がこっそりとやってくる。ランプを消し、ヨゼフの首を触る。ヨゼフは目覚めるが、守護天使が現れたのだと思ってしまう。ポティファルの妻はあわてて一瞬逃げようとするが、気を取り直し、ヨゼフの唇に自分のを重ねた。ヨゼフはおびえ、部屋から逃げようとするが、彼女は追いかけ情熱的な性的誘惑を執拗に繰り返す。彼は何とか逃れようとするのだが、この騒ぎで上着を見失ってしまい、ついには彼女の目の前で裸になってしまう。彼女は自分の身体を押しつけようとし、彼は逃れようとする。

 そのとき召使いたちが松明を持って現れた。ポティファルの妻はヨゼフにそそのかされたのだと非難し、召使いの腕の中に気を失って倒れ込む。多くの奴隷女性たちが、ヨゼフを非難する踊りを踊る。そこにポティファルが現われ、ヨゼフを鎖に繋ぐ。意識を取り戻したポティファルの妻は、ヨゼフの上着に涙を落としながらヨゼフを告発する。ポティファルの妻は、これから行われる火の拷問の準備の様子と、ヨゼフの落ち着いた様子を、感嘆し刺激され嫌悪し恐れおののきながら見つめていた。血のように赤く燃えさかる炎は、その中心が純白の光に変わっていく。そこから天の光が射し込み、黄金をまとった守護天使が現れヨゼフの鎖を解き導いていく。ポティファルの妻は驚き、真珠の首飾りで自らの頸を絞める。葬送の行列と共にヨゼフは光の中に消えていく。(ライナーノートより意訳)

 私は聖書には全然詳しくないが、本来の結末はこれと違っていて、ヨゼフは牢屋に監禁され、最終的に看守のような存在になったらしい。これは、妻の痴情を知ったポティファルが、ヨゼフを守ろうとしたためだと解釈されてる。

 音楽としては、時期的に近い作品である《ばらの騎士》の眩さをこの作品も持っている。豊満な響きも似ている。と同時に《ナクソス島のアリアドネ》に聴かれる明確さと、この後に作曲される《影のない女》に通じる魔的な雰囲気もある。この辺は《サロメ》に通じている部分でもあり、スネアの使い方など「7つのヴェールの踊り」をそっくり思い出させるくらいだ。ワーグナー以降の総合芸術の理念から、オペラでのバレエは御法度だったわけだが、《ばらの騎士》はワルツが音楽的に重要な要素であったわけだし、シュトラウスは踊りを舞台芸術と見なし、その要素を色々な作品に織り込んでいた。逆にこの《ヨゼフの伝説》はバレエ曲として作られているが、聴き方によってはシュトラウスの唄のないオペラといっても通用するだろう。また後半には《家庭交響曲》を思わせる部分もある。

 シノーポリの演奏は、どうしてこの作品が今まで演奏される機会が少なかったのだろうと疑問に思わせるほど、魅力的に聞かせてくれる。《サロメ》程にはオーケストレーションが複雑では無いかも知れないが、アンサンブルも明確、ライヴ演奏としては理想的な水準だ。無いものねだりだが、シノーポリのシュトラウスはねちっこさはあるけど、エロティックでは無い。もうちょっと妖艶さがあるともっと魅力的になる曲だと思うので、それが残念であり、最大の弱点でもある。

 録音も良い。音像は広がり気味でハッキリしないところがあるが、奥行きや広がりがあり、細かい音もよく聞こえる。ただ、たぶんステージ上の椅子か床の軋み音が常に聞こえるのが気になる。こういうのは事前に対策できなかったのだろうか。

 この曲は確かに「知られざる名曲」ではあるが、シュトラウスの交響詩しか知らない聴き手には取っつきにくいのではないかと思う。交響詩と違って音表現はかなり具体的、音響も古典的な全音階を基本にしているので(半音階も滅法多いが)、オーケストレーションこそワーグナー的だが、根本的にはモーツァルトに近い。そういう意味でも交響詩より歌劇に近いのだ。さらに、形而上的な題材を扱った作品ではないので、音だけ聴いていると舞台の要素が欲しくなる。それだけシュトラウスがバレエを意識して書いたということかもしれないが、この作品がオーケストラピースとしてあまり取り上げられないのも、その辺の事情によるのかもしれない。ということで、交響詩しか知らない人は、これを買う前に少なくとも《ばらの騎士》組曲程度は馴染んでいた方が良いと思う。

 ジャケットの下手な絵は、初演時のプラカードを描いたピエール・ボナードによる、リライトであった。歴史的な一品では、あるようだ。

演奏 : ★★★★☆
録音 : ★★★★☆

2000年5月24日 01:02

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