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バルトーク:《中国の不思議な役人》他 /ショルティ[Decca]
中国の不思議な役人(組曲版)
弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽
弦楽のためのディヴェルティメント
シカゴ交響楽団
シカゴ・オーケストラ・ホール ('89.2- '99.2)
430 352-2 (DECCA)
ショルティの《オケ・コン》と同様、民俗的な感覚とオーケストラの機能性が高いレヴェルで同居している類い希な演奏。《中国の不思議な役人》はその鋭い音響のせいで冷たい印象をもつ演奏が多いが、ショルティの演奏からは温かみを感じることができる。オケの音が色彩感豊かなせいだろうと思うが、同じシカゴ響でもブーレーズなどからはそのような温かみは微塵も感じない。デッカサウンドの脂感がそうさせているのかもしれない。
ショルティのバルトークは、土俗的なリズム感にかけては他のどの演奏より迫力があり強く訴えるものがある。そしてそのリズムの間の取り方が絶妙なのだ(「管弦楽のための協奏曲」第1楽章の項参照)。《役人》ではさらに旋律の節回しも特徴的。早口でまくし立てる、勿体ぶったように伸ばす、突然奇声を発する、まるでショルティのハンガリーなまりの英語に聞こえてくる。この言語的な感覚がまたバルトークの旋律にぴったりマッチしている。
スペクタキュラーな部分も、シカゴ響のパワフルな演奏が堪能できる。特にトロンボーン奏者には気になる2本のトロンボーンの掛け合いの部分(マンダリンと少女の追っかけっこが始まるところ)も大変エキサイティングだ。いろいろな《役人》を聴いたが、この演奏が一番ボルテージが高い。その後の壮絶な争いの場面も8ビートがじわじわと盛り上げてる中の弦楽器のスピード感など、聴く者を興奮させる。
それ以上に聴き所なのは三度行われる「誘惑」のシーンや「少女の踊り」などの艶めかしい描写である。色気はそんなに感じられないが、ルバートやアッチェレの多いこの部分、かなり綿密に作り込まれており、聴く方もそのディティールを丹念に聞き込んでしまう。
但し残念なのはこの《役人》は珍しい組曲版での演奏である。途中途中部分的なカットがあり(ほとんど意味のないカットに思えるんだが) マンダリンが少女を捕まえてもみ合いになるところで組曲用のコーダに入り終わる。演奏時間は 18 分半。後半の合唱も要らない点が経済的だが、是非とも全曲版で演奏して欲しかった。CD の収録時間の関係でこうなったのか、それともショルティの《役人》はこれなのか。ひとに薦めるときこの点でちょっと躊躇(ためら)われるのだが、他の収録曲《弦チェレ》《ディヴェルティメント》も良い演奏なので、組曲であることさえ了承できれば確実に一押しである。
弦楽器・打楽器とチェレスタによる音楽は、二群の弦楽合奏(左右に分けて配置される)と打楽器、チェレスタ、ハープ、ピアノによる4楽章の音楽。ピアノはタイトルに含まれてないが、打楽器ということにされている。バルトークはピアノ協奏曲でさえ、ピアノを打楽器的に弾かせている。これはピアノとオーケストラのソノリティの違いを解消するためのバルトーク流の解決策なのだ。実際はチェレスタより遥に出番が多くしかも重要。それに、いってしまえばチェレスタも打楽器と言えると思うのだが...。ハープも使われているがこちらは弦楽器という位置づけになっている。
第1楽章は集中的な半音階を使ったフーガ。わりと速めのテンポで進んでいき、巨大な山を形成する。わりとあっさりとした曲作りだ。ストラヴィンスキー的な第2楽章は弦セクションのアンサンブル力が堪能できる。幾分ごつごつしたリズム感。弦楽器一群と二群が左右で掛け合う部分も見事。非常に力強い演奏である。第3楽章は、私はまあどの演奏を聴いてもそうなんだが、キューブリックの『シャイニング』を思い出してしまう。バルトークの「夜の音楽」なのだが、冷たくならないのが特徴的。第4楽章は非常に勢いのある演奏で爽快だ。細かい部分でいろいろな表情を見せてくれる。あれだけの表情をピタリと揃えて弾き分けるとは、弦セクションの凄まじい集中力、指揮者とオーケストラの阿吽(あうん)の呼吸の妙技に舌を巻く。第1楽章の半音階旋律がこの楽章で全音階であらわれる様は鳥肌が立つような戦慄を味わう。おしまい2小節は急激なルバートのあとイン・テンポにしなければならず、テンポ設定の上で難所だが、妥当な線で終結をみたというところ。
弦楽のためのディヴェルティメント。弦楽合奏のための3楽章の音楽である。「弦チェレ」は半音階的な曲だったが、こちらは一転、目映いばかりの長調の作品である。弦楽合奏とソロ(編成としては弦楽四重奏)とがコントラストを生みながら進行していく。
この演奏もゴリゴリとしたリズム感が特徴。洗練された演奏は多いが、このように土俗的な雰囲気があるのはあまり無い。旋律も野暮ったいくらい生々しいが、いかにもバルトークらしい。そして旋律は途切れることなく流れ、変化していく。このように流れのなかで大きく変化を付けられるショルティの棒には、いつも感銘を受ける。終楽章の民俗舞曲も完成度は高いが、肩肘張らない余裕の演奏である。もうちょっとエキサイトできる余地はあるが、そこまで切迫してはいけないという美意識も感じられる。私としては、十分切迫しておいてからコーダ手前の「ピッツィカート・ポルカ」で笑わすというスタイルが好きではあるが、それでも「お見事!!」といって手を叩きたくなる演奏である。
録音:
間接音は控えめでどちらかと言ったら脂の乗った直接音が主体である。3曲とも音質が違い、「役人」はとくに直接音がうるさく耳に付く。これはライヴでは無いものの、この時期からショルティもライヴ収録が増え、録音としても良いものが少なくなっていく。
2000年8月12日 10:15
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