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マーラー:交響曲第 5 番/テンシュテット [TOKYO FM]
マーラー:
交響曲第 5 番嬰ハ短調
モーツァルト:
交響曲第35番ニ長調《ハフナー》
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
TOKYO FM
1984 年のテンシュテット/ロンドン・フィル来日公演時の実況録音が発売されました。4 月 13 日の大阪・フェスティバルホールでの公演を FM 大阪が生中継しており、その時の音源を 96kHz, 24bit でリマスターリング、TOKYO FM が CD 化したものです。まず、このような音源を局の財産としてしっかりと保管していた FM 大阪に感謝したいです。ピアソラの圧倒的な東京公演のライヴ音源 (しかも当時はまだ珍しかった PCM で録音されたもの!) のマスターテープを廃棄処分してしまった某公共放送局とは、音源の貴重性の認識において雲泥の差。また、権利関係をクリアし正規発売してくれた TOKYO FM にも拍手を送りたいです。
演奏は、「テンシュテットのマーラーのライヴ」として想像される演奏像を裏切らない、まさに熱演。ライヴ録音につきもののアンサンブルの乱れなどもほとんど無く、1978 年の EMI のスタジオ録音盤の方がかえって雑に聴こえます。内容の濃さは EMI 盤も引けを取らないと思いますが、音楽的な流れの良さはライヴの方が上で、散漫になりがちな EMI 盤より凝縮されています。録音も EMI 盤は左右のチャンネルの繋がりが悪く酷いものでしたが、その点でも遙かに「聴ける」ソースです。
色んな音が実に良く聴き取れる演奏です。しかしそれはスコア・レベルで見通しの良い演奏という意味とは違っており、スコアを見ながら聴くと案外普通です。それでもなお良く聴こえるという感覚 (錯覚) に陥るのは、各々の音の連なり (旋律なりリズムパターンなり) のキャラクタを明確に描き分けており、同じ要素ではないという主張がはっきりしているからと思います。この演奏に限らず、基本的にテンシュテットはそういう重層的なレイヤーの描き分けが巧い。それぞれが魅力的なアゴーギクで聴く者を惹きつけ、見事にひとつの音楽を形作るのです。
アゴーギクの巧みさは、例えばスケルツォの第 1 トリオの弦楽器のワルツなど、これだけ濃いめの味付けでも心地よく自然に聴こえます。また第 5 楽章など、様々な要素が音として聴こえて、音楽の感動を高めてくれます。ミキシングで調整しているとは思えないので、実際のバランスなのでしょう。キャラクタがはっきりしてれば、旋律全部が "聞き" 取れなくても "聴こえ" てくるのです。テンシュテットのテンポも個々の旋律 (動機) レベルから引き出されており、あれだけテンポが変化しても自然な印象を受けるのは、旋律を描き出す最良のテンポを外さないからです。こういう嗅覚の優れた指揮者は他にバーンスタインが思い浮かぶのですが、彼はその中に自己を色濃く反映するので、テンシュテットとはまた違うのです。
色んな音が良く聴き取れるというのならスタジオ録音でもそうなのですが、ライヴでは全体を見通した流れに一貫性があり、ドラマの展開も巧みです。こうした細部と全体を、ライヴという過酷な条件下でも最良のレベルで表現出来るということの凄さ。レコーディングじゃ良くてもライヴじゃ駄目では本末転倒なので、プロとしてはいたって普通の仕事をしただけなのかもしれませんが、それでも凄いとしか言いようがありません。5 楽章を聴き終わった後の充実感も素晴らしく、最後は心の中で一緒にブラボーと叫んでいました。この公演を実際に聴かれた方が羨ましい。一生モノの経験でしょう。
録音は、放送用の音源とは思えないほど良く録れています。強奏時にリミッタが入ったような部分もありますが、ほとんど気にならず、このままでは FM には乗せられない音ではないでしょうか。若干混濁しており細部の描写はいまいち、低弦などクラスターぽいですが、EMI の録音よりは断然良いです。マイク・スタンドを叩いてしまった音とか、会場ノイズなどもありますが、総じてそういうノイズも目立ちません。
カップリングとしてモーツァルトの《ハフナー》が入っていますが、マーラー的な分厚い音響の《ハフナー》です。テンシュテットの音楽造形の方法は、マーラーだからモーツァルトだからとスタイルを変えるわけではなく、マーラーかベートーヴェンのようなスケールの大きい演奏です。しかし《ハフナー》にはそのような演奏も受け入れられる器量がありますので、演奏会ではマーラー 5 番の前プロとして尊ばれているのでしょう。
この手の演奏の凄さを言葉で表現するのは難しく、また「精神的な」とかいうような観念的な美辞麗句を使うのは嫌いなので (この CD のライナーにも「マーラーの小宇宙を描く強靱な精神」とか「無限の精神性で音楽をみたす」など出てきますが、かなり意味不明)、言葉で上手く伝えられないのが残念ですが、幾ら言葉を積み重ねても音にはなりませんので、是非とも CD で経験して下さい。
2005年6月30日 18:05
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