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ブルックナー:交響曲第 5 番/ティーレマン [DG]

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ブルックナー:
交響曲第 5 番ロ短調 (1878年原典版)

クリスティアン・ティーレマン指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
00289 477 5377 [DG]

 2004 年 10 月、ミュンヘン、ガスタイク(フィルハーモニー・ホール)でのライヴ録音。ティーレマンのミュンヘン・フィル就任コンサートです。ブルックナーとミュンヘンの関わりは深く、第 5 交響曲の初演はミュンヘン・フィルが行いました。また 1985 年にチェリビダッケもこの曲でミュンヘン・フィルの就任を果たしたそうで、ミュンヘン・フィル就任演奏会でこの曲を取り上げるということは、演奏史上かなり有意味なものとなるわけです。果敢にもその重責に挑んだティーレマンですが、さて結果は如何に。

 この第 5 交響曲は、完成後 15 年もの間作曲者の直筆原稿の中に埋もれており、作曲者自身による大幅な改訂も行われなかった作品です (初版の出版譜はブルックナーのあずかり知らない部分での改竄が多数あったようですが)。それぞれの作品の「最終稿」をその作品の完成とすると、この 5 番は 4 番《ロマンティック》(1880) より古い曲であり、さらに古い交響曲は第 2 番(1877) のみとなります。ブルックナーの交響曲は、一般的に改訂により流れが「流暢」になり、より「判りやすい」ものになっていくのですが、5 番はそういう「手慣れた」改訂の手が入っていない分、流れの変化の理解しがたい部分や複雑な部分がそのまま手つかずで残っているよう思います。しかしそういう拘縮している部分や変に物分かりが良くない部分が、逆にプリミティブにブルックナーの進歩性をよく表しており、魅力的なのです。それだけにオケと指揮者の力量を問われる作品で、このスコアに見合った説得力ある演奏はそうそうお目にかかれるものではありません。

 まずミュンヘン・フィルの音が期待通りブルックナーに相応しい品格と充実度、スケール感や神々しさがあって素晴らしい。もしこれがウィーン・フィルだったら、最近のゲルギエフとの演奏でかなり崩壊している印象しかなかったので、全然期待出来なかったところです。ミュンヘン・フィルは発音の立上りが遅いなど現代風の機能的なオケではなさそうに見受けますが、音質の均質性やアンサンブルの作り方に老練さを感じますし、そもそもオケ自体の音色が美しく、古き良き伝統を維持していると思えます。その前の首席指揮者レヴァインはもっと現代的なオケに向いている指揮者ですので、レヴァインとの演奏ではナロウなオケだなという印象しか持てませんでしたが、ティーレマンのもとでは自分たちの美質を十全に発揮しており、オケもこの演奏に並々ならぬ意気込みで取り組んでいることを感じさせます。また私は金管奏者なのですが、金管のうるさいブルックナーは好きでありません。かといって必要な量感が得られていない演奏も駄目です。この演奏は、録音の関係もありますが、全体として良好なバランスで好演だと思いました。

 ティーレマンの演奏ですが、なかなか健闘していると思いますが、ヴァントのような芸の細かさは感じられません。ブルックナーはアクセントやスタッカートに数種類の記号を使い分けているのですが、それらを演奏に厳密に反映させるようなことはせず、全体的な雰囲気を優先させているようです。この曲はダイナミクスの指示も事細かく、作品の解釈のための重要なカギとなっているのですが、これに関しては守っています。ダイナミクスの変化には敏感なのですが、アゴーギクに関してはこだわってないので、雰囲気の良い大味な演奏になっています。それでも大きな破綻が見られないのは、ミュンヘン・フィルの合奏力がものを言っているからかもしれません。安定感やスケール感は他の演奏ではなかなか得られないほど充実しているよう思います。

 この演奏で問題なのは、ダイナミクスの変化は充分あるにも関わらず、その背後にあるべき "緊張と緩和" の綱引きがほとんど感じられない事です。例えば第 2 楽章の H の前 (13'03") の木管楽器 (フルート・ソロ) と弦のピッチカート、及びティンパニのトレモロが静かにドミナントの緊張感を引っ張る部分ですが、H の直前 4 小節は特にドミナントというより擬終止してしまった感が強く、H でトニカへ解決しようとする強い動機を感じることが出来ません (この部分のフルート・ソロも妙にアゴーギクを付けようとしているのか、浮き足だって聴こえいまいち)。ま、ここは難しい部分なのですが、こういう危険な箇所が指揮者の腕の見せ所な訳です。これは極端な例だったかもしれまんが、20 分もかけた遅めの演奏の割に表現しきっていない感じは残ります。3 楽章等でもパウゼの前後での詰めの甘さが見られるなど、ブルックナーとして決まってない箇所も結構気になります。

 難所である第 1 楽章の展開部など、第 1 主題によるカノンとファンファーレ動機が重なり、ダイナミックでかなりの緊張感を有する部分ですが、緊張感という観点では物足りない。しかし、意外と安っぽくなる演奏が多いのですが、ティーレマンはここでテンポを落とし、かっちりと鳴らしているので、こういう聴き応えもなかなか面白いものだと思います。ヴァイオリンの対向配置を採っており、2nd Vn. が明瞭に聞こえるのも (ミキシングでかなり拾っていますが) 成功しています。

 第 4 楽章では K からのフーガがかなり鈍重な印象を受けました。それに続く M [13'29"] からの弱音のカノンも、甘くて眠くなりそうです。この辺、私はもうちょっと緊張感があるべきだと思います。この楽章の終盤部分は金管にとって殺人的な音符が連続する地獄の部分なのですが、この辺からはテンポアップして勢いもあり、オケも一層熱演し、金管も見事に吹ききっており(特にホルンの「合いの手」が絶品)、充実した素晴らしい演奏になっています。

 録音はなかり中低音増強バランスのドンシャリですが、シノーポリ盤のような金管しか聞こえないようなものより遙かにバランス良く録れています。高域の抜けもそこそこあり、スケール感も充分です。いくつか 5 番を聴き返しましたが、それらより悪いということはありませんでした。ただし強奏時にティンパニによるトレモロの強打で盛大な歪みが発生しています。またこの CD は 82'34" を 1 枚に納めている、超長時間ディスクです。CD の規格を超えてるんじゃ無かろうか。

 ティーレマンの演奏は私は細かい部分が気になってしまうので幾分辛めのことを書いてしまいましたが、ブルックナー演奏としてはオケが大健闘しており、「ミュンヘンのブルックナー」の名に恥じない名演だと思います。オケのドライヴの仕方やバランスの作り方などを聴いていると、ティーレマンとミュンヘン・フィルは既になかなか良い状態を築きあげているよう思えますし、ティーレマンのブルックナーも流暢でスケールが大きく、特にティーレマンの耳の良さから個々の音のバランスが良く、腰の据わった安定感のある演奏はなかなか魅力的で、今後の演奏にも期待ができます。しかし前から感じていたティーレマンの緊張感の無い音楽性は、このオケでも同様のようで、その点でいまいち喰い足りなさを感じる訳です。ティーレマンに感じていた不満を払拭してくれる一枚にはなりませんでした。

関連記事を検索: DG ティーレマン ブルックナー ミュンヘン・フィル 交響曲

2005年3月11日 17:58

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