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ワーグナー:前奏曲集/ティーレマン [DG]

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ワーグナー:
前奏曲集

クリスティアン・ティーレマン
フィラデルフィア管弦楽団
453 485-2 (DG)

 ニュージャージー、コリングスウッド、ジアンドメニコ・スタジオ ('97.7) にて収録

 全体的に粘着質で柔らかみのある曲づくりであるが、芯というか土台というかはしっかりとしている。どれもこのまま楽劇になだれ込んで欲しいと思わせる演奏である。実は始めフィルハーモニア管だと勘違いして、中身の詰まったオケの音色といい渋めな発音の仕方といい、ティーレマンが振ると随分変わるなぁと感心して聴いていたのだが、なんとフィラデルフィアの見間違いだった。なあんだ、なっとく。ところで DG のフィラデルフィア管って珍しくないかな?

『ニュルンベルグのマイスタージンガー』 第1幕への前奏曲

 抜けの悪い録音で損をしているが、演奏は素晴らしい。カッチリとしたなかにもうまく情感をたたえている。トロンボーン奏者としては気になるポイントが沢山の曲。まずマイスターの行進の主題はニュアンスの付け方が意外と難しいのだが、アウフタクトのリズムはスピード感の中にも重みを持たせ、4 分音符は威厳を感じさせる、なかなか理想的な演奏である。だだし3回目でいきなりダイナミクスが上がるのでびっくりしてしまう。同じものが3回以上出で来る場合、3回目でなにかドラマを作るべきではあるのだが、ちょっと唐突だ。曲の肝心な部分に出てくる短いエスプレッシーヴォの楽句も、おみごと。2小節ほどしかない楽句でエスプレッシーヴォ(情感豊かに)するのは難しいのだ。再現部に当たる部分でのトロンボーンだけによるマイスターの主題も、出が遅れたり 8 分音符が走ったりしやすいところだが、さすがに不安定な部分はない。この曲は私は何度も吹いているのでついつい演奏者としての立場で聴いてしまう。いつも思うのだが、前奏曲を演奏するだけでヘトヘトになるこの曲、しかし本来ならさらに 4 時間にもおよぶ本編が待っているなんて、とても信じられないぞ。(まあトロンボーンの出番は当分無いんだけど。)

『ローエングリン』 第1幕への前奏曲

 前に書いたレヴァインの演奏と違い、冒頭の弦楽アンサンブルは非常に柔らかい。やっぱり『ローエングリン』はこういう絹のような肌理の細かさが必須条件だろう。曲の進め方も緩急のニュアンスを微妙に変化させつつ一本の淀みない流れとしている。グラデーションのように漸化的変化をしていく曲なので、流れや緊張感が途切れずどこまでも繋がっていくこういう演奏は理想的である。クライマックスで金管群に主題が来る部分は、パワフルでかつ渋い音色で心地よい。頂点で思いっきり溜めを作っているが、それが気持ちよくツボにはまっている。実にワーグナー的な演奏なのではないだろうか。

『ローエングリン』 第3幕への前奏曲

 颯爽として祝祭的雰囲気にあふれた良い演奏である。第1主題は、アーティキレーションの付け方が難しいが、実に格好良く吹いている。演奏会版だとコーダに『禁問の動機』が付くのだが、その部分はばっさりカットしてあり、サクッと終わる点も好感が持てる。

『パルジファル』 第1幕への前奏曲と「聖金曜日の音楽」

 同じようでいて微妙に違うという「バルジファル」の音楽。調性の変化も微妙にして大胆で、「楽劇(舞台神聖祝典劇?)」全体を聴いているととんでもなく遠い調にどんどんと転調していくという驚き・快感を聴けるが、前奏曲でもその原理の一端が伺える。しかしながらティーレマンの演奏は、そういう調性の変化をクリアに聴かせようとはせず、あくまでも副次的なものとして曖昧なままにしている。この "曖昧さ" という要素も「バルジファル」という作品の特徴であるので、それで即駄目な演奏と決めつけられない。ティーレマンの演奏では旋律の唄わせ方説得力の持たせ方に力点を置いている。金管群による「信仰の動機」も量感たっぷりで神々しく、しっかりとハモっていて心地よい。演奏としても曲づくりとしても安心して聴いていられる。但し全体的におおらかな雰囲気が支配的で、後半のアンフォルタスを暗示する部分の瑕疵(かし)的表現など、もうちょっとドラマを盛り上げて「苦悩・後悔」という意味も暗示して欲しかった。「聖金曜日の音楽」もおおらかな表現で情感豊か、これはこれで曲想と合っていて良いが、やはり罪を感じさせる部分ではさっと気持ちが入れ替わるような衝撃を聴きたかった。

『トリスタンとイゾルデ』 第1幕への前奏曲と「イゾルデの愛の死」

 ゆったりとしていて陶酔的な演奏で良いのだが、オーケストラにもうちょっと色彩感が欲しいところだ。その点にさえ目を瞑れば、デジタル時代の演奏の中では(私が持っているモノのうちではあるが)もっとも良い演奏と思っている。これは裏を返せば、それだけまともな演奏が少ないということなのだが。ティーレマンの演奏は非常に濃厚で適度な湿り気と粘りがあり、これは何度も何度も執拗に繰り返しながら発展していくこの曲の根底を支えるための重要な要素である。これを例えばバレンボイムのように、ど派手にビャアビャア吹きまくるようなうるさい演奏にしてしまっては、たとえアンサンブルが完璧であってもいただけないのである。ティーレマンの曲の運びも、無理のない程度のドラマ性を作り出しており、聴いていてしらけることも恥しくなることもない。早く全曲盤が聴きたいと思った。

演奏:★★★★★
録音:★★★☆☆

2000年11月18日 17:02

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