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ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ/ティルソン・トーマス [BMG]

villa-lobos.jpg

ヴィラ=ロボス:
ブラジル風バッハ 第 4,5,7,9 番
ショーロス 第10 番

ルネ・フレミング(S) (5 番)
BBC シンガーズ (ショーロス)
マイケル・ティルソン・トーマス指揮
ニュー・ワールド交響楽団
BMG BVCC-745

 『こんな季節にはこの CD 』第二弾です (^^;。暑いときにこそ熱い音楽で乗り切ろう、ということで、ブラジルを代表する作曲家ヴィラ=ロボスの CD を紹介します。といっても私はヴィラ=ロボスの CD は、これと、あと弦楽四重奏全集というのしか持っていませんので、あんまり大それたことは書けませんし、他の音盤と比較してどうこう言うことも出来ません。まあその辺は眉に唾を付けつつお読み下さい。今年没後 10 年になるピアソラを紹介してもよかったのですが (ピアソラはいっぱい持っています)、まあこちらは次の機会に。

 《ブラジル風バッハ》は様々な編成で作曲された全 9 曲の作品集で、今でこそ 5 番など超有名曲なのでご存じの方も多いでしょうが、《ブラジル風バッハ》などというとやはりバッハ風とかバッハのパロディのような曲なのだろうと思えてしまうでしょう。しかしショスタコーヴィチの《24 のプレリュードとフーガ》のように正面切ってバッハに挑んだ作品と違い、この作品集における "バッハ" とは、「バッハの様式=音楽的な普遍性」くらいの意味で捉えておけば良いと思います。実際聴いていても、形式としてトッカータとフーガやプレリュードとフーガが使われたり、バッハ風の旋律が聞こえたりすることがありますが、それは枠組みや骨格であり、肉付き及び本質はブラジル音楽であります。《バッハ風ブラジル》ではないのです。

 全 9 曲のうち、2, 8 番もフルオーケストラ編成でありますが、まあこの CD に収録された 4,5,7,9 番というのは妥当な選曲のようです。ティルソン・トーマスの演奏はブラジル風なアクの強さというものは少なく、ナショナリズムというよりインターナショナルな演奏なのですが、それにしても音の密度にただならる気配を感じさせるもがあり、様式感とラテン的情動というヴィラ=ロボスの魅力を十全に伝えた秀演と思います。

 CD 冒頭の 4 番の《プレリュード》は、弦楽合奏によるブラジル原住民の哀歌のような曲ですが、バーバーを思い起こさせる濃厚な弦楽アンサンブルで、感動的。次の《コラール》も色彩豊かな風景画のようで、トロンボーンやホルンの咽(むせ)ぶような旋律が実にロマンティックで、これも感動的。自分の葬儀に BGM としてかけて欲しいと思うほど。この CD のなかで個人的にはこの 4 番が、音楽・演奏ともに好きですね。

 5 番はソプラノ独唱とチェロ合奏の曲。しかしなぜこれだけが有名になったのでしょう。ルネ・フレミングのやや暗く湿り気を帯びた声が存在感あります。淡々としたリズムが明滅する抑圧された音響の中、軽い自己主張をともなって曲は進行していきます。個人的には満足できる演奏ですが、これが名演なのかは判りません。ソプラノとチェロの旋律がもうちょっと溶け合っても良いかなと思わなくもありません。一度ジェシー・ノーマンで聴いてみたい。

 7 番は、より構築性が増しバッハ風な要素が強くなっている作品。かなり雰囲気の違う 4 楽章からなっていますが、くどくならず、つまらなくならず、それぞれ絶妙なバランス感覚で演奏されています。1 楽章の《前奏曲》は、5 番の《アリア》に通じるものがあって 5 番の 3 楽章のように聴こえなくもなく、4 楽章の《フーガ》は弦楽合奏のみによる曲のため、同じく弦楽合奏のみによる 9 番にシームレスに繋がっていくようです。そういう風に選曲したのでしょう。3 楽章の《トッカータ》は、ブラジルの舞曲が元になっているらしいですが、私の耳には邦人作品のようにも聞こえます。『千と千尋の神隠し』に出てきそう。

 9 番は、弦楽合奏によるプレリュードとフーガで、郷愁感と力強さを持った小品です。特にフーガの入りはバッハを思い起こさせますが、シンコペーションがスイングしたり、中間部の和声法が色彩的など、構築感と情動が見事にお互いを引き立てています。ティルソン・トーマスの演奏は、そういうバランスに配慮してか、強烈な表現は行っていませんが、デリカシーに富んだ肌理の細かい内宇宙的な演奏です。

 《ショーロス》は、バッハから離れて、ブラジルの都会性とジャングル性を表現したような交響詩です。10 番はかなりどぎつい曲で、アニマル・サウンドも聴かれ、バーバリズムやら、原住民がウホウホ言っているような合唱も入ります。『インディー・ジョーンズ』のサントラみたい。ティルソン・トーマスも本領発揮といったところで、実にオケが良く鳴る、リズムが切れまくる、表現が明瞭で、嫌がおうにも盛り上がります。一番面白い部分を一番面白く聴かせている演奏ではないでしょうか。

 ヴィラ=ロボスの管弦楽作品、一枚くらい持っていても良いかなという人には、お薦めのアルバムです。そして、これを聴いてしまうと、もっと聴きたくなるでしょう。でも、バッハ的な曲を期待して聴こうというのなら止めた方が良いかもね。現在は入手困難。

2002.8.9

関連記事を検索: BMG ヴィラ=ロボス ティルソン・トーマス ニュー・ワールド響

2002年8月 9日 11:29

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