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バーナード・ハーマン:ヒッチコック映画音楽特集 2

バーナード・ハーマン:
ヒッチコック映画音楽特集 2
『ハリーの災難』
『マーニー』
『引き裂かれたカーテン』 (使われていないスコア)

ジョエル・マクニーリ指揮
VARESE SARABANDE

あれからまた増えてきたので、バーナード・ハーマン映画音楽特集第2弾をお送りします。

まず、ハーマンの映画音楽作品を精力的に録音しているジョエル・マクニーリの 3 枚。

『ハリーの災難』

ジョエル・マクニーリ指揮、ロイアル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団 (VARESE SARABANDE VSD-5971) 42'48"

ブラックユーモア満載でほのぼのとしたコミカル・スリラーの作品で、音楽もそれにふさわしいものとなっている。強いていえばシニカルな『ピーターと狼』といったところ(あそこまで子供向けでは無いが)。アクの強いコミカルさをクラリネット特にバス・クラリネットで表現している。全編に木管楽器を多用し、木管は人間模様を映し出し、弦楽器は自然情景を表しているようだ。弦楽器の旋律が聞こえると、暖かい日差しの中、紅葉した野山の木々が風に揺れる風景が思い浮かぶ。トラブルはホルンのゲシュトップによって引き起こされる。トランペットやトロンボーン、チューバ、打楽器は使われていないが、その分ホルンが大活躍している。

『マーニー』

ジョエル・マクニーリ指揮、ロイアル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団 (VARESE SARABANDE 302 066 094 2)

この映画はヒッチコックのゴージャス路線の作品だが、『めまい』の二番煎じの感が強く、また主演女優のティッピ・ヘドレン(最後の "ヒッチコック・ブロンド" )の輝きも乏かったため、あまり作品としては成功しなかった。主演のショーン・コネリーもヒッチコック・タイプの役者ではなかったようだ。唯一の救いはハーマンの音楽...と書きたいところだが、かえってハーマンの華のある音楽が画面から遊離してしまい、映画を救うまでには至らなかった。音楽的雰囲気は『めまい』の姉妹編といえるが、『めまい』が順次上行下行を繰り返す波動(=回転)音形を多用していたのに対し、『マーニー』では跳躍+スケールというのが基本で、大きな変化を目指すけど上手くいかないという、この映画の基本テーマを表している。また『めまい』はフルオーケストラを使用していたのに対し、『マーニー』のオケは小編成で金管もホルンだけとなっている。しかし厚みのあるオーケストレーションで、あまり小編成を感じさせない。『マーニー』のオリジナル・スコア盤は初めてだと思うが、甘く気だるく美しい旋律で埋め尽くされている。1 分に満たない曲も多く、フィルム・スコア盤に付きもののぶつ切り感を感じるのは確かだし、やたらとマーニーのテーマが出てくるのは致し方ないが、それでも意外と聴き飽きしない。

『引き裂かれたカーテン』

ジョエル・マクニーリ指揮、ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団 (VARESE SARABANDE VSD-5817)

ハーマン:ヒッチコック映画音楽特集 1 でも書いたが、完成された映画『引き裂かれたカーテン』には、イギリスの作曲者ジョン・アディソンの音楽が使用されている。ここに収録されているハーマンの音楽は「使われなかったスコア」なのだ。なぜこうなったかは諸説あるが、基本的に、映画会社の意向でポップな音楽を付けるように言われたヒッチコックが、それに逆らえず、シンフォニックなハーマンのスコアをボツにしたということらしい。ヒッチコック自身もそのころは斜陽とされており、強くハーマンを擁護することが出来なかった。映画を作り続けるにはハーマンを切らざるを得なかったようだ。あと、音楽の使い方に関してヒッチコックとハーマンに意見の相違があったとも言われている。

このスコアの異常な点はその楽器編成だ。ホルン16、フルート12 (ピッコロ、アルト、バス持ち替え)、トロンボーン 9、チューバ 2、 ティンパニ 2 セット、チェロ 8、コントラバス 8 とライナーに記載されている。音楽もフルートをフィーチャーしたものがほとんどで、それも低い音域でのアンサンブルが多く、それに低弦群のアンサンブルが絡む。メロディーは省かれハーモニーとリズムパターン中心の薄暗く乾いた音響が、"鉄のカーテン" のイメージを強く浮き立たせる。そんな中でも、力強いホルンの旋律とトロンボーンの暴力的なリズムによる「プレリュード」はやはり凄い。映画のサウンドトラックとしてハーマンの指揮により何曲か実際に録音されているが、「プレリュード」の録音でオーケストラから拍手喝采が起こったというほどだ。(その録音に現れたヒッチコックは、自分の期待していたポップな音楽とあまりにもかけ離れたその現状に驚き、ヒッチコックとハーマンは決裂した。) このときの録音は最近発売された「ヒッチコック音楽劇場」に納められている。

「プレリュード」以外にも聴き所は多い。マイケルとサラの食事シーンに使われる「ヴァルセ・レンテ」はヴィオタ・ダモーレをソロとしてフィーチャーした優雅で切ないワルツ。サラの不安な心情を描いた「サラ」も、ほのかな疑惑をたたえた切なさをチェロ・アンサンブルとフルート・アンサンブルでうまく表現している。そして "10-minute murder" として知られるグロメク殺害シーン「殺害」のバーバリスティックな力強さは「プレリュード」と並ぶハイライトだろう。サラがマイケルの任務を知り和解する「丘」の音楽は、『めまい』の「愛のシーン」に匹敵する濃密さがある。脱出シーンの「廊下」は「プレリュード」をベースにしたサスペンスフルなスコア。その後「自転車」「バス」と脱出劇の音楽は続くが(音楽的には静かなサスペンスとなっている)、ハーマンの音楽はそこで静かに途切れる。残りのフィルムに音楽は付けられていない。

サロネン指揮の「ザ・フィルム・スコア」を持っていれば、ハーマン版「引き裂かれたカーテン」の概要は分かるので十分かも知れないが、このマクニーリ盤はストーリーに忠実にスコアを配置してあるので、実際の映画のシーンを思い浮かべながら、もしハーマンの音楽が使われていたらどうなっていたのか想像してみるのも楽しい。

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2000年4月 5日 18:39

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