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交響組曲宇宙戦艦ヤマト
宮川泰:
交響組曲宇宙戦艦ヤマト
作曲家の宮川泰氏が 3/21 お亡くなりになりました。宮川泰氏と言えば私の世代では『宇宙戦艦ヤマト』の作曲者でして、ジョン・ウィリアムズがハリウッドでフルオーケストラによるスコアの復権を成功させたのと同じく、日本のアニメ作品にクラシック・スコアを定着させた立役者であります(『ヤマト』の方が先なのですが)。私も、『ヤマト』以降の松本零士作品で育った訳で、これらの音楽はかなり聴き込みました。今、クラシック音楽を聴いているのも、この時期の経験に端を発している訳なのです。
『宇宙戦艦ヤマト』は 1974 年に始まったテレビシリーズを皮切りに、映画やテレビで次々と続編が作られ、『ヤマト』関係の CD もかなりの数になります。まず、放映当時リアルタイムで LP として発売されたものを CD 化したアルバム 12 枚。但しこれらは実際に劇中にで使われた音楽そのものではなく、LP 用に再編曲され録音されたものでした。そして、実際の劇中使用曲や未使用曲を収録した『BGMコレクション』のシリーズがあり、またそれらと重複する形で、劇中使用曲を劇中使用順に収録した『エターナル・エディション』のシリーズもあります。これらにはダブった音源が多く、さらにこれだけ出してもまだ全音源を収録し切れてないコロムビアの無策ぶりも呆れますが、その話題はいずれするということにして、今回はこれらの中でも最も出来の良い 1 枚を紹介致します。
『交響組曲宇宙戦艦ヤマト』は初期テレビシリーズの BGM 集としてリリースされましたが、先に書きましたとおり、レコード用に編曲し直されて新たに録音されたものです。劇中使用の曲は細かいキューに分かれており、オケも小編成、しかも当時はモノラル録音だったのでそのまま LP で売り出せるものではありませんでした。また今と違ってアニメの劇中曲が商売になるような市場も無く、出すからにはレコード作品として聴き応えのあるものが必要だった訳です。普通この手のレコードは、主題歌に始まり主題歌に終わるものですが、このレコードではそれすら行われておりません。とにかくシンフォニックなアルバムでヤマトを綴ろうとする志の高さを伺わせます。
まず『序曲』。不協和音を多用した不安感を煽る序奏の後、宇宙の広がりを感じさせる川島かず子さんによるあの印象的な女声スキャットが入ります。この旋律、単純に繰り返しているようでいて、実は繰り返しの度に Gm と Fm を行ったり来たりし、神秘性を増すように出来ています。これを第 1 主題とすると、この後第 2 主題とも言うべき主題歌を動機的に分解した音楽が続き、これも 2 度のズレを含んで展開されます (この 2 度のズレは序奏からこの曲を性格づけています)。短いながら展開部-再現部的充実感を持って再び第 1 主題が広大に歌われ、短いエピソードを挟んだ後、ようやく長調で主題歌の前奏部分が勇ましく現れ、締めくくります。

"無限に広がる大宇宙" のモティーフ
『誕生』。主題歌を大幅に編曲した秀逸なスコア。まず主題歌の歌い出しの部分を弦楽器によるユニゾンでゆっくりと演奏し、静かなる緊張感を盛り上げます。その後一転して主題歌前奏部分からなるホルンのファンファーレが入り、前奏のモティーフにるよる軽快な行進曲へ。F や G を移ろう行進曲はリズムセクションが軽快で、しかしなかなか飛び立てないもどかしさも感じさせます。ようやく Dm による主題歌部分が現れ、ここではオーケストレーションのうまさと相まって、鮮烈な印象を残す部分となっています。
『サーシャ』。音階的で単純な旋律を 3 回繰り返すだけの小品ですが、どことなくオリエンタルで神秘的な雰囲気なのはミクソリディア旋法のせいでしょうか。オーボエのソロが主体ですが、中間部は短三度上昇して弦楽合奏が艶やかに表現します。
『試練』のサスペンス・スコアの後、『出発(たびだち)』と続きます。ドラムスやE.ギターのリズムセクションがヤマトらしい雰囲気を盛り上げます。『出発』は安易にマーチ調などにはしてなく、なだらかな音楽を徐々にテンポアップしていく広がり感のある音楽で、幼稚な子供向け番組の BGM とは一線を画します。
『追憶』。あの勇ましい主題歌を哀愁漂うバラードに仕立てています。冒頭のギターとソロ・トランペットは演歌調でくさいですが、弦楽器のさり気ない和声付けなどが上手く、アレンジャーとしての腕の見せ所という感じの曲です。
『真っ赤なスカーフ』は、同名曲であるエンディング主題歌のアレンジ曲。導入部は弦楽アンサンブルによるコラールで、トリ・イゾ的なこってりとした和声付けが心地良い。主部に入るとサンバとなり、中間部の演歌風アレンジと良い、これまた秀逸なアレンジで楽しませてくれます。
『決戦』。挑戦-出撃-勝利 という 3 曲構成。解説で西崎プロデューサが『1812』のイメージと言っており、これもなかなか的を射た表現だと思いますが、マーラーの 6 番にも通ずるエキサイティングな楽曲だと思います。
『イスカンダル』。なんと言っても冒頭のアルト・フルート・ソロが効果的で素晴らしい。オケでも滅多に使われない楽器をヴィブラフォンの柔らかな伴奏とともに印象的に使っています。七度跳躍して順次下降する広がりと優しさのある旋律も美しく、気持ちの良いほど丹念に歌い上げていきます。
『回想』。『追憶』と同じく、男泣き風の旋律がギターソロとヴァイオリン・ソロで繰り返されます。3 度目は弦楽合奏でしっとりと盛り上がる感傷的な曲です。
『明日への希望』。これも 夢-ロマン-冒険心 という構成。まず『序曲』で聴かれたスキャットが帰ってきます。再現部的でアルバム構成としてはなかなか綺麗だと思います。チャイコフスキー的な木管アンサンブルの短いブリッジを経て、Dm を階段的に昇っていく力強い合唱が徐々に盛りあけていき、最後は主題歌の動機で格調高く締めくくられます。
最後はアンコール・ピース的な『スターシャ』。このアルバムの中で最も色っぽいムード音楽で、個人的に一番好きな曲です。まず冒頭の細かく分割された弦楽合奏のエッチな和声が美しい。そして主部に再び現れるアルト・フルートのソロ。痺れます。トロンボーンによるハーモニーや節分音もいかにもムード音楽然としており、フル編成のオケを凝りに凝って使っています。最後「レードドー」が名残惜しく繰り返されるあたりもニクイ。常套手段ではありますが、これは元をただせば《ワルキューレ》の終幕部分の反復されるエンディングや、《大地の歌》の繰り返される "ewig" に繋がっていくわけです。こんなアダルトな音楽は、この後のヤマトの音楽では聴かれません。
このアルバム、現在では「宇宙戦艦ヤマト CD-BOX」という、過去のサントラ盤を網羅した 10 枚組の BOX でしか手に入らなくなっているようです。リマスターリングされており、以前に出ていた単品 CD と比べると、ベールが 1 枚はがれたようにクリアな音になっており良いのですが、BOX じゃなきゃ入手できないという状況は問題だと思います。
さて、以前から「映画音楽」としてこの手のアルバムを紹介したいとは思っていましたが、その切っ掛けが宮川泰氏の死去とは返す返す残念です。ご冥福をお祈り致します。
関連ページ→ 長・短調の入り乱れ
2006年3月23日 16:43
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と言われてもピンとこない人が多いだろうが、これは[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E5%AE%99%E6%... [続きを読む]
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コメント(6)
投稿者 サトル : 2006年3月24日 19:03
コメントありがとうございます。前々からこの手の作品を音楽的な視点で書きたいと思っていたのです。早速コメントが頂け嬉しいです。譜例も入れちゃおうかと考えてましたが、そもそも聴いたことが無い人には興味ないだろうし、良く聴く人には不要かなと思いやめました。楽譜が欲しいですね。他の作品も取り上げたいと思っていますので、また読んで下さい。
ジュリーニのブルックナーは 7 番と 8 番もありますが、9 番が一番良い録音ですよね。ムジークフェラインでの録音の中でも屈指のものだと思います。
投稿者 渡辺純一 : 2006年3月25日 00:26
ヤマトの「無限に広がる大宇宙」のスキャットが好きなのですが、私は音楽的な知識に乏しいので、そういうコメントができませんでした。
なるほど、「繰り返しの度に Gm と Fm を行ったり来たり」していたのですね。納得です。
投稿者 patbank : 2006年6月 3日 11:45
patbank さん、コメントありがとうございます。
私も音を拾っていて気が付きました。一応譜例を付けておきました。本当はコードを書かないと意味がないのですが、私の耳ではしっくりくるコードが取れませんでした。
こういう 2 度ズレた繰り返しとか、長調と短調が頻繁に入れ替わるというのは、ヤマトの音楽の特徴のようですね。この主題だけでなく、他にも使われています。
投稿者 渡辺純一 : 2006年6月 5日 11:31
私はいま中一の吹奏楽部でトロンボーンをしていまぁす、しかも、宇宙戦艦ヤマトと楽譜をもらいましたぁ!先輩はメロディーで私はばんそうばっかだけど、けっこうひとりでふくところとかあって大好きです!
投稿者 さっちん : 2007年6月 2日 20:14
中一ということは、始めたばかりですかね。トロンボーンは伴奏が多いですが、ここぞと言うときに旋律が来て、それが格好いいのです。ヤマトなら、なかなか良い見せ場がトロンボーンにまわってくると思います。頑張って練習して下さいね。
投稿者 渡辺純一 : 2007年6月 5日 12:08
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これほど、“真面目”な音楽評論としての交響組曲ヤマトの評論を私は読んだことはありません。このCDは私の愛聴盤で最近も「誕生」の部分を聴いていたところでした。また新しい楽しみ方が増えました、楽譜をきっちりと勉強するとまた面白いのでしょうね・・・。
(ちなみにこのサイトにはジュリーニのブル9の批評でたどり着いたのでした。このディスクも最近購入して聞きましたが、録音が非常に素晴らしいですね。クラウス・ヒーマンの録音ではシノーポリのブル8もありますが、これも素晴らしかった。実はジュリーニにしても、シノーポリにしても、他のディスクは演奏がイマイチなのか、録音がイマイチなのかは分かりませんが、あまり良いとは思えません。私としては、広がりのある音の取り方が好きなので、窮屈な録音だとそれだけでガッカリしてしまうのです。)