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ベルリン・フィルと子どもたち

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ベルリン・フィルと子どもたち
コレクターズ・エディション

監督:トマス・グルベ、エンリケ・サンチェス・ランチ
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー《春の祭典》
出演:ベルリン在住 250 人の子どもたち、サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイストン・マルドゥーム(振付師) 他
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 以前ラトルの《春の祭典》の新盤を紹介しましたが、これはベルリン・フィルの教育プログラムとして 2003 年に行われた、第 1 回目のダンス・プロジェクトの演目だったわけです。その時の模様を撮影して、ドキュメンタリー映画としてまとめたものがこの『ベルリン・フィルと子どもたち』です。昨年発売された DVD をようやく入手しましたのでご紹介します。

 発売された DVD は 2 種類あって、本編の映画とメイキングが入っているだけの「通常盤」と、ダンス・パフォーマンス全編とオーケストラ演奏全編が収録された特典ディスク付きの「コレクターズ・エディション」があります。私の目的はどちらかというと特典ディスクのコンテンツなので、コレクターズ・エディションを購入しました。

 まず特典ディスクの「オーケストラ演奏篇」です。観るまでは公演本番時のオーケストラのライヴ映像だろうと考えていましたが、実際はフィルハーモニーでのリハーサル (またはサントラ盤に収録されたものの録音時) の風景を編集したものでした。演奏音声はサントラ盤と同一のものが使用されています。画と音が微妙にずれていたりするので、同時に録音&録画されたものではなく、断片的な映像素材を音に合わせるようにつなぎ合わせたものと思います。そのためか普通のオーケストラ映像よりもカット割りが細かく目まぐるしい感がありますが、あの部分もこの部分もと大量に良カットを見て貰おうとする編集者の執念を感じます。ソロを吹き終わった後の表情や、休みの部分で弓で拍をカウントしている弦楽器奏者など、演奏していない人の様子もカメラは捉えており、コンサート本番では見られないこれらのシーンが、普通のコンサート映像と違って奏者の人間味ある部分を伝えています。ベルリン・フィルはダンサーである子供達をこのリハーサルに招待しており、演奏終了後に巻き起こるブラボーがロックコンサートのようなノリのもので、演奏を楽しめた気持ちが素直に伝わり、これも良かったです。

 ダンス・パフォーマンス篇は本番の舞台を収録したものです。本番ではオケもその場で演奏しているのですが、DVD では「オーケストラ演奏篇」と同じ録音バージョンに差し替えられています。違う演奏も楽しみたかったですが、音響的な問題や舞台ノイズの問題など、クオリティ的には別録音の方が良いわけで仕方ありません。オケや指揮者が写るカットは短いので、あまり違和感が無いようにはなっています。ダンスもバレエと違い一糸乱れず音楽とシンクロするものではないので、こちらも問題なく観れます。ダンスの内容は《春の祭典》のストーリーをちゃんと踏襲しており、250 人という数を生かしたダイナミックな演出になっています。子供達の年齢も 8歳〜20代前半と層が幅広く、身長差やダンスの熟達度の違いを逆に上手く生かした演出で、観ていて飽きることはありません。

 本編の映画は 105 分。子供達が集まって練習を開始するところから、本番までを追います。ダンサーは退学者の多い学校から責任感のある子という条件で選んでおり、家庭が崩壊して施設に預けられている子や、祖国の紛争で家族を失い一人ベルリンに住んでいる子などもいます。初めからダンスに一生懸命取り組む子供達ではなく、私語や笑い声が絶えず振付師のロイストンらは絶えず「喋るな」「笑うな」「集中しろ」と注意し続けます。不安や自信の無さが無駄なおしゃべりや笑いを誘うのだと。ロイストン自身、苦境の中でダンスを見つけ這い上がってきた人で、子供達の心を充分承知の上に厳しく躾ており、ダンスで人生を変えられるんだと真剣に子供達にぶつかっていきます。ロイストンのやり方は最初は子供達から反発されるものの、ある時点から子供達はおしゃべりを止めて集中し積極性も発揮するようになり、映画の作りとしてはお涙頂戴ではないのですが、子供達の成長とその可能性に心を洗われるような感動を与えてくれます。ラトルは映画の中で「芸術は贅沢品ではない。生きるための必需品だ」と言っていますが、その言葉が単なる観念ではなく、まさしく文字通り子供達を救っている証拠がこのドキュメンタリーと言えるでしょう。

 映画の中にはベルリン・フィルのリハーサル風景も登場します。こんな風に練習しているんですよ的な紹介ブイではなく、映画の中では楽団員も子供達と同じアーティストもしくは先輩アーティストとして捉えられているように思えます。ベルリン・フィルだからといって何の問題も無いわけでない。レベルは違うけど同じ課題に挑戦している人々なのだと。ま、そんなこと抜きに普通にリハ風景として見ても楽しめます。しかし本編ではベルリン・フィルの出番は少ないので『ベルリン・フィルと子どもたち』というタイトルより、原題の "Rhythm is it" の方が当を得ていると思います。

 そのベルリン・フィルのメンバーが活躍するのはメイキング篇です。メイキングといっても映画撮影の舞台裏というのではなく、映画では使われなかったそれ以外のドキュメンタリーという感じで、その中にベルリン・フィルのメンバーが各学校へ赴き、音楽を教えるというシーンもあります。ラトルのインタビューもふんだんに入っており、翌年の《ダフニスとクロエ》や翌翌年の《火の鳥》の模様も納められています。これらダンス・プロジェクトも DVD として発売されるということです。このメイキングは 52 分もあり、サイドストーリーとして本編を補完しています。

 ま、正直言って本編ディスクは 1 度見れば充分かなと思いますが、教育関係者の方やそういうものに興味のある方は参考になる部分もあると思います。しかしちょっと見始めるとついつい見てしまう作品で、変に子供達の感動巨編として盛り上げてない部分や、説明的なダイアログを入れてない点が臨場感を高めており良いです。特典ディスクは《春の祭典》ビデオとして良質のコンテンツだと思います。これだけでも売ってくれって感じ。ダンス篇はダンス・プロジェクト DVD にも収録されるかもしれませんが、ラトル/ベルリン・フィルのファンならこれでしか観られないオケ篇はお薦めです。

 ラトル/ベルリン・フィルはこの《春の祭典》を多角的に利用しており、オリヴァー・ヘルマンによる無声映画《春の祭典》のサウンドトラックとしても使われております (本来こちらの為の録音だったらしいですが)。この映画は悪夢的エロ・グロな内容で《春の祭典》の解釈としては大胆すぎますが…、ともかく 1 つの演奏をこんなにも活用するとは、1 粒で 3 度美味しいプロジェクトだった訳です。《ダフニスとクロエ》や《火の鳥》の一般発売も是非ともお願いしたいものです。

関連記事を検索: ストラヴィンスキー ベルリン・フィル ラトル 春の祭典

2006年1月27日 17:53

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