『白夜行』東野圭吾
『白夜行』東野圭吾
集英社文庫
文庫本で本編 854 ページ、本の厚さでいうと 3.6cm と、普通上下巻に分けるんじゃないかと思える分量ですが、 厚さは問題じゃありません。東野圭吾を読んだのは初めてですが、この作品には圧倒されました。
話の発端は大阪。廃ビルの一室で殺された質屋の主人。その被害者の息子である桐原亮司と、容疑者の娘である西本雪穂という 2 人の小学生。容疑のかかっていた雪穂の母親と愛人も不慮の死を遂げ、質屋殺しは結局犯人は判らず迷宮入りします。物語は亮司と雪穂の成長をそれぞれ追う形で進んでいきますが、2 人が接触することはありません。しかしこの 2 人の周辺にはレイプ未遂や失踪事件、事故死、横領事件など様々な事件が起こり、読者は亮司の陰に雪穂の存在を、雪穂の陰に亮司存在をうっすらと感じ取るのです。
以後、まだ本を読んでない方は読まない方が賢明です (^^;。
ジャンルでいうとミステリーなのでしょうが、犯人や犯行方法などは特に謎ではありません。最初の質屋殺しだけ謎に包まれていますが、それでも犯人は意外な人物ではありません。謎なのは、亮司と雪穂がなぜこのような人間になったかという点に尽きると思います。このような非人間的な存在がどうして出来上がったのか。また二人を繋ぐものはなんなのか。解説で馳星周氏が「『白夜行』はノワールの傑作だ」と書いていますが、人間の陰の面を残酷にまで描き出すというという意味で、ノワールという言葉はこの作品にピッタリだと思います。
そういうノワール的な面も魅力ですが、私かもっとも魅力を感じたのは時代設定です。このお話の時代は、中学三年のときに『ロッキー』を見に行くという話があるので、おそらく昭和 36 年生まれ世代でしょう。私より少し年上。その世代が小学生だった時代から、バブル崩壊後位までの話です。で、それぞれの事件がその時代を感じさせるものであるのが、この話をより一層魅力的なものにしていると思います。亮司はパソコンの記憶装置がまだカセットテープだった頃に、不正に入手したソースをもとにゲームソフトを作り、販売を始めたりします。そのような記述を読むと、おお確かにそんな時代だったと膝を打ちたくなるのです。銀行の ATM の導入につけ込んだ犯罪も犯します。そのような時代とともに主人公達が生きているので、亮司と雪穂の非人間的な性格にもかかわらず実在感を持ってそこにいるのです。
しかしこの二人に共感しながら読めるようには書いてありません。書き手は、他の登場人物からこの主人公をながめるように書いています。ですので主人公達が本当は何を考えているのかは、つまびらかにされません。亮司はまあどうでもいいとして (^^;、雪穂に関しては男目線で書いてある部分が多くなっています。猫のような目をしたモデル並の美女。スタイルも完璧。料理も上手くて、おしとやかな性格。それでいて株や会社経営まで大胆にこなす。まったく男から見た理想的な女性像と書かれています。私も一度会ってみたいですね。まあ貧乏人には目もくれないようですが (^^;。私は何となくフルート奏者の高木綾子さんか、女優の仲間由起恵さんのイメージで読んでいました。仲間さんは映画『g@me』(原作は東野圭吾さんの『ゲームの名は誘拐』) にも出ていましたからね。
この本が凄いと思う点で最大なのは、本の残り数ページというところまで来ても、とても解決しそうにない展開なのに、最後の最後で実に綺麗に話を畳んでしまう、その力量です。最後の章になっても全然まとまる気配がないので、これは話が開いたまま終わってしまうのかとハラハラしました。しかし最後の最後でちゃんと説明されながら、綺麗にパタパタと話が畳まれていくのです。理由づけするだけでなく、最後のピースが填ることで初めてどういう絵だったか判るという衝撃があります。
私にとって珍しいことですが、読了後もう一度読み返しています。それは「質屋の主人=父親」殺しの背景を知ることで、それまでは脇役達の視線で語られていた物語が、「ふたりの物語」として亮司と雪穂の視線で読み返せそうだと思えたからです。ストーリーのさらに外側に、とんでもないトリックを仕掛けられたという思いです。
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「白夜行」集英社文庫
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東野圭吾
2004年8月26日 17:53
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コメント(4)
投稿者 あさぎり : 2004年10月16日 19:00
コメントありがとうございます。
亮司は切り絵に自分の良心や太陽の下を歩く自分というものを封じ込めていたのだと思います。でもそのとき振るう鋏は罪であり形見であり、様々なものを受けとめてきた訳で (ラストでも重要な役割を担いますしね)、紙を刻むたびに、まともな人生を歩める訳がないと認識することになる。悲しいですね。
雪穂ですが、続編の『幻夜』はもっと凄い事になっています。私も今読み中。また感想を書きたいと思います。
パソコンの記憶装置がカセットテープだった時代は、私はあの本の通り経験しています。パソコンショップ (と言ってもソフマップみたいな店は無く、電気部品を売る商店に置いてあった) で PC-9801 をみて、おー漢字が表示されている〜と感激していたものです。
投稿者 渡辺純一 : 2004年10月16日 22:26
さっそくお返事ありがとうございます。
>>亮司は切り絵に自分の良心や太陽の下を歩く自分というものを封じ込めていたのだと思います
そうですね、それがせつないですね。
私も「幻夜」が続編っぽいものだと聞いたので、今度読んでみようと思っていますが、
こちらは文庫はでてないんでしょうね?またまた長いんでしょうか?(ーー;)
今は、宮部みゆきの「火車」を読み返してます。
私がパソコンにふれた時代には、16cm四方ぐらい?のフロッピーでした^_^;
いかに遅れた人間だったか・・・その頃にようやくワープロってものに触ったような記憶があります。
渡辺さんの「幻夜」の感想を読めるよう、私も早く入手しなければ!それでは、またおじゃまします
投稿者 あさぎり : 2004年10月16日 23:55
拝読しました。これぞノワール小説、悪い人間は魅力ありますからね。奇妙なエロチズム。宮部みゆきの火車のラストと比べてより映画的ですかね
投稿者 福田浩司賞味大臣 : 2008年4月30日 16:18
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はじめまして。
私はさっき、白夜行読んだばかりです。
なので思わず書込んでしまいました。
亮司の、小学生の頃の雪穂のための切り絵、
友人「友彦」と「弘恵」のカップルのための男の子と
女の子の切り絵、雪穂の大阪の開店での3〜4歳の
少女へのトナカイの切り絵、この3つの切り絵に
亮司のまだ残ってる純真な部分を感じて、せつない
です。亮司にはまだ人間的な部分が残ってる気が
します。雪穂主犯の3つのレイプ事件のうち
2つはそれなりに理解できますが、こと親友の江利子
の件だけは、許せないと思いました。
雪穂の境遇のほうが、人間性をなくすほどの大きな
傷だったとは思いますが、もうこの人はこの先
生きていても、人を不幸にするばかりの気がします。
ただ、二人ともどこかもっと早い段階で、太陽の下を
歩くこともできたんじゃないのか?例えば雪穂なら
唐沢家の養女になった時点で・・・とか、親友江利
子の件さえやらなければ・・・とか、
亮司は先見の目はあるしその才能をいかせば・・・
とか思ってしまいます。
ただほんとに時代の流れにそった話だったので
私はその頃なにをしてたかな?とか思い出しながら
読めたのでおもしろかったです。
上に昭和36年世代ってありますが、私は昭和38年
かな?って思って読んでましたけどどうでしょうか?
ちなみにパソコンの記憶装置がカセットテープだった
頃があったというのにはビックリしました(笑)
どなたかのこの白夜行の感想を聞いてみたかった
のでこちらを見れてよかったです。
ながながとすみませんでした。