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『終戦のローレライ』福井晴敏

爆笑問題「文学のススメ」で、爆笑問題の太田が『終戦のローレライ』をベタ褒めしていたのを機に、福井晴敏を読んでみました。作品数はまだ少ないので、最新作の『終戦のローレライ』から読むような愚は犯さず、1 作目の「川の深さは」から順番に読みました。

 福井作品の特徴は、どこまでが現実でどこからが虚構かという境界線が判らない世界観の中で成り立っているということでしょう。それも「そういう出来事があったかもしれない」というような日常性の中での虚構ではなく、明らかにこんなことは無いだろうという程の大嘘に繋がっていくのが爽快です。さらにその大嘘に繋がる過程が歴史的な思考実験のようで、うそ八百の中にも無視できない真理が見え隠れしていて侮れません。

 例えば「川の深さは」では、巧妙にはぐらかしてはいますが地下鉄サリン事件を起こしたあの団体としか思えない集団が出てきます。事件の詳細や経過も、我々が知っているまま書かれています。読者は現実をなぞっているという錯覚に陥ります。しかしお話では、地下鉄サリン事件 (小説では地下鉄を爆破した事になっていますが) の背景には北朝鮮やアメリカが関わっているという設定になっており、事件を総括するような書き方でドキュメンタリーを読んでいるような気にもさせるのですが、その流れのままフィクションへと繋がっていくのです。読んでいると、どこからがフィクションなのか判らないのです。で何となく、政治的な背景の話もあながちあり得ない話じゃなさそうと思えてくるのです。

 『終戦のローレライ』も、終戦間際の状況がかなり具体的に書かれる中、壮大な大嘘へと発展していきます。私は軍事マニアではないし、歴史もそんなに詳しい訳でないので、事実と空想の境がはっきりせず、大嘘だと知りながらも「あったかも知れない」と思わせる説得力があります。そんな中で、この物語の要であるローレライ・システムが思いっきり SF しているのが何なんですが…。

 『川の深さは』『Twelve.Y.O.』『亡国のイージス』と読み、パワーのある文章を書く作家だなぁと関心しました。が、題材が自衛隊やら市ヶ谷やら C.I.A. やら北朝鮮やらと似たようなものですし、キャラクターもワンパターンで、どれも主人公がダイ・ハードみたいに大活躍する話なので、2 冊も読むと食傷ぎみになりました。頑張って『終戦のローレライ』も読みましたが、もうお腹いっぱいです。

 『終戦のローレライ』はそんな状態で読んでいたので、どちらかといえば私は『亡国のイージス』の方が好きです。『亡国のイージス』はプロローグだけでも短編小説として通用する程の内容を持っており、プロローグだけで泣けるほど。それと比べると『ローレライ』は引きつけるものがあまりなく、特に前編の「ローレライとは何か」という問題に物語を転がす力は大して無いと感じました。また、「ローレライ」を読者にも秘密にしておかなくてはならない都合から、小説の始まりは 5W1H が曖昧なままです。それはまあプロローグだから良いとしても、場面転換の度に、いつ・どこで・誰の話なのかという状況説明が先延ばしにされるシーンが多く、ストーリーに没頭出来ません。その辺が、いまいちでした。

 潜水艦同士の戦闘や、最後の決戦など、戦闘シーンは楽しく読めました (楽しくというのは不謹慎 ?)。最も強烈だったのは、広島に原爆が落とされる部分。第 3 者の視点で淡々と書かれているのですが、様々なデータや数値で綴られていく原爆投下の模様に、記録映画を見るような冷酷さを感じました。この感覚が映画でも出れば、凄いでしょう。

 上巻は結構しんどかったですが、下巻は面白く一気に読めました。もしも『終戦のローレライ』を真っ先に読んでいたなら、もっと面白く感じたのかもしれません?

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2004年10月16日 10:10

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