『容疑者 X の献身』東野圭吾
東野圭吾
文藝春秋
発売時に目をとめてはいた本ですが、何となく買いそびれ、そうこうしている間に「このミステリーがすごい」などで 1 位を獲得。やばい読まなくちゃと思っているうちに直木賞まで取ってしまい、完全に今から買うのがこっ恥ずかしい本になってしまいました。この小説は「純愛ミステリー」という宣伝文句が付いていたと記憶していますが、なんかあまりロマンチックな話はなぁと敬遠していたのです。しかし実際に読んでみて、確かに最後まで読めばこれは本物の純愛と言える内容なのですが、基本的には純愛なんてことは考えずに読め、安心しました。
この作品は、東野圭吾読みとしては、『探偵ガリレオ』『予知夢』でお馴染みの帝都大学理工学部物理学科助教授・湯川学シリーズということになります。既刊の湯川ものは短編作品で、これが初長編。著者の東野氏も「短編はトリックを書くのが精一杯」「石神の人物像に魅力を感じたので、長編で書きたかった」と語っています。このシリーズのトリックは物理ネタ (多少奇想天外ではあるが) を扱っていて結構新鮮に思うのですが、この長編はそういう科学トリックではありません。
文章としては会話文が多く実にスラスラと読めます。状況説明や心理描写は淡泊ですが、それでも登場人物の微妙な感情の揺れを充分感じさせる的確な表現がされています。というか、我々が実際誰かと会話している時の感情の変化は、スイッチの ON/OFF のような化学反応に近いもので、長文を頭の中で四の五の作り上げている訳ではないと思います。会話の最中で長めの思考をするときはどういう対応をしようかと案じるときです。そういったスピード感がこの作品の会話なかには再現されており、リアルに感じることが出来ます。
石神は湯川の好敵手ではなくどちらかといえば同志のような存在なのが切ない。湯川の苦悩は痛いほど伝わります。石神は理論は完璧と自信たっぷりですが、恋心を抱いているのをあっさりと見抜かれるなど、理屈じゃない部分で崩されていきます。靖子も気の毒な人ですが、恩人とは想いながらも石神を疎ましく思っていくなど造型がリアルです。衝動的な行動に走り物語りの切っ掛けをつくる靖子の娘も痛い。人物造型が非常に豊かです。そして、もしかしたらここで話が変わるんじゃないかという点がいくつかありますが (普通なら工藤に罪をなすり付けそう)、結果的には最悪な末路を辿るのが東野圭吾的かもしれません。
2006年2月16日 12:48
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