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著作権と戦時加算のこと、バルトークの作品の場合

 作品の著作権の問題は難しいです。特に戦時加算というものの存在が、複雑にさせています。

  バルトークの作品の著作権を調べていたのですが、ほとんどのものが著作権消滅 (PD:Public domain) になっているものの、一部作品がまだ権利が残っていたりしています。これは戦時加算によるものなのですが、どうしてこういう事態になっているのか、調べでみました。

 戦時加算というものは、第二次世界大戦中、日本が連合国の著作物の権利を保護しなかったと言うことで設けられたペナルティーで、開戦(1941年12月8日)から平和条約を発行する前日までの実日数を、通常の保護期間 50 年に加算するというものです。また 1941年12月8日以降に作曲された曲は、戦時加算がその分短くなります。平和条約がいつ発効されたかは国によって違うので、一律には言えないのですが、クラシックの作品に関係の深いイギリス・アメリカ・フランスは有り難いことに同じ日数です。これらの国では、著作権における戦争期間は1941年12月8日から1952年4月28日までの3794日=10年と142日(閏年3回)となっております。

 3794日というと計算が面倒に思えるかもしれませんが、一般的な著作権の保護期間の計算方法は、作者の死亡した翌年の 1月1日から起算するので、戦時加算された場合、60 年後の 5月22日を X デー (22 日は保護期間内) と考えれば良いわけです (ただし戦時加算開始年が閏年の翌年の場合だけ、5月23日までとなる)。

 バルトークは 1945年9月26日没ですので、通常の保護期間は 1946年からの 50年間で 1995年12月31日まで。大半の作品はこの時点で PD になっています。

 バルトークは 1939 年、ウィーンのユニヴァーサル社がナチ化されたのを知ると同社との契約を破棄、ロンドンのブージー・アンド・ホークス社と契約します。

 イギリスの会社ブージー(現在はショット社)から出版された作品は、連合国側の著作物として戦時加算の対象となるようです。(権利の状況をみるとそのように考えられます。)

 つまり、ブージーから出版された作品で 1941年12月8日以前に作曲されたものは、戦時加算されて 2006年5月22日まで著作権が存在しています。

 (バルトークは 1940年10月、アメリカに亡命しましたが、ここでアメリカ国籍を取得していれば、バルトークの全作品は戦時加算の対象になったのかもしれません。)

 しかし、ブージーから出版された全ての作品がまだ保護期間内という訳でも無いのです。《オケ・コン》は既に著作権が消滅しています。問題は1941年12月8日以降に作曲された作品かどうかです。これ以降の作品は、作曲されてから平和条約発効までの日数を延長期間とするので、要するに新しいほど保護期間が短くなります。

 《オケ・コン》は 1943 年の作品なので、仮に 1943年1月1日に出来たとしても約 1 年と1ヶ月保護期間が短くなります。保護期間最長の 2006年5月22日より1年1ヶ月短縮なら、今年の4月ということになりますので、権利は消滅です。無伴奏ヴァイオリン・ソナタ (1944) も既に消滅しています。新しい作品ほど早く権利が消滅するという不思議な状況になっています。

 いずれにせよバルトークの全作品は来年(2006年)の5月23日から PD となるはずです。ただしクリティカル・エディションはまた別の著作権が生じるので注意が必要です。

ブージーより出版された主な作品。※印は、著作権が消滅していないもの。

ヴァイオリン協奏曲第 2 番(1937〜38)※

コントラスツ(1938)※

ミクロコスモス(1926〜39)※

弦楽のためのディヴェルティメント 1939※

弦楽四重奏曲第 6 番 (1939)※

管弦楽のための協奏曲 (1943)

無伴奏ヴァイオリン・ソナタ (1944)

参考サイト

http://www.yung.jp/hp/php/tyosaku.php

 ちなみに、1943年没のラフマニノフもアメリカに亡命しアメリカ国籍を持っていました。彼の作品も戦時加算の対象になっていましたが、2004年5月22日に著作権消滅となっています。

 プロコフィエフは 1953年3月5日に没していますが、フランス時代の作品が戦時加算の対象になっています。ロシアに戻ってからの作品は既に PD です。フランス時代に良い作品が多いのですがね。全部が PD になるのは 2014年5月22日。

 シェーンベルクは 1951 年没ですが、アメリカに亡命、まだ権利があります (PD になっているのは無さそう)。消滅は 2012年5月22日。

 近々 PD になる大作曲家はシベリウス (戦時加算は関係ないですが)。1957年没、2007年12月31日消滅。

 戦時加算がこの世から消えて無くなるのは何時だろうかと考えてみましたが、1952 年以前に作品を書いており、かつまだ存命な作曲者もいておかしくないですので(そんなにいないでしょうが)、もう 50〜60年位は影響があるのでしょう。バーバーは 1981 年没ですが、アダージョは 1937 年の曲なので戦時加算の対象です。2042 年まで保護期間。

以上、間違っていても責任は取れません (^^;。何かする場合は、JASRAC や関係省庁に確認して下さい。

※閏年の計算を間違っておりました。10年で必ず2回ってことないですね。訂正しておきました。

※尚これは日本でのお話です。欧米諸国など保護期間が 70 年の国では、バルトークもガーシュインもまだ保護期間内です。

(この記事は 2005 年に書いたものです。)

関連記事を検索: バルトーク 著作権

2005年11月 1日 12:55

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コメント(4)

ぐはっ!!

シベリウスが大晦日まで待たないといけないとは!
2007年になったら、無料の楽譜がでるとおもったのに・・。

投稿者 とおりすがり : 2007年1月11日 18:12

今 JASRAC で確認しましたが、やっぱりシベリウスはまだですね。
って、PD になったからって無料にはならんでしょうに (^^;。
出版社も "改訂版" を出して、なんとか繋ごうとしていますし、
そうでなくても、版面権を主張されるとやばいでしょ。

投稿者 渡辺純一 : 2007年1月11日 18:28

ちょっと思ったのですけど、版面権ってまだ日本には存在しないですよね?

投稿者 : 2007年3月28日 16:20

なるほど確かに版面権は日本じゃまだ認められてないようですね。しかしそれも法整備が整ってないだけで、流れとしては版面権を認めようという方向であり、今はまだ大丈夫なだけ、と思っていた方が良いのでしょうね。
常識的に考えても、著作権が切れたからスキャンして再配布って、問題あると思います。楽譜の見た目も作品の印象に影響しますから、それも作品のうちという主張は判ります。せめて浄書はし直すべきでしょう。

投稿者 渡辺純一 : 2007年3月28日 21:01

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