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バルシャイ版マーラー交響曲第 10 番全曲 (2001) スコア
Gustav Mahler
Symphonie Nr. 10
Rekonstruktion und Orchestrierung nach Mahlers Entwurf
von Rudolf Barshai (2001)
UE31504
[この項目は書きかけです。今後加筆されたり、譜例を付けたりする予定です。]
未完のマーラー交響曲第 10 番の全 5 楽章補筆完成版は幾つかありますが、そのなかで最も新しいものがこのバルシャイ版です。バルシャイはこの blog を読んで下さっているかたならご存じでしょうが、ショスタコーヴィチのスペシャリスト。ショスタコーヴィチから作曲を学び、指揮者として第 14 交響曲の初演を務め、また弦楽四重奏曲をアレンジした《室内交響曲》を作り上げたアレンジャーとしても有名です。また自身完成したマーラー 10 番をユンゲ・ドイチェ・フィルと演奏し Brilliant よりリリース、それはこの blog でも紹介しました。来日し、実演も行っています。
今までマーラーの 10 番全曲のスコアで入手可能だったのはクック版のみでしたが、今年 2006 年にこのバルシャイ版が Universal Edition より刊行されました。約 A4 判 (27.6×21.0) 251 ページで、巻頭にはこの版についての簡単な序文と、バルシャイによる謝辞がついています。クック版とは違い、マーラーの 10 番の研究資料としての意味合いはありません。
楽器編成
4 フルート (3rd, 4th はそれぞれ 2nd, 1st ピッコロ持ち替え)
4 オーボエ (3rd, 4th はそれぞれ 2nd, 1st イングリッシュホルン持ち替え)
クラリネット in Es (4th クラリネット in B に持ち替え)
3 クラリネット in B, in A (2nd は 2nd Cl. in Es, 3rd は 2nd B.Cl. に持ち替え)
バスクラリネット in B
4 ファゴット (3rd, 4th はそれぞれ 2nd, 1st コントラファゴット持ち替え)
6 ホルン in F
4 トランペット in F (1st, 2nd は in C、3rd, 4th は in B 持ち替え)
コルネット in Es
テナーホルン in B
4 トロンボーン
2 バスチューバ
ティンパニ (2 奏者)
2 シロフォン、マリンバ、アンティークシンバル (Crotales)、2 グロッケンシュピール、鐘 (Glocken)、鐘 (Gong)、カスタネット、むち (Peitsche)、ウッドブロック、ルーテ (Rute), トライアングル、シンバル、タムタム (Tam-Tam)、トムトム (Tomtom)、タンブリン、小太鼓、大太鼓、大太鼓に付けたシンバル、軍隊用大太鼓
チェレスタ
ギター
2 ハープ
弦五部
マーラーの手でほぼ完成されている第 1 楽章の編成からは思いもよらないほどの大編成。それにしても打楽器の数は異常で、第 2 楽章の最後は、ティンパニの 2 人を別にしても、打楽器奏者が 9 人必要です。使っている打楽器もマーラー的とは言い難い。また金管の編成も大がかりで、チューバ 2 本を使い、さらにコルネット、テナーホルンなども動員しています。それと第 7 交響曲に登場したギターも動員。マンドリンまで持ち出さなかっただけまだましか。マーラーはこの辺の特殊楽器を使う場合、象徴的な意味合いを持たせ印象的に聴かせますが、バルシャイはオケの音色の拡大を目的として使っている感じで、キャラクターと言うよりは没個性的な音色のみを必要として使っていると思えます。
さて、細かく見ていくときりがないので、ここでは金子健志氏著「こだわり派のための名曲徹底分析 マーラーの交響曲・2」(音楽之友社) で解説されている第 10 交響曲のチェックポイントに従って、バルシャイ版を見ていきます。この曲の版の違いに興味がある方かならこの本を持っていることが期待されるので、本を参照しつつ読んで頂けると幸いです。
I 楽章
マーラーの手でほぼ完全な総譜状態にまで仕上げられている楽章。しかし所々オーケストレーションの薄い部分があり、そのまま演奏しても違和感はないものの、補筆完成版は例外なくその薄い部分を埋めています。バルシャイも例外ではありませんが、クック版と同様に補筆部分の方が目立つようなことが無いようにしてあります。またオリジナルは 3 管編成ですが、クック版以降 4 管編成で作り直すことが一般的になっており、バルシャイ版も 4 管編成なのですが、クライマックス以外は 3 管編成を保っており、マーラーのオリジナルを尊重しているのだと思います。打楽器の多いバルシャイ版ですが、I 楽章は一部大太鼓が加えられている以外は手を加えられていません。
1〜15 小節
ここの開始部は、嬰へ長調 (# 6 つ) という調号に、さらにダブルシャープなどの臨時記号が多いため、クック版などではエンハーモニックに読み換え、臨時記号をなるだけ簡単に記す記譜方法へと改められたりしている部分です。ただしこの変更をすると演奏は容易にはなりますが、楽譜上では調性が破壊されるという弊害が起きます。バルシャイ版では、自筆スコアと同じく、エンハーモニックな書き換えは行っていません。また編曲者によって発想記号が付加されたりしていますが、バルシャイ版はオリジナルの Andante のみで、ダイナミクスも最初の pp だけ。弱起が上げ弓 V の指示、4 小節目に A-Saite という指示を加えるのみです。
137〜140 小節
この箇所は、音楽的な盛り上がりの割には自筆スコアに空欄の目立つ箇所で、金子氏もマーラーなら最終的に埋めたはずと記しております。バルシャイ版では空白部分 (Fl. 以外の木管、Br. など) を他のパートを参考に埋めており、クック版に近い仕上がり方ですが、クック版の画一的な埋め方より凝っており、各パートを複数の要素に割り振るシェーンベルク的なオーケストレーションを施しています。さらにバルシャイはここで、大太鼓のロールを小太鼓のバチで semple p で叩かせるなどという凝った事もしています。この辺より 161 小節あたりまで、全集版よりかなりオーケストレーションを厚くしてあります。
162〜163 小節
ここは木管に対旋律を付けることが多い部分ですが、バルシャイ版はストイックに自筆稿のまま。164 小節で木管が対旋律をちょっと入れてきます。
170〜171 小節
170 小節目の 1 拍目が Fis と F、次の小節の 1 拍目が Ais と A でぶつかるという部分で、クックはマーラーがスコアを書き間違ったとしてぶつからないように修正してしまった部分ですが、バルシャイ版は全集版と同じように半音のぶつかりを残しています。バルシャイ版は全般的に、マーラーの自筆稿を素直に取り入れる方針のようです。
187〜193 小節
Vl. II の音程で、Cis か C かという問題の部分。バルシャイ版はクック版などと同じく、臨時記号が外れていると素直に解釈し Cis にしています。
201〜212 小節
203 小節目の Vl. I の A 音だけが裸になる部分。クライマックスにおけるこの緊張感ある A 音は、直筆譜では何のダイナミクスの指示もありません。バルシャイ版でも指定はなし。但し p からディミヌエンドしていくので pp 程度になるでしょう。但し Ton! という指示が付け足されています。206 小節目でチューバが Cis で入り、他に一緒に入る楽器と馴染まず耳障りに聞こえる問題は、バルシャイ版はコントラバスと合わせるように、3 小節間を 2 本のチューバでクロスフェードするように吹かせることで解決しています。209〜212 小節のダイナミクスは、それぞれの楽器が最後の小節でディミヌエンドするようになっています。
II 楽章
クック版のこの楽章は第 9 番の第 3 楽章のようなタイトなオーケストレーションに思えますが、バルシャイ版は第 6 番のスケルツォのような、もうちょっと厚みのある音楽にしています。CD では聞こえにくいですが打楽器の書き込みも多く、成功している部分もあれば過剰と思える部分もあり。後半のドラマが急展開する部分にオーケストレーションがついて行けてない不満はどの補筆版でも感じるのですが、バルシャイ版も十分絞られてない印象です。
1 小節〜
変拍子が連続する楽章ですが、マーラーによるパーティセルには拍子の指示は無く、1 小節に存在する音符の数を数えて何拍子か確定するという状態のため、3/2 と 6/4、2/2 と 4/4 はどちらなのか判別が付かない部分です。この辺はバルシャイ版はクック版に従っているようです。
76 小節〜
自筆スコアでは、上段の Fg. は 5 拍子、下段の Vc. は 6 拍子で書かれているという部分。スケッチでは 5 拍子なのでクック版では 5/4 になっています。バルシャイ版も同様。
60 小節〜
このあたりでテンポなり表情なりの変化が期待される部分で、クック版では 62 小節に"Unmerklich gemessener" (気づかれない程度に、テンポを緩めて) という指示が付加されていますが、バルシャイ版はこの辺は何の指示も無しで通します (そもそもマーラーによる指示は、曲頭の "Schnelle Viertel (3/4 ganze Takte - 4/4 Alla breve)" のみ)。実演でも曲想の変化を付けるより、ここでは一貫した流れで進んでいるようでした。
130 小節〜
冒頭主題が戻ってくるので Tempo I が付加される部分ですが、前述の通りバルシャイ版はインテンポで進んでいるので、Tempo I もありません。
164 小節〜
カーペンター版で Tempo III と呼ばれている部分で、レントラー風のワルツとなるところ。バルシャイ版ではここの前の小節で Flotters Tempo の指定があり、164 小節に L'istesso tempo と指示されるだけで、最小限の指示にとどめているようです。実演では表情付けがはっきり行われているので、演奏者にまかせるということでしょうか。トリオから主部に戻る 245 小節目も特になんの指示も書き込まれていません。このトリオ的な部分はクック版よりオーケストレーションが厚く、特にハープが加わることでマーラーの緩徐楽章の雰囲気がグッと深くなっています。また Vl. もソロを多用し雰囲気に幅が出るのも良い点でしょう。ギターが出てくるのもここですが、ギターは唐突な感じがします。
300 小節〜
164 小節からの部分の再現にあたる場所で、そのテンポ設定が問題とされる部分ですが、バルシャイ版では特にこの辺も指示は無し。この辺は主部の文脈でまず主題が再現がされており、319 小節の "Im Tempo ruhiger Bewegung" (穏やかな動きのテンポで) に向かって徐々にトリオの雰囲気へ持って行くという発想のようです。マーラーが付けてないものは付けないという事ではなく、ここまでは基本的なテンポに変化は付けないという方針のようで、この後はテンポの変化の指示が多くなります。
365〜366 小節
トリオのゆっくりしたテンポから Tempo I する部分、ホルンのアウフタクトをゆっくり演奏するか Tempo I で演奏するかが問題となる箇所です。クック版ではホルンのみ Tempo I を先取りするように指示されていますが、バルシャイ版は次の複縦線で揃って a tempo するようになっています。
469 小節〜
自筆譜では 2nd Vn. の A 音が 8 分音符の刻みなのかトレモロなのかの判断が付かない部分。クック版では、div. にして両方弾かせています。バルシャイ版はコンセプトとしては同じですが、1st Vn. のメロディーはソロにして、残りの 1st Vn. がトレモロを、2nd Vn. が 8 分音符の刻みを弾くようになっています。しかしそれよりもウッドブロックのトレモロも付加されており、そちらの存在感の方が耳に付く箇所です。またクックは旋律の完成度を上げるために 478 小節目のアウフタクトに自筆譜には無い金管を加筆していますが、バルシャイ版には付け加えられていません。
コーダ
バルシャイ版は打楽器が派手に活躍しており、異色な感じ。特にトムトムがマーラー的ではなく耳障りです。最後の部分はクック版でもシンバルの一打があるかないかで印象が変わりますが、バルシャイ版はホルンのみのフェルマータの小節に、小太鼓のロールで pp から f のクレッシェンドを補強 (但し CD ではこの小太鼓は聞こえません)、クック版のシンバルの代わりに小太鼓によるアクセントが入り、最後の 5 つの音も打楽器が盛大に盛り上げます。
III 楽章
23〜24 小節
Vl. の主旋律の最後の音がバルシャイ版では異なっています。クック版では C-Des-C と未解決で終わりますが、バルシャイ版は C-Des-B と 変ロに解決しています。他の同様の部分も同じく解決して終わっています。
51・96 小節
コントラバスの主旋律、直筆譜の曖昧さのため 51 小節目の 4 つ目の音は B であるが、96 小節目では As になる問題。両方とも B にしている版が大半のようですが、バルシャイ版は 96 小節目は As になっています。
7 小節目〜・126 小節目〜
A-B-A' の形式で 126 小節目からは 7 小節目からの再現になるので自筆譜では省略されています。クック版ではその部分を 7 小節目からの素材をそのまま再利用しますが、バルシャイ版もほぼ同様で、僅かな変化をつけるにとどまっています。
IV 楽章
1 小節〜
この楽章から、マーラーによる楽器の指示は極端に少なくなります。バルシャイ版の冒頭は金管と打楽器のみなので、5 小節目から主題を弾き始める Vn. との対比が鮮やかになっています。4 小節目の打楽器によるクレッシェンドの力量感も良いです。
166 小節〜
Br. と Vc. の音程が Fis か F かの問題。調性的には Fis で良いけれど、旋律の整合性としては F という考えもあるようです。バルシャイ版は Fis を採用しています。
2006年8月24日 11:05
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