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ペーテル・バルトーク氏のエングレーバーになる

DSC05264.JPG  かねてよりペーテル・バルトーク氏 (作曲家のご子息) と親交のあった村上氏のご尽力もあり、現在《青ひげ公の城》新版のパート譜を作っています。  事の発端は、村上さんからの「ペーテルさんがエングレーバーで困っている」という知らせ。「思うように事が運ばない。ピアノ・アルバムはなかなか進まない。最初の 3 ページを作るのに 3 ヶ月かかっている。今はもっと早い浄書家を見つけたので、多分もっと進むだろう」という連絡があったとのこと。浄書家は出版社 (Universal か Boosey) が手配するのだろうと思っていましたが、ご自分で探しているのでしょうか。

 これはひょっとしてチャンス!?と思い、《弦楽四重奏曲第一番》の第一楽章と、《ヴァイオリン協奏曲第一番》の第一楽章のスコアをサンプルとして作り、ペーテルさんへ送ってみました。それぞれ、現行の出版譜には間違いがあり、いずれ新版が必要とされそうな作品です。

 しばらく返事が無く心配しましたが、後に長文のお返事を頂きました。

 「返事が遅くなって申し訳ない。12 月はとても忙しい月だし、年末我々は体調を崩していたのだ。

 今現在浄書仕事が必要なのは、歌劇《青ひげ公の城》のオーケストラパート譜だ。この 10 年間、我々は父の手稿譜に基づいたこの作品の新版の作業をしてきており、オーケストラスコアとポーカルスコアは出版できた。ところが、浄書家の問題で、これらをさらに編集することが出来ず、さらに悪いことに、ここからパート譜を作ることも出来ない状態なのだ。パート譜はあらたに起こさなければならない。こちらには昔のパート譜から起こしたパート譜のセットがある。これは最初の出版時からそのまま過去 30 年間使われていたものに、新版での変更点を付け加えたものだ。見た目は良くないのだが、これを使った公演は何度が行われている。奏者は皆これに不満を漏らしているよ。

新しい綺麗なパート譜が是非とも必要なんだ。もしこの仕事に興味があれば、連絡して欲しい。」

 いきなりこんな大作のしかもパート譜!と、こちらも尻込みしそうな内容に驚きましたが、もちろん「喜んで引き受ける」と連絡しました。先方も喜んでくれ、1 ヶ月ほど後、弦楽器の昔のパート譜と、新版のスコアが送られてきました。それまでの間、私は、弦楽器全体と、木管の大部分を入力しておき、作成に備えました。

 送られてきたパート譜は手書きのもので (上の写真、クリックすると拡大します)、新版で変わった部分は修正液で消して書き直してある模様 (コピーなのでよく判らない)。そして、ヴァイオリンはまだいいのですがヴィオラやチェロはかなり 1 ページの密度が高く、確かに読みにくそう。さらにキュー (長い休みの部分に他の楽器の音符を小さく書いておくことで、次の出番を判りやすくするためのガイド) がほとんど無く、それも付け加えてくれとの指示。譜割りも必然的に変更せざるを得ません。演奏用の楽譜は譜めくりの位置を考えつつ全体的なレイアウトを見やすいものにしていかなければならないので、そこから組み立て直しとなると、かなりの頭脳労働となります。さらに出力サイズが B4 版に近い大きさだったので、普通の A4 プリンタしか持ってない私は、実寸での確認にも苦労する羽目に。

 ともかくなんとか最初の数ページを仕上げ、サンプルとして提出しました。ここはこうして欲しいという要望を何点か受けたものの "It also look very nice." と評価して頂き一安心。現在はヴィオラ・パートを進行中。低弦に行くに従って休みが少なくなり、div. で多段にする部分も増え、レイアウトが難しくなりますが、この楽譜をもとに著名なオケが演奏したり、録音もされたりするのかと思うと作業にも力が入ります。

 弦楽器が終了すればひと山越えたというところでしょうが、40 近いパートの 5 つが終わったに過ぎない訳で、まだまだ先が長いと思えます。いま空き時間は全てこの作業に費やしており、全力を尽くしているところで、このブログを更新する余裕などありません。しかし、今月ペーテルさんはヨーロッパ (恐らくハンガリー) に出かけているので連絡がとれず、今月中には弦楽器は余裕で終わる予定なので、多少時間に余裕が出来そう。なので今のうちに記録を残そうと思った訳です。

 ペーテルさんからは報酬も頂けることになっており (実はもう既に少なくない額の報酬を頂いている)、海外からの送金顛末や所得税の事がいま私の頭を悩ませている問題です。そのことも初めての経験ばかりなので、おいおい書きたいと思っています。

 日本では、私のような趣味で浄書をやっているような人間に仕事がまわってくる機会などほぼあり得ませんが、海外では経歴や経験や肩書きに関係なくチャンスを与えてくれて、こんな大仕事まで任せてくれるなど、ある意味驚きもありました。日本でいろんなしがらみに雁字搦めになりながら肩身の狭い思いで細々と作業するよりも、海外で、それもホンモノを作る、しかも作曲者のご子息と協力して。まったくバルトーキアン冥利に尽きる僥倖であますが、活躍の場を海外に求めてみる、その為の努力を臆さないという姿勢こそがまず必要なんだろうなということです。

付記:
 ペーテルさんからは、「父の著作権は日本では既に切れている。あなたの作った楽譜は、日本での公演で自由に使ってくれて構わない。」と言われています。出来れば Bartók Records の収入源になって欲しいのですが、試演していただけるという団体があれば、無料でお貸ししたいと思っています (まだ弦セクションしかありませんので、今のところ他は正規に借りて頂くしかない)。但し、プローベおよび本番に招待していただけることと、公演の録音を提供して頂きペーテルさんへ送ることを許可してくれることが条件です。興味のある団体様は、コメント欄よりご連絡下さい (コメントは非公開となります)。

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2009年4月 2日 10:56

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コメント(2)

初めまして。ハンガリー語通訳をしております森本と申します。ひょんな事でこちらのサイトを見つけました。ペーテル・バルトークさんと直接やりとりをされて、『青ひげ』のパート譜浄書までされているとのこと、大変驚きました。まだこのページしか拝見していないので、他のページも楽しませていただこうと思っております。また改めてコメントいたします。もし何かハンガリー語のことでもお役に立てるようなことがありましたら、お知らせ下されば幸いです。

投稿者 森本 覚 : 2009年11月19日 20:44

森本さん
コメントありがとうございます。ハンガリー語通訳の方とはとても心強い。ただいまペーテルさんの著作「My Father」の翻訳もしておりまして、共訳者 (というよりメインの訳者) の村上さんは、この夏フロリダへ出向き、4 日ほどみっちりとハンガリー語の固有名詞の発音とか本の中の不明な点をペーテルさんよりレクチャーしてもらってきました。しかしまた新たに判らない点が出てくるやもしれません。その節はお世話になると思います。村上さんにもお知らせしておきます。

投稿者 渡辺@管理人 : 2009年11月19日 22:58

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