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バルトーク:《中国の不思議な役人》 新版と旧版の比較

bartok_mandarin.jpg

 2000 年にユニバーサル・エディションより刊行されたバルトーク《中国の不思議な役人》の新版の情報です。従来の 1955 年刊行のスコア (旧版) は数多くの間違いがあり、またバルトークが本来意図していたものより約 30 小節のカットがされているものでした。

 《中国の不思議な役人》はそのエロ・グロ的内容から(実際はエロ・グロではなく、ポン引きに利用された女性と、ポン引きの被害者でありながら誘惑されたことで愛を手に入れることしか眼中に無くなった役人の、《青髭公の城》《かかし王子》と同様の倒錯的な愛の物語なのですが)、1926 年のケルンでの初演、27 年のプラハでの上演がされたのみで、本国ブダペストでの初演は何度も当局に妨害されてきたという作品です。バルトークは仕方なく、オーケストラ単独の演奏会で演奏出来るよう、物語の前半部分から作られた《演奏会版》を編纂、まずそちらを出版します。

 何回か計画されたブダペスト初演のなかで、1931 年に計画されたブダペスト歌劇場での上演では、当局が目を付けそうなシナリオの問題箇所に徹底的に朱が入れられ、音楽もそれに合わせ細かくカットがなされました。結局その上演も流れてしまい、舞台版のブダペスト上演はバルトークの死後となります。1955 年に全曲版スコアが出版される際に、出版社はどうやら 1931 年のブダペスト歌劇場での臨時カットをそのまま採用してしまったようで、現在まで一般的に演奏されていたものは、その "カット版" ということです。作曲者の次男ペーテル・バルトーク氏は父の作品の校訂作業を近年精力的に行っており、そのカット部分を復元し、また従来の出版譜にあったミスの修正も施した新版を 2000 年に発表いたしました。

 新版の楽譜は新たにコンピュータで浄書し直されたもので、旧版のように途中で本を縦にすることもなく、見やすくなっています (もうちょっと大判でも良かったですが)。また《演奏会版》への配慮も、従来通りカット位置を示す方法で対応しています。《演奏会版》のコーダが全曲の中に入り込んでいるのも旧版同様。また付録として、バルトークが破棄した 100 小節ほどある終幕部分の初期バージョンも収録されています。ペーテル・バルトーク氏による「まえがき」と、レンジェルの『中国の不思議な役人』オリジナルテキスト、簡単な校訂報告も付いています。しかし旧版との差異は多岐にわたるため、校訂箇所が全て記載されている訳ではありません。そこで独自に旧版との変更点をまとめてみました。その数の多さに、呆れるほどです。

 変更点は、音には現れないであろう記譜上の問題、音自体が違っているところ、それに復元された部分と、多数あります。また残念なことに新版自体のミスプリントもあるようです。それと旧版も指揮者用大判スコアの方がまだ正確で、スタディ・スコアはそれ以上にミスが多いらしいのですが、私が参照したのはスタディ・スコアなので、この正誤表にはスタディ・スコア固有のミスも多いと思います。

 旧版時代に判明していた間違いなどは、こちらのサイトに詳しく載っていますので、ご参照下さい。新版スコアにある「まえがき」と「解説」の日本語訳も読めます。

The Music-makers' Paradise
現在トップページのリンクが切れているようなので、こちら からどうぞ。

['06.9.28 付記] 上記サイトの管理人、《役人》研究の盟友である村上氏が、フロリダのペーテル・バルトーク氏宅(資料館)へこの 9 月に訪問されました。私は新版の問題点を村上氏に託し、氏はペーテル・バルトーク氏と研究員(Peter Hennings と Nelson Dellamaggiore) らとともに 6 時間も新版を検討したそうです(!!)。その時に確認出来た成果も下の正誤表に盛り込みました。練習番号 [43] 以降 [84] までは私もじっくり比較してなかったので、その間の問題点のあぶり出しが出来てなく、今となると残念です。村上氏はフロリダ訪問の様子を近いうちに音楽雑誌に発表したいと仰ってました。

関連項目:旧版スコアのさらなる問題点

[以下の正誤表はまだ書きかけ項目です。]

旧版にある明らかなミスは色で示しております。また新版での主要な変更点は色で示しており、そのなかでも耳で容易に確認できるのは背景を色にしてあります。新版で小節数の増えた箇所は色で示しています。ペーテル・バルトーク氏に確認できた新版のミスは色で示してあります。直筆譜の資料は、村上氏のご厚意により掲載しております。
小節 楽器 変更点 備考
[1]-1 Pft. 下段 4,5,6 拍目最高音が D→E になっている 新版のミス。D が正しい。
[3]-1 木管、
2.3 Tr.
1,4,7,9 番目の音に山型アクセント(^) の付加
3 Trbn. cersc. の位置を 3 つ目から 4 つ目の音に移動
[3] Fl. (ff) を付加
Tamb. picc. スタッカートがなくなる
[3]+2,3,4,5 Fl. 他木管 8 分音符にスタッカートを付加 (全ての音価を 16 分にする)
[3]+5 3 Trbn. f に marc. を付加
[3]+7 Fg. [f] を付加
2 Trbn. f を追加
[4]-4 Cb. 最後の音 E→F に変更
[4] 3 Trbn. f を追加
[5]-5 1 Tr. スラーの掛かり始めは 3 つ目の音から
[5]-4 弦楽器 p を sub. p に変更
[5]-1 Tamb. gr.  8 分音符の刻みから付点2分音符のトレモロに変更
[5] 2 Fg. 最後の音 A→As に変更
[5]+2 2 Fg. 旧版は小節の最後のハ音記号の位置がおかしい
[5]+3 2 Fg. 最初の音 Ces→B (変ロ) に変更
Vla. Vlc. Cb. sf と f の間に sff のようにディミヌエンド追加
[5]+5 2 Fl. 3 つ目の音を G→Ges に変更  新版のミスプリ。旧版の G (natural) が正しいと思う。
ミスかどうか結論が出なかったそうです。
Trbn. p 追加 (Tb. と一緒になる)
Tamb.gr. tr は次の小節に繋がらない
[5]+8 2 Cl. (re) 5 つ目の音  旧版、新版ともに D だが  Des が正しい
1 Cl. 6 つ目の音 D→Des に変更
[6]-1 の段 Trbn. 旧版 Trbn. はプリントミス。Tb.が正しい
[6]+3 Timp. meno f を追加
[6]+7 速度表記 発想記号 Energico を追加
[7]-3 Vla. 最初の音に ^ アクセントを付加
Vlc., Cb. sfmp の間にディミヌエンドを追加
[7]-1 Vla. 最初の音に ^ アクセント、最後の音にスタッカートを付加
Vlc., Cb. sfmf の間にディミヌエンドを追加
[7]+4 1 Ob.  1 つ目の音のアクセントを削除 タイで繋がる最後の音だし
[8]+6 Cassa gr. 2 つ目の音にアクセントを付加
[9]+3〜5 3 Fg. スタッカートを付加
[10]+5 1.2 Cl. 最後の音に ^ アクセントを追加
[10]+8 1.2 Cl. 2 つ目の音に [cresc.] を追加
[10]+10 1.2 Cor. f の後のクレシェンドを削除
[11]-3 Vl. I. II. sul IV の指示を付加
[11]-1 3 Cor. 最後の音にタイを追加。次の小節の f は削除
1 Tr. 次の小節の音へのタイとディミヌエンドは削除 2.Tr. はそのまま
[11]
Trbn. ダイナミクスが fmf へ変更
[11]+3 1.2 Tr.  p からデクレッシェンドして最後が mf になるのが疑問。(旧版も同様)
旧版のミスがそのまま残ってしまったと確認されました。次回削除されます。
[12]+2 Cor.ingl. スラーを付加
Cor. f > psf > p に変更 (ディミヌエンドの範囲も違う)
[12]+3 Cassa gr. ダイナミクスが mfp へ変更
[12]+4 2.4 Cor. 4 つ目(6拍目)の音から旧版は a 2 の指示だが新版では 4 Cor. は休みになっている。次の小節の頭の ^ アクセントが新版では無くなっている。
1 Ob., Fg. cresc. の位置が次の小節の頭に移動
[12]+5 Ob., Fg., Cor. 7 拍目(最後の音)の f は削除
2.4 Cor. 冒頭の ^ アクセントは削除
Cassa gr. クレッシェンドを付加
[12]+6 ([B]) 1 Ob. 1 つ目の音 Fis を  F (nat.) に変更
Cor. concert version の音符、4分音符が8分音符+8分休符へ変更
Trbn. fsf に変更
Vla. sfff に変更
[12]+8,9 3 Trbn. Tb. 3 Trbn. と Tb. が反対になる。新版では Tb. が休み、旧版では 3 Trbn. が休み。
[13] 1 Cl. cantabile を付加
1 Cl.
Cl. b.
colla parte (伴奏は旋律のリズム・テンポに従う) の指示が 1 Cl. に付いているように見えるのを、Cl. b. になるよう修正
[13]+6 Vlc. アクセント > を付ける
[14]-1 Vlc. 空白の小節を前後と同じ音で埋める
[14]+5 1 Cl. 小節の最後に区切り記号 | を追加
[15]-2 1 Cl. 最初の音に f を付加
[15] Vlc. アクセント > を付ける
[15]+3 2 Cl. 最初の音に mf を付加
[15]+4 Vlc. ア クセント > を付ける
[16]+4 Trbn. 最初の音に cresc. を追加
Timp. cresc. を最初の音から 2 つめの音に移動
[16]+6 Fg. 小節頭の 8 分休符の抜けを補う
[17]-1 小節の最後に , (区切り) を付加
[17] 2 Trbn. ^ アクセントを追加
3 Trbn.
Trbn. のグリッサンドで、3 Trbn. のポジションの指示がおかしい。→これは現代の B/F 管のトロンボーンではなく、F バス、今でいうコントラバス・トロンボーンを前提として書かれているため。あえて修正はされてない。
[18]+7 1 Ob. 2 つ目の音から 4 つ目の音へのスラーは 5 つ目の音までに変更
[19]-2 速度表記 Quasi a tempo に (tranquillo) を追加
[19]-1 1 Ob. 3 拍目の sf を削除
1 Trbn. 3 拍目に sf を付加
[19]+4 2 Fl. sf& nbsp;を削除
[20]-1 Ob., Cl. 小節全体にディミヌエンドを付加
1.2 Fg. 5 拍目の音を 4 拍目に移動 (f は削除) 旧版では 5 拍目に音があるが、この小節には 4 拍分の音しか書かれてない。旧版の明らかなミスプリ。録音では 4 拍目に聞こえるので、スタディ・スコアのミスかもしれない。
Vlc. 4 拍目の裏からの旋律が 2 soli から solo に変更、次の小節で 2 soli になる。
[20] 2 Cl. 1つ目の音のスタッカートを削除
1.2 Fg. 4 拍目の音から a 3 になる 旧版は [20]+4 から a 3
[20]+2 Pft. Vlc. (2 soli) 以外の弦 3 拍目以降にクレッシェンドを付加
[20]+3 速度表記 Piu mosso, 四分 = 72-76 を追加 それまで Lento 四分 = 58 だったので、ここで早くなる
[20]+4 3 Trbn. 4 拍目の 8 分休符の抜けを補う
Vl. II 最初の音に p を付加
[20]+5 Cor. 最初の音の cresc. を削除
[20]+5,6 2.4 Cor. クレッシェンドを付加 (1.3 Cor. と同じように)
[20]+6 2 Ob. f& nbsp;の後に cresc. 追加
1 Trbn. 1-2, 3-4 拍目にクレッシェンドを付加
[21]-1 Fg. 最初の音に ff を付加
2.4 Cor. 最初の音に f を付加
[22]-6 1 Fl., 1.3 Cl. 4 つ目の音からディミヌエンドを付加、次の小節で f
[22]-4 Timp. 最初の音に dim. を付加
[22] 速度表記 Sostenuto, 四分 = 80 を追加
[22]+2 1 Cl. cantabile を付加
[23]-3 1.2 Cl. sf の前に p を追加
Cl.b. 3 つ目の音に pp を付加
[23]-2 2 Cl. 最初の音の sf は削除
[23]+4 2 Cl. 最初の音に ^ アクセントを付加
1.2 Cl. 2 つ目の音は F(ナチュラル) を F# に変更
[23]+5 Pft. 最初の音に p を付加
Cb. 旧版フラジオレットの付け忘れ
[24]+3 1.2 Cl. 最初の音の (f) を sf に変更
[24]+4 1.2 Cl. 最初の音に p を付加
Pft. f から小節の最後までディミヌエンドを付加
[24]+5 Cl.b. 3 拍目の音に solo 追加
[25]-3 速度表記 2 拍目に poco accel. _  _ 、次の小節の最初に Allegretto, 四分=138 を追加
[25]+6 1 Ob. dolce を追加
[27] Vl. I 小節の最初に p を追加
Cb. con sord. を senza sord. に変更
[28]-2 Vlc. ppppp に変更
[29]-2 1 Cor. 次の小節へのタイが無くなる  新版のミスプリ?
手稿はこのようになっているそうです。
[32]-6 Arpa. 音にタイが付いてない
[32]-4 Cor. クレッシェンドの位置が 2 つ目の音から 1 つ目の音に移動
[32]-1 2 Ob. 2 分音符のみで、次の小節は休み 音の長さが 3 拍分から 2 拍分になる。
1 Cl. スラーが 4 つ目の音に掛からなくなる
[32]+1 Vl. I リズムが 3 連符型でなくなっている (譜例)
[33]-3 1 Cl. 最初の音の ^ アクセントを削除
[33]-2 Ob. ダイナミクスを fmf に変更
[33]-1 2 Cor. 3 拍目からの C 音は繋げて、全音符に変更 旧版の付点 2 分音符は明らかな間違い。
Pf.下段 新版 2, 3 拍目に 4 分休符が抜けている。このままでは数えられない。
問題はありますが、黙認することになったそうです。
[33] 1 Cl. 最後の音にテヌートを付加
[33]+2 1,2 Cl. mfp に変更、2 Cl. は p からクレッシェンドを付加
[33]+3 1,2 Fl. それぞれ最初の音に cresc. を付加
[34]+6 Pft. 3 拍目の裏、グリッサンドの開始の音 H→F に変更
[35] Trbn., Tb. 最初の音に mp を付加
[35]+2 Timp. 不可解な 1 小節のロールの中断は新版でも同じ。演奏会版のための校訂でこのようになった。次の小節で # と tr を書き足しているので、不注意で落ちたわけではないとされている。
[36]-3 3 Cor. 3 つ目の音に p を付加
1 Fg. 不必要なへ音記号とハ音記号を削除 F-E ではなく C-H が正しい
[36]-2 1 Tr. 最高音 E は 16 分音符 2 つではなく 8 分音符 1 つに変更
[36]+1,2,3 3 Trbn., Tb. 入れ替わる (3 Trbn. がグリッサンドを吹く) 旧スタディのミスかとも思いましたが、録音を聴くとチューバがグリッサンド頑張っています。
MandarinMS36.jpg
[36] の 2 小節前(自筆譜)
上段 1 Tr. (I Trombe) ↑ の箇所は 16 分音符の刻みではなく、明らかに 8 分音符。
最下段 3 Trbn., Tb. (Tromboni III. e Tuba) 見にくいですが、上は "Tuba →" 、下は "senza sord. III. Tromb. →" と指示されており、グリッサンドは  3 Trbn. であることが判ります。
[36]+4 Vl. I II div を (non div.) に変更
[36]+5 3 Trbn.,  Tb. 3 拍目の音の ff を削除  そもそも ff なので無くても問題ない。
1 Ott. 新版、最初の音の a 2 は間違い。
次回削除して頂けるそうです。
Cin. a 2 を補う
[36]+6 Ott. fff から f へのディミヌエンドを付加
[36]+6〜8 Timp. ディミヌエンドの終わりは pp でなく p
[36]+7 Cor. ^ アクセントの付け忘れを修正
1 2 Trbn. 次の小節とタイで繋がる (次の小節の ^ アクセントと sfff は削除)
[37]-3 Cor. ^ アクセントは削除
[37]+4 1 2 Cor. ダイナミクスを mfp に変更
[38]-2 Vc. 最初の音、フラットが抜けているのを補う A ではなく As が正しい
[39] 1 Fl. mfp に変更
1 2 Cor. con sord. を付加
[39]+2 1 Fl. 最初の音の mf を削除 つまここの Fl.ソロは全体にダイナミクスを落とす。
[39]+3 1 Cl. leggiero を追加
[40]-2 1 2 Cor. 全音符で As と C を追加 旧スタディのミス
[41]-2〜1 Vlc. Cb. 全ての音の > アクセントを削除
[41]+2 Pft. p を追加
[41]+4 Arpa. f を追加
Vc.  1 つめの音のアーティキレーション テヌート・スタッカートをテヌートに変更。開放弦の指示も追加。新版はダイナミクス (f) がない。 恐らく開放弦の指示をスタッカートと読み間違えた。
[42]-2 Ott. 5 連符と次の音までスラーを付加 はっきりタンギングを入れている演奏も多い部分。
[42]+2 Pft. 3 拍子なのに 4 拍子分音符がある。(4 拍子で数えて) 3 拍目の E は削除。 つまり最初の F のみになる。
Vl. I 3 soli を追加 旧版は tutti
[42]+2,5 Vlc. p > pp のダイナミクス指示を削除 Vla. の指示を Vlc. にも付けてしまった。
[43]-3 1 Ob. 5 連符を 6 連符に変更 (最後の 6 こ目は休符)
[43] Pft. f marcato を付加
[43]+2 3 Trbn. con sord. を付加
[43]+4 Ob., 1 2 Cl., Trgl., Cin. p を削除
関連記事を検索: Universal Edition バルトーク 中国の不思議な役人

2006年8月24日 16:14

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