« バルトーク《かかし王子》組曲フルスコア新版 | カバーページ
バルトーク:弦楽四重奏曲第 3 番 コルレーニョの怪
先日、フンガロトン新バルトーク全集の目玉となる、ミクロコスモス Q. の弦楽四重奏曲全集を聴いておりました。第 3 番を聴いていて驚きました。第 2 部はコルレーニョが都合 3 回出てくるのですが、そのどれも普通に (コルレーニョなしで) 弾いているではありませんか。なんだこれは?!と、これは新しい研究成果なのかと、慌ててペーテル・バルトークさんへ聞いてみました。そして同様なことをしている演奏が他にもあったのか、手持ちの CD で確認してみました。
第 3 弦楽四重奏曲第 2 部のコルレーニョは、具体的には [22]+4, [25]+4, [35]+9 の 3 箇所にあります。第 2 部から約 2分20秒前後にまず 2 回、3分40秒過ぎにもう 1 回演奏されます。
ちなみにコルレーニョとは、弓の木の側で弦を叩く奏法で、乾いた音でカカカとかチチチとかいう音がします。一番有名な使用例は、ホルスト《惑星》の「火星」冒頭でしょう。ついでにスピカートという奏法もあって、これは弓を弦を叩き付けるようにして弾ませるように細かく音を出す奏法です。アルコは普通に弓を使って演奏することです。
ペーテルさんからの返信は「出版譜も父の自筆譜もこの 3 箇所全てがコルレーニョになっている。私が録音したニュー・ミュージック四重奏団での演奏もコルレーニョだ。作曲家の意図は明らかなのに、なぜどこの誰かが違った風に演奏するのか私には判らない」というものでした。つまりそういう資料があるわけではなく、あくまでも演奏者の独断であるということです。
さて、結論は見えましたが、他の演奏も確認してみるとミクロコスモス Q. だけが特殊なことをしている訳ではないことが判ってきました。で、どの団体が最初に改変を行ったか、私が持っている CD を調べて録音順に並べてみました。(録音年が判らないものは、全集完成年としました。)
| ニュー・ミュージック Q. | nothing particular(問題なし) |
| ジュリアード SQ. ('50) | n.p. |
| ヴェーグ Q. ('54) | n.p. |
| ラモー Q. ('57) | n.p. |
| ファイン・アーツ Q. ('59) | n.p. |
| ハンガリー SQ. ('61) | n.p. |
| ジュリアード SQ. ('63) | n.p. |
| ノヴァーク Q. ('65) | n.p. |
| タートライ Q. ('66) | スピカートっぽい |
| ヴェーグ Q. ('72) | スピカートまじり |
| 東京 SQ. ('79) | スピカート (3 回目は微妙にコルレーニョ) |
| ジュリアード SQ. ('81) | 2 回目はスピカート 3 回目は折衷 |
| タカーチ Q. ('83) | n.p. |
| アルバン・ベルク Q. ('86) | 3 回とも強いスピカート |
| エマーソン Q. ('88) | 3 回目はアルコ |
| チリンギリアン Q. ('88) | n.p. |
| バルトーク Q. ('91) | n.p. |
| ニュー・ブダペスト Q. ('92) | n.p. |
| 東京 SQ. ('93) | やや微妙にスピカートまじり |
| ケラー Q. ('94) | n.p. |
| ハーゲン Q. ('95) | 3 回目チェロだけアルコ |
| アマティ Q. ('95) | スピカートまじり |
| タカーチ Q. ('96) | n.p. |
| タカーチ Q. ('98)[DVD] | n.p. |
| ヴェルターヴォ SQ. ('00) | n.p. |
| ルビン Q. ('03) | 最初 2 回はアルコ、最後はスピカート |
| フェルメール Q. ('04) | n.p. |
| ペンデレツキ Q. (C '05) | n.p. |
| ベルチャ Q. ('07) | n.p. |
| ミクロコスモス SQ. ('08) | 3回ともアルコ |
CD での演奏史的には、バルトーク大全集にも収録されたタートライ Q. のあたりから、コルレーニョ以外の演奏方法が混じってきたようです。そして、有名録音が意外にも脱コルレーニョ化していて驚きました。確かにコルレーニョだとあまり音量が出ないので、曲の盛り上がってきた部分でぽっかりと穴が空いたようになる危険性があります (特に 3 回目)。また弓が痛むのでコルレーニョを嫌う奏者もいます。スピカートでも、叩き方によっては弓の毛と木の両方を当てることが出来るので、コルレーニョの効果を出しつつ物足りなさも感じさせない演奏が可能で、そういう演奏は多かったです(スピカートっぽい/まじりと書いたもの)。しかし明らかに木の部分を当てないスピカートだけの演奏 (アルバン・ベルク Q.) もありました。これはちょっと問題ありになってきます。ハーゲンのは、コルレーニョとアルコを間違えちゃったようなアクシデントのようにも聴こえますので「?」です。そして完全にアルコになっているもの (ルビン Q. とミクロコスモス Q.) 、これはもうアウトでしょう。ミクロコスモス Q. などレガートで弾いているほどですから。
バルトーク大全集のタートライで原典からの逸脱を見せ、新大全集のミクロコスモス Q. で完全に無視してしまう。フンガロトンなだけにそれが権威のように受け取られないか心配です。いずれにせよコルレーニョ以外は楽譜上は間違いです。しかし演奏の優劣を決める要素ではないと考えるので、単なるうんちくのひとつとして( ´_ゝ`)フーン程度に受け止めて下さいまし。
2010年1月 8日 00:19
この記事はどうでしたか? Bad ← 1 2 3 4 5 → Good
評定平均:(3.1) 投票人数:(75)
« バルトーク《かかし王子》組曲フルスコア新版 | カバーページ
トラックバック
トラックバックスパム防止のため、末尾の XXXXXXXXX 部分を上記画像の数字に置き換えてからご利用ください。お手数ですがご協力よろしくお願いいたします。
トラックバックが反映するまで時間がかかるかもしれませんし、エラーが出ても受け取れているかもしれません。重複トラックバックはこちらで削除しますので、特にコメントは不要です。

コメントがありましたらどうぞ
メールアドレス・URL は必須ではありません。コメントは管理者が承認してからページに反映されます。 もしページへの表示を望まない場合は、その旨一筆添えて下さい。削除は管理者へ依頼して下さい。