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バルトーク《かかし王子》組曲フルスコア新版

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 バルトークの《かかし王子》には舞台上演用全曲版と 2 つの組曲版 (大組曲、小組曲)の 3 種類がいままでありましたが、組曲版のスコアは現在まで未出版でした。それがようやくバルトーク・レコードより出版されました。

 スコアの解説には、組曲は 3 種類あることが示唆されます。1924年版、1931年版、1932年版です。1924年版はいわゆる小組曲で、これはほぼ演奏される機会はありません(知っている限り、フンガロトンのバルトーク大全集に収録されるのみ)。1931年版と1932年版とはどの程度違うのかは定かではありませんが、一般的に聴かれる大組曲は 1932年版を基にしているのではないかと思われます。大組曲には 1932年に行われた全曲版のカットが含まれているからです。この新版も 1932 年版を基にしています。そしてこのスコアを見ながら大組曲を聴いた限りでは、一致していました。なので全く新しい第 3 の版が出てきたと身構える必要はありません。但し「序文」に書いてあるような編集は行われており、これはペーテルさんらが行った試演で明らかになったものです。そう言う点では、実用譜として十分検討されています。

 コンピュータ・タイプセッティングは恐らく《中国の不思議な役人》新版を作った人達の手によるものと思われ、とても綺麗で見やすくなっています。ユニバーサルから出せなくなったのがとても残念(様々な問題があり仲違いしたとの事)。A4版ハードカヴァーなので、フィルハーモニア版で出るよりも見やすいことは確かですが、一般的な流通経路に乗らないのが勿体ない。Bartók Records より直接買ってあげて下さい。

では「序文」の翻訳をお送りします。


序文 ペーテル・バルトーク

 ベーラ・バルトークは作品が一通り完成した後に、度々改訂作業を行っており、その多くは作品のエンディング部分の改訂であった。《管弦楽のための協奏曲》や《(第2) ヴァイオリン協奏曲》は別のエンディングで出版された後に改訂している。歌劇《青ひげ公の城》の終幕部分やパントマイム《中国の不思議な役人》は、作曲が完了した後に書き換えられた。だがバレエ《かかし王子》(ハンガリー語のタイトルからより正確に翻訳すると "木より彫り出された王子" となる) は、恐らく他のバルトーク作品よりも多くの改訂作業を経ており、作曲者は全曲スコアから組曲版を生み出す過程でとても多くの問題を抱えていたと思われる。

 《かかし王子》の全曲スコアの改訂と、演奏会組曲の作成についての論議は György Kroó の "Két máig kiadatlan Bartók partitúra - A Fából faragott királyfi szvit változatainak története" (「現在未出版のバルトークの 2 つのスコア - 複数の木彫りの王子組曲の歴史」) Magyar Zene, 1969/I でされている。

 それによると、作曲者は短い演奏会版を 1924 年に既に作成しており、出版社ユニバーサル・エディションへ提出している。だが、その理由は不明だが、このスコアは出版されなかった。おそらく作曲者はこの結果に全く満足できず 1931 年に別の演奏会版を編纂し演奏もしている。だがこれも未出版のままで、演奏に使ったパート譜も後に失われる。

 1932 年にもベーラ・バルトークは《かかし王子》に注力し、全曲版の広範囲な改訂と組曲版の設計書を生み出した。全曲版の改訂は、数多くの要約という形で成された。いくつもの細かい部分がカットされ、カットされた部分は大抵繰り返されている部分だった。どうやらその目的は、作品をより簡明にしたかったらしい。カットはスコアにあまり目立たない変更を必要とした。全曲スコアの改訂指示は 1932 年 7 月にユニバーサル・エディションに送られた。

Ich bitte Sie aber, das Werk künftig nur in dieser gekürzten Form hinzugeben. Musikalisch, aber insbesonders was die Bühnenmässigkeit anbelangt, bedeuten diese Striche unbedingt eine Vervollkommung.

 したがって、今後この作品は、短縮バージョンでのみ演奏されるべきである。要約はあくまでも音楽的な要請である。だが明らかに舞台にとっても相応しいものであり、紛れもなく改良である。(ユニバーサル・エディションへの手紙、1932 年 7 月 1 日)

 またさらに同じ月、作曲者はユニバーサル・エディションへ演奏会版の設計書も提出している。この組曲は 1924 年に作られたものより長くなる予定で、組曲用に書き直されたエンディングを使用する代わりに、全曲版の開始部と終結部で用いられている「夜明け」と「回帰」のテーマがそのまま開始部と終結部で用いられることになっていた。

 作曲者と出版社との書簡からは、なぜ改訂版の全曲スコアだけでなく最新の演奏会版組曲までもが作曲者の生前に出版されなかったのかは、明らかにならない。しかしながら、作曲者自身が持っていた全曲スコアの初版譜にある削除のチェック (これは出版社へ送った短縮箇所のリストと一致する) には、そのカットの指示の上に "marad" (ハンガリー語の「留める」) という語があるのを見て取れる。つまり、改訂版スコアの出版が遅れているうちに、作曲者はいくつかの短縮について新たなる考えを持っていたようなのだ。

 全曲スコアの改訂リストと、演奏会用組曲の設計書はともに透明紙にインディア・インクで書かれている。これは作品の最終稿に普段使っているもので、光に透かすことで簡単に複製を作れるためだ。第二次世界大戦が始まった直後、作曲者がアメリカ合衆国へ旅立つとき、作品の大多数の最終稿は彼と共に、あるいは先立つように送られた。この荷物の中に、上記《かかし王子》の改訂リストと演奏会用組曲の設計書が含まれていた。双方の文書 (これには全曲スコアの数小節を置き換えた部分の短い総譜と、演奏会用組曲のセクション間の推移パッセージなどの楽譜が含まれていた) はそのまま日の目を見ることなく埋もれ、作曲者の遺産管財人によっても出版に向けた努力はなされなかった。

 我々はもう 2 種類の古い演奏会用組曲を知っているものの、この最新のものが作曲者の最終的な考えであると信じている。一番最初の組曲で完全に満足できていたなら、第 2 第 3 の組曲を準備することはなかっただろう。3 種類のうちで 1932 年版は、正式な方法で書き残されている事や、戦時中に他の手稿譜とともに大切に合衆国へ運ばれた事実からして、最終的なものであったという判断に耐えうる。そしてこの時が作曲者の注意が作品に向けられた最後の機会であった (ブダペストに残してきたスコアにのみ記された、短縮に関する僅かな書き込みを例外として)。

 当版はこの最終的な演奏会用組曲に基づいたものである。これは 1924 年に作られた最初の組曲を否定した結果と解釈されるべきではない。最初の組曲はさらに短く、特別に作曲された終結部が含まれている。だが作曲者の最終的なバージョンを現在の時点では優先した。組曲版と平行して、1932 年の改訂を含む舞台上演用全曲版もまた出版されている (訳注:2009年末現在はまだ未出版)。

 演奏会用組曲だけでなく、全曲版においても作曲者の指示に従った。但し、作曲者の持っていた全曲スコアのコピーにあるカットの指示で、その上に "marad" (留める) と書かれたものに関しては、そのカットは行わなかった。例え簡明化のために一度カットすると決定したものであっても、作曲者にはその意思を翻す権利があると信じられるからである。作曲者が後になって残すつもりだったと言うようなものを削除してしまうか、作曲者が一度削除したものの後になって迷っているようなものを残してしまうかの間で我々も悩んだが、例え判断を誤ったとしても音楽が残ることを選択した。

 改訂版の全曲スコアの準備の段階で、初版の練習番号はそのまま残した。短縮によって消えた番号は、改訂版ではスキップされる。組曲版では全曲版の練習番号を使うことは出来ない。組曲版の各部分は全曲版の各シーンを順になぞっている訳ではなく、飛び飛びだったり後戻りしたりもするからだ。全曲版の短縮スコアになされた多くのカットは、作曲者の指示通り組曲版でも踏襲している。

 演奏会用組曲版は 5 つの踊りと序幕と終結部という 7 つのセクションより成っている。組曲の構成は以下の通り (練習番号は全曲版スコアのもの、作曲者が見積もった演奏時間も記した)

1) 序奏部 (Preludium) = (-) から [8]+9 (カットなし), 3'40"
2) 王女 = [8]+10 から [15]+8, 1'53"
3) 森 = [23]+1 から [38]+3 の 1 拍目, 3'35"+
4) 王子の人形作りの歌 (The prince's work song) = [38]+3 の 2 拍目から [38]+7、[52]+4 から [62]+4, 1'40"
5) 小川 = [39]+9 から [50]+2 (プラス 10 小節の移行部), 2'45"+
6) かかし王子の踊り = [89]-6 から [119]+6 (プラス 16 小節の移行部) 3'43"
7) 終結部 (Postludium) = [189]+1 から終わりまで。1'43"
全予想時間: 18'46"(+)

 演奏会用組曲の設計は緻密ではあったものの、いくつかの部分で目立たない程度の修正が必要であった。例えば、最初は 1 本の木管楽器で始まったフレーズが、カットの後では 2 本の楽器がオクターブで重なっていたりした。具体的には組曲版 [68] (全曲版 [109]) の第 1 第 2 フルートのように。この例ではカット部分の前にある 4 つの音にオクターブ下の音を付け加えた。恐らく作曲者はこれらのカットをピアノ編曲版に基づいて行っていたために、このような特徴を見落としたと思われる。

 作曲者は「小川」([41]+5) の前でクラリネット奏者に曲芸をさせなければならなかった。というのもここでは 3 本のクラリネットに A 管が必要であるものの、その直前のセクションでは Bb 管を使っていたからだ。それゆえ、楽器を持ち替えている時間がほとんどなく、さらに 1 本のクラリネットは通常の音域外で演奏する必要が生じた。そこでこの問題を解決するため [36] より順次 A 管に早めに持ち替えさせて行き、[41]+5 には 3 本とも A 管に持ち替えているよう編集による改訂を加えた。

 編集により修正を加えたものは全てこのスコアの巻末のノートで説明している。

 編集作業にあたったネルソン・O・デラマジョーレに感謝する。組曲版を纏めるのに尽力し、楽譜組版の管理と修正をしてくれた。

訳:渡辺純一

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2009年12月24日 23:16

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